沙希と再び会う約束をした日を迎えた僕は、様々な想いが胸の中に渦巻いていて少し気分が悪いような気がしていた。
しかし、沙希に会って想いを伝えることに怖気づく事は無かった。
直視できなかった現実から目を背けつづけても何も変わらない。
どれだけ悩もうが、行動しなければ時間が過ぎていくだけ。
僕は弱い。それを認めた上で全ての気持ちを沙希に伝えよう。
あるいは結果として最悪の別れになってしまうのかもしれなかったが、僕は待ち合わせの場所へと向かい始めた。
待ち合わせた場所は前回と同じカフェにしていた。
最期・・・とは言いたくなかったが、もう一度沙希とあのカフェでコーヒーを飲みたかった。
沙希よりも早く着いた僕は、やはりこの前と同じテラス席に通してもらう。
店員に顔を覚えられてるんじゃないだろうか、と少し恥ずかしくなり、顔を伏せ気味にして席に着く。
ふと、そんな風に人の目を気にしたのがひどく久しぶりな気がして、可笑しくなった。
(笑うのってどのくらいぶりなんだろう。
・・・今日僕は沙希を笑って送りだしてあげられるんだろうか。)
ぼうっとしながら、沙希が来るのを待っていると、店内とテラス席を出入りする扉が開いた。
来たかなと椅子に座り直し、視線を扉の方に向ける。
しかし入ってきたのは沙希ではなかった。
二十代前半くらいだろうか、その容姿からは漠然とした年齢しかわからず、自信もなかったが僕よりは年下だろうなと思えた。
特に気になったわけでもなかったのだが、することもなかったので遠目からその姿を眺めていた。
(あれ?目を瞑ってる。目が見えないのかな。)
その女性は確かに目を固く閉ざしていた。
ただ不思議に思ったのは、杖を持っているわけでもないのに、なんの恐れもないように堂々とまるで健常者と同じように歩いていた事だった。
そしてさらに異変に気付く。
女性はまっすぐに僕の座っている席を目指して歩いてきていた。
(え?なんで?席はたくさん空いてるのに・・・。あ、そうか見えてないから僕がいることに気付いてないのかな。)
困惑していると、その女性は誰もいなくて当然と言わんばかりの自然さで、僕の座っている席の向かいの席に腰かけた。
席に着くまで何も声をかけない僕に問題があったのだろうが、初対面の女性と話す事など大の苦手である僕の口は、声をだすことをぎりぎりまで拒否していた。
「あの・・・すいません、ここの席なんですが、連れが来る予定でして・・・。」
さすがにこの席で落ちつかれてしまったら困るので、思い切って声をかけた。
すると、その女性は予想以上に驚き、ガタンッと椅子を倒しながら立ちあがった。
「うそ・・・。どうして・・・?見えなかった・・・。」
一瞬茫然としながら呟いた女性は、すぐにハッと我に返り「ごめんなさい!」とテラス席から走って出て行ってしまった。
どうしても何も目が見えないんだから、見えなくて当然なんじゃないだろうか?
それに走ったら危なくないんだろうか?
しばらく呆気にとられていると、再び出入り口の扉が開いた。
僕の座っている席まで一直線に歩いてきたその人は、今度こそ美希の姿をした沙希だった。
「コーヒー頼みましょうか。」
彼女は微笑みながらそう言うと、静かに腰をおろした。
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