Save the Children HPより

 

ACEという言葉を聞いたことがあったり、ググったりしてみたことがあったら、まず思い浮かぶのはスーツケースのブランドではないだろうか。

 

 

実際ググってみたところ、スーツケースのACEが大体トップに数多く出てくる。

それ以外にもAction against Child Exploitation(子どもの搾取に反対する行動)というのが出てくる。

 

しかし、まだ日本ではあまり認知されていないACE(Adverse Childhood Experiencesの略で、和訳は逆境的小児期体験)というものがある。

 

もう去年のことになるが、子どもNPOセンター福岡主催の「子どもフォーラム」に参加した。その時のメインスピーカーが「ACEサバイバー」の著者である三谷はるよさん(龍谷大学社会学部准教授、家族社会学・福祉社会学専門)だった。日本におけるACEの実態とその影響、問題、対策の必要性について研究の成果を発表してくれた。

肥満の背景に子ども期の逆境体験があるという米国の医師の臨床現場での気づきがきっかけになって疫学者との共同研究を経て、欧米ではかなり認知が高まっているが、日本ではまだ認知が低く対策も遅れている状況らしい。

 

そんな中、「令和5年版犯罪白書」で、18歳までの小児期逆境体験(ACE)に関する調査結果が取り上げられたらしく、つい最近それを特集したアベマプライムニュースに三谷さんが出演してACEについて議論していた。

その調査では、18歳までの逆境体験の有無に係る12項目について質問し、1項目以上該当項目があると答えた少年院在院者が女子の場合は94.6パーセント、男子の場合は86.8パーセントにも上ったそうだ。

 

三谷さんによると一般の日本人でも約4割がACEに該当する体験を1つ以上しているとの調査結果が出ているそうだ。

 

逆境体験にはどういうものがあるのか。上記でいう12項目は以下のとおりである。

1)親が亡くなったり離婚したりした

2)家族から殴る蹴るといった体の暴力を受けた

3)家族から心が傷つくような言葉を言われるといった精神的な暴力を受けた

4)母親が父親から暴力を受けていた

5)家庭内にうつになったり心の病気をかかったりしている人がいた

6)家族から十分に気にかけてもらえなかった

7)家庭内に飲酒などアルコールの問題を抱えている人がいた

8)家庭内に自殺を試みた人がいた

9)家庭内に違法薬物を使用している人がいた

10)家族から食事や洗濯、入浴など身の回りの世話をしてもらえなかった

11)家庭内に刑務所に服役している人がいた

12)家族から性的な暴力を受けた

 

私も含め日本人の多くは、まさか自分がACEサバイバーであるなんて認識はないと思う。そもそもACEを知らない人がほとんどだと思う。しかし、12項目のうちひとつくらい経験したことがある人は結構いる気がする。かくいう私も親から体罰を受けたことはあるし、怒りに任せて人格否定にあたるような言葉を言われたことは多々ある。それが自己イメージに大きく影響しているという自覚もある。幼いころの記憶に暗い影を落としていることは確かで、それもあって早々と親元を逃げ出したと言えないこともない。けれど、それを虐待だという受け止め方はしたことはないし、時代の背景もかなりあったと思う。何よりも社会的には成功したと言えるキャリアを全うし自分でもかなり恵まれた境遇だと思える今がある。

 

だから問題を軽視していいというわけではもちろんない。

欧米においても日本においても、研究の結果ACEがトラウマとなり様々な問題をもたらすことが明らかにされている。

・慢性身体疾患や精神疾患をもたらす

・心身の不調をもたらす

・社会経済的困難をもたらす

・未婚や離婚をもたらす

・社会的孤立をもたらす

・世代間連鎖する

 

今必要とされているのは社会がACEの存在を知ること。そして、その体験に苦しんでいる子どもや大人がいることに気づくこと。個人の問題として扱い、個人のせいにするのではなく、社会の問題として対応していく必要がある。生育環境の格差が生涯にわたる様々な格差になっている事実を認識する必要がある。そして、逆境にさらされている子どもたちやかつて逆境にさらされていた大人たちを無視したり差別したりしない社会を作る必要がある。

 

誰にでもACEの体験があり得る。そして、それがトラウマとなっていたり負のスパイラルになっているケースがあり得るということを心にとめて、子どもや大人と接し必要なケアができるようにしていきたい。