太陽が待ち侘びたかのようにその姿を見せはじめた時、僕は一人電車に揺られ車窓から流れる風景を眺めていた。
それはいつも見ている無機質な都会の景色ではなかった。
陽光に照らされ青々と輝く木々、溢れんばかりの生を感じさせる田園、瓦屋根の民家の庭先に干してある洗濯もの、目に飛び込んで来るすべてのものが少し疲れていた僕の心を癒してくれた。
僕は今、十数年帰っていなかった実家へと向かっている。
それ程まで帰省しなかったことに何か理由があったわけではなく、ただ日々が忙しくて、立ち止まることなく駆け足で今日まで生きてきたから。
そして今日突然帰省していることにも特別理由があるわけではなく、強いて理由をつけるとしたら懐かしさに焦がれて、といったところだろうか。
ぼんやりと故郷に思いを馳せていると、車内に乗り換え案内のアナウンスが流れた。
電車が駅に着き停車すると、僕は乗り換えの為下車する。
ローカル線のホームへと行き次の電車の時刻を確認してみると、まだ30分以上もあった。
1時間に数本しか運行してなかったっけ・・・ほんとに田舎だったんだなぁ。
思わずくすっと笑ってしまった。
ホームに設置してあるベンチに腰掛け、何をするわけでもなく電車を待つ。
太陽は大分高くなり、積乱雲が夏の空を見事に演出していた。
日陰で待っているにも関わらずじっとりと汗ばんでいく肌。
今年も夏がやってきたんだなぁと改めて感じた。
そういえばこの駅って・・・
うだるような暑さの中でうっすらと甦る記憶。
高校生の時好きだった女の子・・・
勇気を振り絞り、とても格好よいとは言えない告白をした場所。
彼女は恥ずかしそうに俯きながら僕の気持ちを受け入れてくれたんだっけ。
そうだ。
付き合うことになってからは、この駅で彼女と待ち合わせて学校に行って、帰りもこの駅まで一緒に帰ったんだ。
懐かしいなぁ・・・
今どうしてるのかな。
ふとそんなことを思う。
遠方の大学へと進学した僕は後輩だった彼女と遠距離恋愛になり、いつのまにか自然消滅してしまった。
少し切ない思い出を、いつのまにか目を閉じて鮮明に思いだそうとしていた。
どれくらいそうしていただろうか。
暑さと人気の無さで時間の感覚が希薄になる。
ふと隣に人の気配がしたので視線だけをちらっと横に向けると、そこにはいつのまにか女性が一人座っていた。
相変わらずホームは閑散としており、いくらでも空いてるベンチがあるというのにどうしてわざわざ僕の隣に座るのだろうか。
まぁいいか。
気にせず再び思い出に浸ろうとしたときだった。
戻そうとした視線がその女性の口元を捉えた。
唇の右下にホクロ・・・
そういえば彼女の口元にもあったなぁ・・・ホクロ。
まさか・・・ね。
そう思いつつももう一度だけ、隣の女性の横顔をチラリと見た。
小柄な体型に肩甲骨あたりまでの長さの黒髪。
透き通るような白い肌に、小さくて形の良い唇。
綺麗な女性だな。
素直にそう思えた。
彼女なのかどうかなんてわからなかったが、なんだか少し・・・似てるような気がした。
思わず見とれてしまい、慌てて視線を正面に戻した。
年甲斐もなく胸を高鳴らせている自分が恥ずかしくなり、なんだか落ち着かなかった。
思い切って聞いてみようか。
いやいや。そんなことしてみろ。
思いっきり不審がられるだろう。
そうこうしているうちに、ようやくホームに電車がやってきた。
隣の女性は立ち上がると扉に向かって歩きだした。
僕は・・・ぼんやりとその女性の後ろ姿を見つめていた。
この電車に乗らなければまた数十分次の電車を待たなければならないのに。
何故か足が動かなかった。
その時だった。
おもむろに女性が振り向き、彼女の後ろ姿を見つめていた僕と目が合った。
視線が絡み合う。
一瞬のことだったのだろうが、とても長い時間に感じた。
女性は車両に乗り込み、すぐに電車は発車した。
僕はしばらくぼけっと彼女が立っていた空間を眺めていた。
「あ、電車・・・」
まぁいいか。
急ぐ旅でもない。
なんだか振り返った彼女は微笑んでいたような気がした。
気のせいかな。
