新版(2023年5月発売)の変更点・追加部分㉒です。前回は戚容が郎千秋に謝憐を突き出し、剣を渡す場面まで紹介しました。今回紹介する場面は、後半に旧版と同程度の血生臭い描写が多いので、苦手な方はご注意ください。

郎千秋は怒りながら言います。「何?俺を手伝ってるだって?好きにって何だ?何を好きにするんだ?」

 

戚容「好きにすればいい。叩きのめしてもいいし、剣で刺しても良いし、自分がしたいようにやればいいじゃないか。手伝ってるだろ?」

 

郎千秋の鎖が伸ばされ、戚容には届かなくても、謝憐には届く距離になっていたのです。

 

「誰も手伝って欲しいなんて思ってない!お前の手を借りなくても、自分で敵討ちぐらいできるし、お前が人を傷みつける道具にはならない!」

 

戚容は手を叩きながら言います。「はっ!聖人の太子従兄さんの弟子なだけあるな。でも、こんな機会は滅多にないぞ!お前は損はしない。本当に手を出さないのか?」

 

それも本当のことでした。郎千秋は今後、自力で謝憐を捕まえる自信なんてありません。少し考えて、どちらかというと戚容の提案の方が気持ち悪く感じたので、雑にこう言います。「機会があるかないかはお前には関係ない!」

 

戚容はチチチと口を鳴らし、嫌味っぽく「孝行な弟子だなぁ。でもお前が手を出さないからと言って、お前の師匠も手を出さないとは限らないぞ?」

 

謝憐は一瞬心が揺れました。戚容の言葉の意味が分かったのです。ゆっくり戚容の方を向きます。

 

「太子従兄さん、そんな目で見ないでくれよ。そんな目が嫌いなんだ。そんな目で見てたら、言っちゃいけないことも言いそうになるよ」

 

戚容はガチャンと、もう一つの剣を地面に投げます。謝憐は「わかった」と言いながら、石棺を支えに立ちます。

 

「お前が見たいのはこれだろ?」そう言いながら、地面を蹴って飛び上がり、長い剣を郎千秋に向けて言います。

 

「聞いただろ」「何を?」「あいつが戦えって言ってるんだ。じゃあ戦おうじゃないか」

 

郎千秋は「いや俺は...」と言いますが、言い終わらないうちに肩が痛み、頭を下げて見ると、肩から血が出ていました。なんと、謝憐が刺したのです。

 

これで郎千秋も火がつきます。

 

本当は手を出したくなかったのです。

 

理由はたくさんあります。青鬼の思うつぼにはまりたくないのと、他にどういう理由があるのかは自分でもうまく言えません。

 

謝憐が先ほどまでは自分のことを心配していたのに、突然態度が変わったことを不思議に思いましたが、攻撃される一方なのはもちろんあり得ません。その場で剣で反撃し、墓室内には火花が飛び散ります。

 

戚容はそれを見て狂ったように喜び、「いい!それでいい!郎千秋、早くやれ!親孝行なんだって?じゃあいくつか教えてやるよ。この聖人太子兄さんは、まず最初に殺したのは君の母ちゃんだ!君の母ちゃんは美しい女で、死ぬ前に君の師匠の脚を抱えて命乞いをしてたんだ。お前の父ちゃんは、もっと悲惨だぜ。君の母ちゃんの死体を抱えて号泣してたんだ。そこへ謝憐が行って、目の前で死体をぶった斬ったんだ...」

 

郎千秋はもう聞いていられなくなります。戚容が一言言う度に、彼の技もむごさを増していきました。最後、''ぶった斬った''というところまで聞いた時、鎏金殿にあった遺体を思い出したのか、謝憐の喉を掴み掛かります。

 

謝憐は両目が真っ赤になり、喉には激痛が襲い、窒息しそうになりました。遠くから、戚容の狂った笑い声が聞こえてきて、耳元では郎千秋の怒号が聞こえてきます。

 

そうこうしているうちに天地が入れ替わり、背中に衝撃が走りました。郎千秋が彼を石壁に投げつけたのです。

 

