新版(2023年5月発売)の変更点・追加部分⑯で、前回の続きです。(だいたいのあらすじと意訳です)

「もういい」上の方にいる君吾が口を開きました。

一言だけなのに、殿は一瞬で静まりかえり、皆君吾の方を向きます。

 

謝憐も郎千秋の手を振り解きました。

 

君吾は額を手で支えながら座っていましたが、謝憐には君吾は頭が痛いんだろうというのが分かり、処罰を待たずに先に口を開きます。「帝君、こうなったからには、お願いがあります」

 

君吾は表情は厳粛ですが、謝憐にはもっと頭が痛むように見えました。

「言ってみなさい」

「どうか私を貶謫してください」

 

貶謫というのは神官にとっては最も重い打撃であり、最大の屈辱でもあるのです。

 

他の人はどうしても避けたいものなのに、謝憐の様子を見ると、まるで一食ご飯を抜くぐらいかのように言っていて、全く屈辱と感じる様子もなく、彼を貶謫しても他の人にとって''大いに気持ちが晴れる''ような感じはしません。

 

謝憐はこう考えていました。どちらにしても貶謫されるので、自分から言って早く貶謫された方が、他の人に処罰について議論されて、無駄に時間や労力がかかり、君吾もそれによって悩むことになるよりはいいのではないかと。

 

何も返事がないので、また言います。「帝君、どうか私を貶...」

まだ言い終わらないうちに、君吾は額を支えていた手を下げ、二人の視線が合った瞬間、謝憐は無意識に寒気がして口を閉じました。

 

君吾は静かに彼を見ながら「仙楽、上天庭をなんだと思ってるんだ?来たかったら来て、去りたかったら去る、私に適当に挨拶さえしたら良いと思ってるのか?」

 

語気は依然として平和ですが、機嫌が良くないことは誰が見ても良くわかりました。

謝憐は頭を下げ「出過ぎた真似をしました」と言います。

 

謝憐はもう何も言えません。謝憐だけでなく、他の神官も誰も何も言えません。

 

君吾は今まで一回たりとも怒ったことはないのです。どれだけ神武殿で神官が言い争いをしても、いつでも微笑みを浮かべて山のように泰然としていて、最後に決裁をしていました。

 

そのため、君吾が怒る姿を見たことがある人はいません。だからこそ余計に怖いのです。

 

しばらくの沈黙の後、君吾は口を開きます。「仙楽宮に戻りなさい」

 

謝憐は自分の耳を疑いました。「仙楽宮に?」

 

君吾「君は禁足だ。処罰を決定する前は外出は禁止するから、中で反省していなさい。誰にも会わないように!」

 

「でも...」君吾は遮るように言います。「禁言もだ。連れて行け、解散だ!」

 

 

郎千秋はじっと謝憐を見つめたまま、何も話しかけません。

 

裴茗がやってきて彼の肩を叩いて、「心配するな、帝君のことだからきっと公正に処置してくれる。行こう、もう見るな。逃げられはしないんだから」と言い、笑顔で彼を連れて行きました。

 

霊文がやってきて言います。「太子殿下は本当に奇男子ですね。神武殿がこんなに荒れたことはないし、帝君がこんなに怒ったこともありません」

 

「先ほどはどうして故意に、帝君に貶謫させようとしたのですか?ちょうど、帝君はしばらくの間仙京から離れ、山や海を鎮めに行く予定なので、禁足期間はしっかり反省して、もう問題を起こさないようにしてください」

 

殿の中の青銅の士兵達が取り囲んできて、ついに謝憐を捉えることができるのが待ちきれない様子でした。謝憐は泣くに泣けず、笑うに笑えず、「わかったわかった、行こう」と言います。

 

師青玄は「太子殿下、安心して。信じてるし、きっと真相は明るみになる!」と言います。謝憐は手を振りながら、「明るみにならない方が良い。もしかしたら真相はもっと黒いかもしれない」と言います。

 

師青玄は極楽坊が燃えたことが、謝憐のせいになっていることにも負い目を感じているようで、謝憐のそんな言葉に同情し、「そんな悲観しなくていいよ。帝君は一貫して君への扱いは良い。

 

さっき少し怖そうに見えたけど、実質は''時間稼ぎ''だろ?時間を稼いでる間に、転機が来るかもしれない!それに、誰も会ってはいけないと言ってたから、千秋も来ることができないってことだから、少なくとも....安全なはずだ!」

 

謝憐はそんな師青玄を見て、思わず吹き出してため息をつきながら、「そうだといいけどね」と言います。

 

 

仙楽宮に帰ると、縁起が悪いと思ったのはやはり間違ってなかった、と思い、そのまま眠ってしまいます。もちろん、寝付きは良くもなく、床を転げている間に何か硬いものを敷いて目覚め、見てみるとそれは二つの骰子でした。

 

頭の中には自然に、紅い衣なのか烈火なのか、楓のような一面の赤が浮かびます。少しそれを見つめてから、低い声で「孤注一掷、死亦無悔(一か八か、死んでも悔いはない)」と呟きます。

 

