「・・・ごめん。」
生きたくても、もう生きていく事のできない沙希に向かって、自分の事しか考えてないような暴言を吐いてしまった事に後悔の念を抱いた。
「ううん。いいの。弱音でもなんでも全部私に吐きだしてしまって欲しいの。
この先もう私が受け止めてあげる事・・・できなくなってしまうから。」
「やっぱり・・・沙希が存在できる時間には限りがあるんだね。」
「ええ。実際いつまで存在していられるのか、正確な日時は解らないけれど、もうそんなに長くは居られないと思う・・・。」
紅い葉をぼんやりと眺めていた瞳は伏せられ、目の端には光るものが見えた気がした。
予想していた事とは言え、現実に言葉で聞かされると想像以上の衝撃が僕を襲った。
「嫌だ・・・もう嫌だよ。頼むから・・・僕を残して逝かないでよ・・・。
このままだって構わないから。体なんか無くたっていいから。君を感じていられればそれでいいから・・・。
そうだ、僕がこの先ずっと前に進まなければいいじゃないか。
沙希が見守り続けなければ駄目になってしまうような・・・そんな情けない男であり続ければ逝かなくて済むじゃないか。」
必死だった。
恥も外聞も無く、彼女の存在を繋ぎとめておきたくて必死に訴えかけた。
沙希は悲しげな表情で、頭をゆっくりと横に数回振った。
「宗助が、どんな状態だったとしても、私は逝かなければならないわ。
だからこそ私はあなたに前を向いてこの先の人生を歩いて行って欲しい。
宗助の為にも、私自信の為にも。」
「沙希自信の為・・・。」
「そう。
考えてみて。
最愛の人が灰色の世界で生きてると知って、安らかに逝ける?
逝かなければならないのなら、もう大丈夫って安心して逝きたいじゃない?」
解っている。解ってはいるが、沙希が安らかに逝くために笑って「僕は大丈夫」と言える心の強さが僕には無かった。
何より彼女を失いたくない気持ち。しかし逝かなければならないのであれば、安らかに逝かせてあげたいと思う気持ち。
僕の中の葛藤は大きくなり、いくら考えても答えなどでてこないような気がした。
黙り込んでしまった僕に沙希が声をかける。
「そろそろ美希の体に影響を与えてしまうかもしれないから行かなくちゃ・・・。
あまり時間がないなんて言っちゃったけれど、焦って答えをだすような問題じゃないし、もう一度二人で一緒によく考えましょう。
何の連絡もせずにいきなり消えてしまうような事はしないから・・・。」
夜でなく日中に会ってることからして、多少無理して体を借りていたのだろう。
限りある時間なのであれば、少しでも一緒に居たいという気持ちが大きかったが、一人で想いを整理し、まとめる時間が欲しいという気持ちもあったので、座っていたベンチから腰を上げ駅に向かう事にした。
駅に着いたところで、僕はふと既視感を覚えた。
一年前沙希が事故に会った日、駅で別れた時のことを思い出した。
「そいえば、どうして事故に会った日、駅から家まで歩いて帰ったの?バスとかタクシーで帰る様に言われてたんでしょ?」
あの日歩いて帰っていなければ事故に合う事もなかった・・・今更言っても仕方のないことだとは解っていたが、ずっと気になっていた事もあり聞いてみることにした。
「うん。でもあの日は・・・。」
何かを思い出したようで、照れたように顔を俯けた。
「あなたと結婚することが一気に現実味を帯びた日だったでしょ?だから・・・本当に嬉しくて。
その余韻に浸っていたくて。
誰にも邪魔されたくなかったから、一人で歩いて帰りたかったの。」
僕は沙希を力いっぱい抱きしめたいという衝動に駆られた。
「でもこんなことになっちゃって・・・やりきれないよね。
ごめんね、宗助・・・。」
僕も沙希もやり場のない気持ちを抱えながらその日は別れた。
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