謝憐は咳をしながら起き上がり、本能的に身を守ろうとしますが、よく考えると戚容の目的は郎千秋の手を借りて自分を痛めつけることなので、もし戚容の思い通りにならなければ、次はどんなことをしでかすか、わかったものではありません。

 

どうせ殴られても死なないし、郎千秋に殴られたことがないわけでもないので、何百回か殴られながら時間稼ぎをしようと思いました。

 

そう思うと、地面に寝転がり、郎千秋が掴みにかかってくるのを待ちます。ちょうどその時、郎千秋の手の剣が冷たい光を放ったのを見て、それが芳心だと気が付きます。

 

謝憐は突然寒気がします。「ちょっと待って!」

 

郎千秋は気にも留めず、襲いかかってきます。謝憐は転がりながら避けます。なるべく落ち着いているように見せようとしますが、額からは冷や汗が次々と流れ落ちます。「ちょっと待って!」もう一度言いました。

 

「今更助けを乞うのか?もう手遅れだ!」「ちょっと待って!誤解だ。助けを乞うわけじゃない。私にしたいことをしていいし、好きなだけ殴らせるって保証する。だけどこの剣だけは使うな!」謝憐は顔が白くなります。「本当に、この剣を使ったらダメだ!」

 

数歩後ろに下がった時に、鉄の鎖に足元を取られ、郎千秋が喉に掴み掛かります。謝憐は窒息しそうになり、その瞬間突然大きな力が湧いてきて、もがいて剣を奪い、墓室の隅にまで転がります。「止まれ!こっちに来るな!」

 

郎千秋はまた五尺の場所までやってきますが、謝憐は髪を乱しながら言います。「君の手は煩わせない」

そして剣を自分に向け、「自分でやる」と言います。

 

言い終わるや否や、芳心を自分の腹部に向かって、勢いよく刺したのです!

 

 

ゴロゴロと巨大な音が響き、皇陵全体が揺れました。

 

砂石が飛び、砂埃が舞います。砂埃が全て散ると、一面の石壁は無くなっていました。

 

もう一回よく見ると、無くなっていたのではなく、全て崩れていたのです。

 

郎千秋はちょうど石壁の前に立っていて、崩れた壁の下敷きになっていました。謝憐の手の芳心は、まだ腹部に刺さらないうちに衝撃で吹っ飛んだのです。目を細めて砂石や砂埃の中に、紅い衣を着た影が、崩れた壁の上にいるのが見えます。

 

「三郎?」

 

花城の容貌は美しく、表情は厳粛で、これまで見たこともないほど冷たいものでした。謝憐を見ると、緊張がわずかに緩んだように見えましたが、跪いている像を見た瞬間、冷たく一声笑い、目の中には怒りの炎が灯ります。

 

戚容は鬼を見たかのように飛び跳ね、声も変わります。「お前!」

 

花城はまるで遊びに来たかのようにゆっくり歩いていきます。戚容「お前はどうやってきたんだ?何をしにきたんだ?お前は何なんだ、俺らの皇陵に無断で...」

 

花城はいつの間にか、戚容の後ろにいました。

片手で戚容の頭を掴み、勢いよく下に叩きつけます。「お前こそ何なんだ?俺の前でこんな死にたい真似をするなんて!」

 

大きな音と共に、跪く像は木っ端微塵になります。戚容の頭は丸ごと花城に地面の中に叩きつけられます。

 

花城はしゃがんで、子供が鞠で遊ぶかのように片手で血まみれの頭を地面から抜き出して、少し観察して笑います。「言ってみろよ。お前は何なんだ?」

 

その眼差しの中には暴虐さしかありませんでした。謝憐はこれまでこんな花城を見たことがありません。この時の花城は十二分に様子がおかしいと感じたのです。

 

「三郎?」

 

戚容は血を吐きながら叫びます。「謝憐、早くこいつを止めろ!ここは仙楽の皇陵だぞ。外部の奴にここで好き勝手させてたまるものか!」

 

花城は笑いながら言います。「あー、知らないのか?世の中には止められないものがあるんだ。例えば太陽が西に沈むこととか、例えば象が蟻を踏み潰すこととか、例えば、俺がお前の命をもらうこととか!」

 

最後の一言を発した時、顔の獰猛な色は濃くなります。そして青鬼を身体ごとそのまま下に引きずりました。

 

