「そいつここに入園すんの!?」
勢いよく扉を開け、間髪いれずにそう声を荒げた要くん。
普段なら私が彼をたしなめ、抑えているはずだったが、今日は動く事ができなかった。
「要君。失礼ですよ。
お茶を置いて退室なさい。」
珍しく園長が鋭い言葉と視線を要くんに投げつけた。
一瞬たじろいだ要くんだったが、すぐにムッとした表情を露わにすると、机の上にお茶を乗せたお盆を乱暴に置いた。
そして数歩下がると、まるで出ていく気がないという意思表示をするかのように、壁に寄りかかり腕を組んだ。
私は何も言えないままそっと部屋の中に入り静かに扉を閉めた。
「失礼しました。
ごめんなさいね、結さん。
よく言っておきますから許して頂戴ね。」
園長先生は小さく溜息をついた後、水嶋さんにそう言って謝った。
「いえ。気にしないでください。
私、あんなお子様相手にしませんから!」
にっこりと笑いながら言う水嶋さん。
「てっめ・・・!」
またしても色めき立つ要くん。
今度はなんとか体を動かすことのできた私が、黙ったまま要くんを手で制した。
「・・・ふんっ!」
要君くんは憮然とした表情を浮かべながらなんとか堪えた。
この二人・・・本当に相性が悪い。
でも・・・水嶋さんの心の色・・・昔の要くんと少し似ている気がする。
はっきりとはわからない。
とても複雑な色合いをしているから。
表面をとても薄い色が覆っていて、しかしその中は・・・とても恐ろしい色をしているような・・・。
確信は無かったが、何か得体の知れない感情を抱いているように思えた。
この子は・・・危うい。何とかしてあげなければ大変な事になるかもしれない。
と、園長が口を開く。
「事情はわかりました。
この施設には様々な境遇の子供達が暮らしています。
私たちは日々子供達の傷を癒す為尽力し、彼らの現在を護り未来を切り開くことに全力を注いでおります。
ですのでもちろん・・・私たちは水嶋結さんの入園をお受け致します。」
そう言って微笑んだ園長に思わず私まで見惚れる。
本当にこの人は・・・なんて暖かい色をしているのだろうか。
私の時もそうだったけど、この人の心はいつも暖かいオレンジ色。
まるで太陽のような人だなといつも思わせる。
案の定この一瞬、水嶋さんの心の色にも変化があった。
しかしその色も本当に一瞬で、すぐにもとの危ういそれに戻ってしまった。
「ありがとうございます!
よかったね、結ちゃん。」
高瀬さんが喋った瞬間、また無意識にビクッと体が震えた。
でもその声は心底嬉しそうで、他意を感じさせないものだった。
水嶋さんとどういう関係なんだろうか。
私には関係のないことのはずなのに少し気になった。
「いつから来られますか?」
「えーと、現状あまりいい環境ではないですので、できれば直ぐにでもお願いしたいのですが・・・。」
「そうですか。それならば明日からでも入園できるよう、こちらの準備は整えておきます。」
「ありがとうございます!
私も可能な限り毎日顔をだすようにしますので。」
「・・・高瀬さんは不思議な方ですね。
言い方は悪いですが、結さんとは全くの他人なのですよね。
それなのにそこまで親身になってくださるなんて・・・。」
「え?いえ、僕なんてそんな・・・。
自分の手で何かできることがあるのなら・・・できる限りのことをしたいだけです。
偽善かも知れませんが、そう思ってしまうので仕方ないんです。
・・・もう取り返しのつかない後悔はしたくないから・・・。」
最後にぼそっと呟くように言った一言が妙に気になった。
私たちは席を立ち正門まで見送り、挨拶をした。
別れ際に園長が高瀬さんに伝える。
「今後、ご不明な点やご質問がありましたら私か、こちらの日向さんにお聞きください。
結さんも何かわからないことがあれば遠慮なく聞いて頂戴ね。
日向さんは目が見えません。
御不満や不安に思う点があるかとは思いますが、彼女の事を信じている私を信じて頂けたら幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。」
そう言って園長は深く頭を下げた。
「不満だなんてそんな!全然思ってません!
こちらこそよろしくお願いします。」
高瀬さんも深々と頭を下げた・・・のだと思う。
私は彼がいると思われる空間を見つめる。
「葵ちゃん?」
園長に小声で呼びかけられ我に帰る。
「!どうぞよろしくお願い致します。」
慌てて頭を下げる。
私はこれから高瀬さんと関わりを持っていくんだ。
不安と期待が複雑に入り混じった様な、感じた事のない不思議な感覚に私は包まれていた。