僕は眼前に拡がる田舎の風景をしばらく見渡した後、再び瞼を閉じ、懐かしい記憶に思いを巡らし始めた。
それはいつも見ている無機質な都会の景色ではなかった。
陽光に照らされ青々と輝く木々、溢れんばかりの生を感じさせる田園、瓦屋根の民家の庭先に干してある洗濯もの、目に飛び込んで来るすべてのものが少し疲れていた僕の心を癒してくれた。
僕は今、十数年帰っていなかった実家へと向かっている。
それ程まで帰省しなかったことに何か理由があったわけではなく、ただ日々が忙しくて、立ち止まることなく駆け足で今日まで生きてきたから。
そして今日突然帰省していることにも特別理由があるわけではなく、強いて理由をつけるとしたら懐かしさに焦がれて、といったところだろうか。
ぼんやりと故郷に思いを馳せていると、車内に乗り換え案内のアナウンスが流れた。
電車が駅に着き停車すると、僕は乗り換えの為下車する。
ローカル線のホームへと行き次の電車の時刻を確認してみると、まだ30分以上もあった。
1時間に数本しか運行してなかったっけ・・・ほんとに田舎だったんだなぁ。
思わずくすっと笑ってしまった。
ホームに設置してあるベンチに腰掛け、何をするわけでもなく電車を待つ。
太陽は大分高くなり、積乱雲が夏の空を見事に演出していた。
日陰で待っているにも関わらずじっとりと汗ばんでいく肌。
今年も夏がやってきたんだなぁと改めて感じた。
そういえばこの駅って・・・
うだるような暑さの中でうっすらと甦る記憶。
高校生の時好きだった女の子・・・
勇気を振り絞り、とても格好よいとは言えない告白をした場所。
彼女は恥ずかしそうに俯きながら僕の気持ちを受け入れてくれたんだっけ。
そうだ。
付き合うことになってからは、この駅で彼女と待ち合わせて学校に行って、帰りもこの駅まで一緒に帰ったんだ。
懐かしいなぁ・・・
今どうしてるのかな。
ふとそんなことを思う。
遠方の大学へと進学した僕は後輩だった彼女と遠距離恋愛になり、いつのまにか自然消滅してしまった。
少し切ない思い出を、いつのまにか目を閉じて鮮明に思いだそうとしていた。
どれくらいそうしていただろうか。
暑さと人気の無さで時間の感覚が希薄になる。
ふと隣に人の気配がしたので視線だけをちらっと横に向けると、そこにはいつのまにか女性が一人座っていた。
相変わらずホームは閑散としており、いくらでも空いてるベンチがあるというのにどうしてわざわざ僕の隣に座るのだろうか。
まぁいいか。
気にせず再び思い出に浸ろうとしたときだった。
戻そうとした視線がその女性の口元を捉えた。
唇の右下にホクロ・・・
そういえば彼女の口元にもあったなぁ・・・ホクロ。
まさか・・・ね。
そう思いつつももう一度だけ、隣の女性の横顔をチラリと見た。
小柄な体型に肩甲骨あたりまでの長さの黒髪。
透き通るような白い肌に、小さくて形の良い唇。
綺麗な女性だな。
素直にそう思えた。
彼女なのかどうかなんてわからなかったが、なんだか少し・・・似てるような気がした。
思わず見とれてしまい、慌てて視線を正面に戻した。
年甲斐もなく胸を高鳴らせている自分が恥ずかしくなり、なんだか落ち着かなかった。
思い切って聞いてみようか。
いやいや。そんなことしてみろ。
思いっきり不審がられるだろう。
そうこうしているうちに、ようやくホームに電車がやってきた。
隣の女性は立ち上がると扉に向かって歩きだした。
僕は・・・ぼんやりとその女性の後ろ姿を見つめていた。
この電車に乗らなければまた数十分次の電車を待たなければならないのに。
何故か足が動かなかった。
その時だった。
おもむろに女性が振り向き、彼女の後ろ姿を見つめていた僕と目が合った。
視線が絡み合う。
一瞬のことだったのだろうが、とても長い時間に感じた。
女性は車両に乗り込み、すぐに電車は発車した。
僕はしばらくぼけっと彼女が立っていた空間を眺めていた。
「あ、電車・・・」
まぁいいか。
急ぐ旅でもない。
なんだか振り返った彼女は微笑んでいたような気がした。
気のせいかな。
僕は眼前に拡がる田舎の風景をしばらく見渡した後、再び瞼を閉じ、懐かしい記憶に思いを巡らし始めた。