 

また大きな音が響きます。戚容は地面に貼り付き、泥にも満たないものになります。花城は始終、体裁の整った笑顔のままで、立ち上がり、戚容の頭を思いっきり十回近く踏んづけます。

 

戚容は死ぬことはありませんが、だから余計に大変なのです。鉄でできた頭でも、こんな扱いには耐えられません。

 

戚容が狂うように叫ぶ中、謝憐は慌てて花城に腕を回します。「もういい、もういい!怒らないで、この人は病気なんだ。まともに取り合わなくて...」花城は振り返り、謝憐の手の中の剣を抜き取り、ドンと地面に投げます。

 

それはまるでこの剣のことがすごく憎いような様子でした。

 

花城の様子があまりにもいつもと違いすぎて、謝憐はたまらなく心配になります。でもどうしたら良いのか分からないので、彼を包み込みながら、背中を撫でて「怒らない怒らない...」と言います。

 

花城の目の中の凶暴さが徐々に鎮まります。頭を下げて謝憐の顔を見ると、長いため息をつきます。

「殿下、どうしてまた自分をこんな姿にしたの?」

 

謝憐は一瞬呆然としてから、今の自分は多分殴られすぎて、豚の頭のようになってることを思い出します。

 

本当は何も間違ったことをしていないと思っていたのですが、花城のため息を聞くと何か自分が間違ったことをしたように感じてしまい、顔を拭って、髪を少し整えました。

 

戚容はついに頭を地面から抜き出し、端の方に転がろうとした時に、花城は頭を踏みつけます。

 

「起き上がって良いって言ったか?」

 

戚容は髪を乱しながら一口血の唾を吐きます。

 

「よー、太子従兄さん。まさか花城とこんなに仲が良いなんて!大きな後ろ盾を見つけたんだなぁ。おめでとう!この様子を見ると、太子従兄さんのためにわざわざ俺に仕返ししにきたのかな。見てみろよ、あんなに怒っちゃって!でも太子従兄さん、上天庭の神官なのに、こんな妖魔鬼怪とつるんでるなんて、純潔無瑕を汚すことが怖くないのかい?」

 

「彼はとても良い。どんな友を作るかは君には関係ない」

 

「どうやら太子従兄さんの聖なる光に感化されて、目を潰したんじゃないか。あ、違うや。元々目が潰れてたんだった!ははは...」

まだ笑い終わらないうちに、目の前が黒くなり、顔には激痛が走りました。なんと謝憐にひっぱ叩かれて、口が歪んだのです。

 

「そんなことを言ってたら一発じゃ終わらないぞ」謝憐は冷たく言い放ちます。

 

戚容は目を見開き、謝憐が自分を殴ったことが信じられない様子でした。「どうしたんだ?何か間違ったことを言ったか?元々目が一つ潰れてるじゃないか!この狂った片目の犬野郎が!」

 

途中まで言った瞬間、謝憐はまた二発、素早くて容赦ないのを喰らわしました。戚容は殴られておいおいと叫びます。最後、犬のように地面に横になり、地面を叩きながら笑います。

 

「太子兄さん、俺を殴ったな!神よ、私たちの高貴で善良な憐れみ深くて、蟻を踏み潰すのも忍びない太子殿下が、俺を罵って、殴ってるぜ!大変だ、大変だ!」

 

興奮している姿は、何か薬を間違えて飲んだかのようでした。謝憐の忍耐力は限界を迎え、片手を翻し、口を封じるお札を貼ろうとします。

 

その時、花城がその手首を掴んで止めたのです。謝憐は驚きました。

 

「三郎、どうしてあんなでたらめばかり言わせておくんだ?」

 

「兄さん、一つ手伝って欲しいことがあるって言ってたの覚えてる?」「覚えてるよ、約束もした。でもそれとこれとはどんな関係があるんだ?」

 

「どうして郎千秋を放して、太蒼山に来させたか、わかる?ここに来て、ある人を見つけて欲しかったんだ」

 

二人は目が合いますが、謝憐はどうしてかそわそわします。

 

「君は...彼に誰を探して欲しいんだ?」

「鎏金宴の本当の犯人」

「あ....。本当の犯人ってどう言う意味だい?別に偽の犯人がいるなんて...」謝憐は顔が暗くなります。

 

