池見酉次郎 著「続・心療内科」人間回復をめざす医学・・・ | モバイルおやじ@curbのブログ

池見酉次郎 著「続・心療内科」人間回復をめざす医学・・・

池見酉次郎(いけみ・ゆうじろう) 著「続・心療内科」

-人間回復をめざす医学-

中公新書 346

1973年12月20日 初版

1999年2月20日 37版

 

かれこれ50年も前に書かれたものですが、その内容は今に通ずるものがあり、全く色褪せていない感じがします。

 

著者の池見酉次郎さんは、1915年(大正4年)生まれ。

1941年に九州大学医学部を卒業後、医局に勤務。

著者の自己開示によれば、元来胃腸が弱く、旧制高校に入ってからさらにその症状は悪化し、胃下垂と診断されたそうです。

その後、自ら断食や玄米療法などを試すも改善せず、ある宗教団体に入ることで克服できた体験から、全ての病は現代医学だけでは治せないと感じ、九大医学部を卒業してからも新たな医学の道を求めていたとのこと。

 

その後、著者がこの道を目指すきっかけになったのは、終戦後になり、アメリカに心身医学なるものがあることを知らされ、昭和25年に初めてアメリカに渡って心身医学の実際に接したからだそうです。

 

やがて昭和35年に自らが中心になって日本精神身体医学会を発足し、その後昭和36年には九大医学部に心身医学の講座を設ける事ができたそうです。

 

この著作は、この前身となる「心療内科」から10年を経て、あらためて心身医学の啓蒙の意味も含んで書かれたもの。

ここでは、"心身一如"の観点から、具体的な治療の実際について詳しく書かれています。

 

ちなみに、九州大学医学部に全国で最初の心療内科が発足した当時は、内科の中にノイローゼ専門の部門ができたと勘違いされ、全国からノイローゼや精神病に属するような人たちが押し寄せたそうです。

それは、ノイローゼの人が精神科を訪れることに抵抗があったことも一因だったとのこと。

 

さて、心療内科を一言で述べると「内科的な病気を心身両面から研究し、治療する科」になります。

 

九大心療内科では神経症は取り扱わず、心身症のうちで内科の領域に属するものだけを取り扱うとのことで、例えば、ヒステリー、不安神経症、強迫神経症、心気症、神経性うつ状態、セネストパチー(体感異常症)などは、原則精神科にお願いするそうです。

 

本の内容が何となくわかるように、以下にに目次を記しておきましょう。

 

<目次>

はしがき

人間不在の医療

 家庭のストレス

 日本人の薬好き

 職場のストレス

 考える医学

病める社会

 両親切断療法

 「学校嫌い」

 中年からの医学

 「下医は病を治し、中医は人を治し、上医は国を治す」

心療内科とは

 心身医学について

 心と体

 心身症とは

 心療内科の現状と将来

 心療内科への誤解

自己分析への道---交流分析

 交流分析とは

 自我状態の分析

 自我状態の病理

 交流分析

 自己統御のポイント

 エゴグラム

 ストローク

 基本的なかまえ

 時間の構造化

 ゲーム分析

 脚本分析

 東洋的な交流分析

 まとめ

自己コントロール

 泣くから悲しい

 リラックス療法の実際

 自律訓練法

 自己浄化法

 人生相談--カウンセリング

 静中の動

 自然に学ぶ

 悟りと全託による治ゆ

 自己コントロールの実際的応用

交流分析と自律訓練法の生理

 脳とPAC

 記憶と感情

 性格は変えられるか

 条件反射について

 分析から総合へ--ヒューマニズムの医学

条件づけからの自己解放

 学習とは

 行動療法とは 

 積極的条件づけ療法

 系統的脱感作療法

 断行反応

 性的反応

 オペラント条件づけ療法

 生体フィードバック法

私と心身医学

 私の十字架

 心身医学に辿りつくまで

 家庭内の葛藤

 無知の知

 三人の「父」

 茨の道

 東洋の光

むすび

  参考書

 

割と薄い本に見えますが、実際の患者に対する治療例も豊富にあげられており、なかなか読み応えがあります。

 

気になった言葉をいくつかメモしておくことにします。

 

「症状の移動」

精神症状から身体症状へ、その逆もあり。

 

「鹿を追うものは山を見ず」

個々の器官の病気をみて、病人を見ていないことですね。

 

「両親切断療法」

小児ぜんそくは、母親たちのゆがんだ育児態度に起因している事が多いそうです。その治療においては、親との接触を一時期絶つことで効果が現れるとのこと。

 

発足当時は精神分析と催眠療法が主体だったとのことですが、現在では交流分析(Transactional analysis)を用いた自己分析が大きな効果を出しているそうです。

TAでは集団療法を通して、患者が主人公となって自己分析を行う手法がとられています。

 

TAでは、人間の成熟に欠くことのできない愛撫、接触、声、音などの生物学的な刺激を"ストローク"と言い、"ストローク"は赤ん坊のときにだけ必要なものではなく、人間は一生これを求めて生きているのも事実です。

ただ、成長するにつれて、肌のふれあいが心のふれあい、例えば人から褒められ、認められる形へと発展していくわけですね。

ただし、ストロークには陽性のストロークと陰性のストロークがあることも忘れてはいけません。

 

「時間の構造化」

それは、時間をプログラム化すること。

自分の時間を適切に構造化できている人は、健康で生きがいを持てる人である・・・。

そのキーワードは・・・

閉鎖

活動、仕事

儀式

気晴らし

親交

ゲーム

この、「時間の構造化」という概念は非常に興味深いですね。

 

最後に、昭和期の教育評論家"重松敬一"氏の次の言葉が記されていて、とても心に残りました。。

「他人である男女が永遠に結び合おうとするのが夫婦であり、血を分けた人間どうしがしだいに分離独立していこうとするのが親子である」

 

今更ながら改めて思うのは、「学びは永遠」だと言うことですね・・・。

 

学びを通して、自らが何者なのかを探し求める旅を"人生"と言うのかもしれません。