永井龍男 著「雀の卵 その他」・・・ | モバイルおやじ@curbのブログ

永井龍男 著「雀の卵 その他」・・・

永井龍男 著「雀の卵 その他」

昭和四十七年十一月二十五日発行

昭和五十一年五月二十五日三刷

新潮社版

 

<目次>

息災

雨が降るまで

とかげの尾

カステラ

襟巻

雀の卵

紅い紐

くちなしの実

胡桃

萩数日

日向と日蔭

 

巻末の”発表誌一覧”には、ここに収められた作品は昭和三十七年から四十七年ころ新潮、文藝春秋、オール読物、群像に掲載されたもので、表題の「雀の卵」は季刊藝術に掲載されたものとある。

 

少し前に永井さんの「石版東京図絵」を読み、その筆致とストーリーの組立の巧さに感動。

それから永井龍男さんの他の作品を探していてこの古書を購入した次第。

 

作品について一言二言・・・

最初の「息災」は、かつて親しくしていた古い友人が今は息子の転勤で姫路におり、彼女の誘いで大阪から泊りがけのつもりでやってきた二人の老婆が、結局その息子の嫁に「今お母さんは心臓の調子が良くないので会えない」と体よくあしらわれて会えずじまいのまま、それでもせっかく来たのだからと西国二十七番札所の円教寺にお詣りしてから大阪に返るはずが、途中山の中で道に迷い、二人は山で一夜を過ごす羽目になり、翌日になって何とか無事助け出されるという話。

お互い老後を息子夫婦と同居して暮らすなかで息子や嫁に気遣う生活を送る心の機微が行間に巧みに描き出されており、ある意味滑稽に語られる反面、読み終わったあと何かが心にのこる作品。

 

表題の「雀の卵」は、母親の遺伝からか、姉と自分に雀斑(そばかす)があり、それがもとで小さい頃イジメにあった思い出が素朴で平坦な文章で綴られているだけなのだが、それでいてなぜか味わい深く読む者の心に染み入ってくるようで、ああこれは「「石版東京図絵」」と同じ雰囲気だと気づかされる。

 

ここに収められた短篇は、どれも全体に素朴な味わいが漂っており、日々のちょっとした出来事や事件を題材にして、それを元に物語を膨らませていくという作家の仕事に触れるような心地がして面白い。

 

Wikipediaをみると、

永井龍男(1904~1990)さんは1976年、72歳の時、村上龍「限りなく透明に近いブルー」に、1977年、73歳の時は池田満寿夫「エーゲ海に捧ぐ」の文学賞受賞に異議を唱えたとある。

 

自らの、文学に対する信念を貫こうとする姿勢に好感がもてます。

 

作家としてのタッチで言えば、例えば志賀直哉(1883~1971)さんの文章を"鉱物的な美しさ"とするなら永井さんの文章からは"植物的な暖かみ"を感じるのは私だけでしょうか・・。

 

永井さんは著作が多いので、また何か選んで読んでみたいですね。