戚容「そんなの聞くまでもないだろ!謝憐だ!真犯人は謝憐だ!」花城は片足で踏みつけて、冷たく笑いながら言います。「嘘つけ!本当のことを言え!」

 

戚容は踏まれて大声を出します。この時、郎千秋が崩れた壁の下から出て立ち上がります。

 

花城は手を挙げると、何かを投げ、郎千秋がそれを受け取ります。「俺の護身符がどうしてお前のところにあるんだ?」

 

花城は冷たい声で言います。「それはお前の護身符か?」郎千秋がよく見てみると、違うことに気がつきました。

 

この護身符の制法も符文も自分のものとは似ていましたが、こちらは新しいものでした。自分の袖の中を探してみると、自分のものはありました。この二つの護身符を並べると、双子のようなのです。

 

頭を上げて尋ねました。「お前はどうしてこれを持ってるんだ?」

 

花城は謝憐を見て言います。「お前にあげた人が俺にくれたんだ」

郎千秋は花城の視線を辿り、その言葉の意味に気がつきます。

 

この護身符は謝憐がくれたものなのか?

 

謝憐は慌てて言います。「違う!」謝憐は彼の手の中の護身符を奪おうと手を伸ばしますが、まだ歩いてもないのに体の力が抜けて、花城に受け止められました。今回は驚きと怒りを感じます。「君...」

 

花城に対しては本当に無防備なのです。でなければ、不意打ちにあうこともありません。

「殿下、申し訳ない」

 

そして郎千秋に言います。「この二つの護身符は同じ人が作ったものだ。お前が八歳の時に、この護身符をくれて妖魔を退いてくれたのも太子殿下だ。当時、退けられた妖魔は、俺が今踏んでいるこのクズだ」

 

力が抜けた謝憐は、花城の腕の中でどうしようもなく、お願いするかのように言います。「三郎、もう言わないでくれ。花城主、もう終わりにしよう。今こんなことを言っても....意味がないんだ。本当に、もう意味がないんだ!」

 

郎千秋は二枚の護身符を持って、視線は皇陵の中の三人を何度も見渡します。混乱の中で、怒りを誰にぶつけたら良いのかわからず、謝憐に言います。「お前は何がしたいんだ!お前は何をしたんだ?」

 

そんな混乱している姿を見て、戚容はゲラゲラ大笑いします。

 

「太子従兄さん、かわいそうに。あんたの弟子になるのは本当にかわいそうだよ。俺まで同情してきたよ。もう騙さないでやってくれよ。本当のことを教えてあげてくれよ!鎏金宴の虐殺の真犯人を教えてやれよ!」

 

郎千秋「鎏金宴は.....あの日確かにこの目で...」自信がなくなってきました。

 

戚容「お前はその目で何を見たんだ?」郎千秋「あいつが全ての人の死体を....八つ裂きにした!」

 

「そうだよ、その通りだ。お前が見たのは死体だろ?あいつが殺したのは死体だけなんだ。あの死体は俺がわざと残してあげたものなんだ。残してあげたら、きっと八つ裂きにするってわかってたから!」

 

謝憐は冷たい汗が流れ落ち、郎千秋の顔も引き攣ります。

 

謝憐は郎千秋がまた尋ねる前に「黙るんだ!」と戚容に向かって言います。

 

郎千秋は気にも留めず尋ねます。「''きっと八つ裂きにするとわかってた''ってどういうことなんだ?」

 

戚容は気味の悪い笑みを浮かべます。「先に、本当の真犯人が誰なのか聞かないのか?」郎千秋は嫌な予感がしてきます。

「真犯人が分かれば、どうしてあいつがそうしないといけなかったのかがわかるよ。聞かないのか?」

 

真犯人は誰なのか?どうして謝憐が罪を否認しなかったのか?何もしていないなら、どうして罪名を否認しないのか?

 

謝憐を見ながら、戚容には彼が何を考えているのかわかりました。「否認しないのは当たり前のことだよ。自分で認めてしまうしかないんだ!どうしてか?認めてしまわないともっと恐ろしいからだ!」

 

郎千秋「もっと恐ろしいって?」

 

戚容は笑いすぎて、口が耳まで届きそうでした。恨みがましく潔く言います。「仙楽旧皇城の怨霊だよ。聞こえたか?お前が小さい頃からずっと度化したいと願ってきた怨霊だよ!」

 

 

鋭い笑い声の中で、謝憐は血の海に戻ったような気がしました。

 

満天の怨霊の中で、彼一人だけが立っていて、眩暈がして、横の赤い柱を支えにやっと立っていられたのです。唯一聞こえたのは戚容が逃げる時の狂った笑い声でした。

 

戚容はこう言ったのです。「太子兄さん、気に入ったか?これは郎千秋に贈る誕生日の贈り物だ。反乱軍の血が流れる賎民への贈り物に最適だろ!」謝憐の心は絶望で満たされます。

 

もし太子殿下が知ったらどうなるのか?小さい頃からずっと度化したいと思ってきた亡霊たちが、自分の家族を全て殺したとわかったら、彼はどうするか?

 

謝憐は考えるのも恐ろしくなり、そのため絶対そうなってはいけないと思ったのです!

 

彼は歯を食いしばって芳心を抜き出し、死体を切り刻みました。細かければ細かいほど良いのです。一体の死体も残してはいけないのです。

 

そうして狂ったように斬っている時に、殿外から殿下の足音と声が聞こえてきます。「どうして誰もいないんだ?みんなどこに行ったんだ?師匠、師匠!」

 

こんな時でも、太子殿下が真っ先に呼ぶのは師匠でした。そして扉が開き、太子殿下は満面の笑みでした。「師....」

 

そして、その目の中には地獄が映ります。

地獄の中の一番恐ろしい光景は、妖魔のように狂って死体を刻む師匠の姿で、その血は彼の顔にも飛び散りました。

 

 

謝憐は戚容を再び地面の奥底に叩きのめそうとしますが、花城にしっかり掴まれています。そのため、郎千秋がゆっくり顔をこちらに向けるのを見ているしかありませんでした。

 

その目は呆然としていて、信じられないような表情でした。まるで、戚容は何を言ってるんだ?と問いかけるような表情だったのです。

 

「どうしてお前の師匠が死体を八つ裂きにしたのか、分かったか?死体は一つも残せないんだ。もし残せば、百鬼に噛まれた痕跡が分かってしまうからな。そしたらお前は、恩を仇で返されたことが分かってしまう!お前は滑稽だな!」

 

謝憐は突然喉が緩まり、身体も制約から逃れ、すかさず戚容に二発殴りを入れます。「黙れ!良い気になるな!」

 

戚容は殴られて鼻血が出ますが、それでも狂ったように笑います。

 

「殴れよ!それでもお前の弟子はもう終わったぜ!あいつはお前に何をしたんだ?お前を生きたまま棺に釘刺しにしたんだ!本当自業自得だな!」

 

まだ言い終わらないうちに、花城の忍耐力が限界を迎え、掌を一振りします。戚容は謝憐の激昂した顔を見てさらに十倍興奮し、顔が地面に埋まってるのにまだ口を閉じません。「自業自得!自業自得!自業自得!」

 

一回言うごとに花城が後頭部から殴り、あたりは血生臭くなり、戚容は頭が半分なくなっていました。謝憐は花城の目の中に暴虐さを見つけ、また抱きついて「もういい!三郎!」と止めます。

 

突然、目の前が赤くなり、血肉が飛びました。謝憐は花城を引っ張って避けます。よく見るとそれは戚容のもう半分の頭でした。

 

殴ったのは花城ではなく、郎千秋でした。片手で戚容の首を掴んで、人ごと持ち上げます。

 

戚容は頭がないのに、まだ変な笑いをしながら言います。

 

「太子兄さん、おめでとう!お前の弟子を見てみろよ!成長してそろそろ卒業できそうだぜ!でも痛くない、全然痛くない!太子従兄さんが殴ったのに比べたら、なんてことはない。

 

郎千秋、今俺のことを死ぬほど恨んでるだろ?死ぬほど気持ち悪いだろ?はははは!おめでとう!お前がずっと苦労して探してた真相が見つかって!お前は滑稽だ!」

 

言い終わらないうちに、全身の骨が音を鳴らし、木っ端微塵になりました。

 

 

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鎏金宴の真相部分の改編が大きく、真犯人も変わっていますが、大枠の趣旨は変わってないと思います。

 

旧版と照らし合わせると、結構削られた部分も多いように感じます。削られた部分と残された部分を見ると、作者がこの場面で何を伝えたかったのかが、より鮮明になります。

 

前半は郎千秋の謝憐への憎しみと、でもどうしても仇として見られない複雑な描写が本当に秀逸だと思いました。

 

頭では謝憐を仇だと理解していても、助けられたり、五年間一緒にいた中で、謝憐を心から信頼していて、尊敬していて、謝憐はそんなことをする人ではない、と心のどこかで目のあたりにしたことを信じきれない部分があったのではないでしょうか。

 

謝憐が跪いたような姿勢で目の前に突き出された時も、すぐに身体を逸らして跪かれるのを避けるし、敵討ちの絶好の機会を与えられても、うまく言葉にできないけれど、手を出したくなかった郎千秋。

 

改編によって生き生きと描かれた彼が大好きです。

 

追記:

この改編によって、謝憐は誰も殺していないことになります。これが物語全体の中でどういった意味合いを持つのかも楽しみです。

 

 

余談です。

 

殿下の誕生日までにせっかくだから何か目標を立てようと思い、目標を立てていました。恥ずかしいので書くのをとても迷ったのですが...

 

ずっとペーパードライバーで、運転が恐怖すぎて何かと避けてきたのですが、やっぱり不便なので、殿下の誕生日までに''〇〇まで行けるようになる''と目的地をいくつか定めて、花城の誕生日の少し前から、毎日少しでも運転することを自分に課して、欠かさず頑張ってみました。

 

週末に少し特訓したこともあり、なんとか決めていた目的地を、全て一人で行けるようになりました。

 

 

運転できる方も多いと思うので、笑い飛ばしてください。

 

乗り始めた当初は、右折が怖すぎて、左車線を走っていれば間違いないと思って走っていたら、いつまで経っても右折レーンに入れなくて、自宅から遠ざかるのを横目に、私はどこまで前進して行くんだろう、と不安になりました。

 

まるで自転車を覚えたての子供が、曲がり方を知らなくて、ずっと前進するかのようです。危うく帰れなくなるところでした。

 

 

そして、ナビが使えなくて、迷いました。いや、使い方はわかるんです。もちろん設定方法も。

 

ただ、ナビで案内された道が、万が一対向車とすれ違うのもやっとな細い道が出てきたらお手上げなので(寄せるのも下手だし、練習に使っている車が無駄に初心者には難しい大型で)、ナビの案内が怪しそうだなと思うと、途中から頼れなくなったのです。

 

そして案の定、迷います。危うく帰れなくなるところでした。

 

 

数年前の夏は、猛暑の中「暑いから車で待ってて」と家族から車のキーを渡されたものの、エンジンのかけ方もエアコンの付け方も分からず、バックドアを開けてそこに腰掛けて待ってて(少なくとも日陰ができるし)、それを見た家族から大笑いされました。

 

免許持ってるよね、嘘でしょ?と。

使わない知識より、昨日食べた肉まんが美味しかったことの方を覚えていたい人なので、とっくに運転に関する全ての知識が頭から綺麗に消え去ってしまってるのです。

 

 

右折が怖い。高速が怖い。合流が怖い。駐車ができない。

 

そんな私も、約十日ぐらいで何とか近所の買い物や、駅や空港への送迎ができるようになりました。大きな成長です。(両隣がある駐車はまだ無理です)

 

 

まだ運転してる時は胃がキリキリしますが、何とか形だけでも克服できたということで...。

 

多分これからの人生、運転する度に、''殿下のおかげ''って勝手に思ってる気がします。

 

思ったよりも早めに決めていた目標が達成できて、殿下の生誕祭までまだ一ヶ月近くあるので、何か別の目標も設定しようかなと考えています。

 

''推しの生誕祭までに’’と思うと、モチベーションが上がるのが不思議ですが、何だか好きな人のために頑張ってるような気がして、この感じ、割と好きです。