骰子は地面に落ち、しばらく転げ回ってから、二つの「一」の目で止まりました。花城から借りた運気は、もう無くなったようです。

 

謝憐は思わず笑い、頭を振り、ため息をつきながら言います。「三郎...」

 

 

突然後ろの方で物音がして、笑顔と骰子を収めながら「誰だ?」と振り向きます。次の瞬間には、怪訝な顔をしながら「君だったのか」と言います。

 

窓から入ってきたのは、慕情でした。「何しにきたんだ?」「あなたが禁足されて、反省のために誰にも会うなって言われるから、窓から入ってきたんだ」

 

「どうして窓から入ってきたのかを聞いてるんじゃない」慕情は何かを投げてきて、受け取って見るとそれは一瓶の薬でした。

 

三度目に謝憐が飛昇してからの慕情の態度は「回りくどい」としか言いようがないのです。謝憐が窮地に立たされた今、急にこんな友好的な態度を示すなんて。

 

謝憐は少し考えて、拒絶することはありませんでしたが、より一層疑問に感じ、尋ねます。「ありがとう。他に何かあるのか?」

 

慕情は答えず、謝憐の周りを二周回って、「本当にあなたが芳心国師?鎏金宴の虐殺をしたのですか?」「そうだ、私だ」「どうしてです?国が滅んだ報復ですか?」

 

その眼差しには隠せない興奮が見え隠れしていて、声も少し変わっていて、この機会を何年も待っていたかのようでした。謝憐がおかしいと思った時、後ろからまた物音がします。

 

今回窓から入ってきたのは風信でした。入ってくるや否や、慕情を見て「どうしてここにいるんだ?」と尋ねます。

 

「この人はきっと窮地につけ込みにきた」と顔に書いてあるようでしたが、謝憐は「薬を持ってきてくれたんだ」と言います。

 

慕情「お前の家じゃないんだから、お前が来てもいいんなら俺が来たっていいだろ?」謝憐「いや、二人とも来るべきじゃない。帰ってくれ!」風信「ちょっと待って、聞きたいことがあるんだ」

 

謝憐「君も私が芳心国師なのかどうか聞きたいのか?あぁ、そうだよ」

 

風信はあまりのあっけなさに、しばらくしてやっと返事します。「どうして?」

 

謝憐は肩をすくめ、慕情は冷たい笑いを浮かべながら言います。

 

「何がどうしてだよ。やられたらやり返す。それだけだ。復讐したって良いじゃないか」

 

風信「お前のその腐った性根を知らないとでも思ってるのか?彼が悪事の限りを尽くせばお前は嬉しいんだろうが!」

 

「お前に何の資格があって俺に帰れと言えるんだ。笑わせるなよ。当初は自分が一番忠誠を尽くしていて、太子殿下を絶対に裏切らないと言ってたのに。所詮五十歩百歩で、俺よりも一つ言い訳が多いだけに過ぎないじゃないか。

 

主人が堕落するところを見たくないとか言っておいて、本当は廃人と一緒に年月を無駄にするのが嫌になっただけだろ?」

 

謝憐「ちょっとすまない。廃人って、私のことかい?私の目の前で言うのはどうかと思うけれど...ちょっと!」

「バキッ、バキッ」と二人は戦い始め、郎千秋と謝憐がまだ戦ってもないのに、この二人が先に戦い始めたのです。

 

年少の頃、慕情は物静かで誰かを怒鳴ることなどなかったし、風信が誰かを殴るとしたらそれは謝憐に言われてやっていたことで、殴れと言えば殴るし、やめろと言えばやめていたのです。それが今となっては誰も言うことを聞きません。

 

二人は積年の恨みがあるので、取っ組み合って言いたい放題罵り合います。お互いの罵声すら聞いていないのに、謝憐の話に耳を貸すわけもありません。

 

謝憐は叫びます。「戦うのはいいが、壁を壊すのはやめてくれ。この宮殿は新しいんだ。今日初めて入ってきたんだ。...誰か!この二人を外に連れ出して!」

 

片腕が垂れ下がっている中、外へと向かおうとしますが、数歩歩いたところで前方から大きな音がします。風信と慕情も手を止めて音がした方に向きます。

 

 

仙楽宮の正門が何者かによって蹴破られました。

 

門の外には仙京の広々とした神武大街ではなく、果てしない暗闇と静寂が広がっていました。

その暗闇から、無数の凛々たる銀の蝶が舞ってきたのです。

 

 

花城が現れて謝憐をさらっていくあたりの描写はあまり改変はありません。

風信「帝君が仙京にいらっしゃるんだぞ。その人を放せ!p88」が「その人を放せ!」だけになっています。君吾が仙京を離れていることになっています。

 

「門の外はあの明るく広い仙京の大通りではなく荒野の谷間だった。p89」の後に追加があり、

 

謝憐はこれが鬼市に通じる谷間だと気が付き、急いで声をかけます。

 

「何してるんだ!手を離して、戻らせてくれ」

 

花城は冷たく言います。「嫌だ」

 

謝憐「戻らせてくれ!こうやって直接仙京に押し入って人をさらうなんて、上天庭はきっとただじゃ済まさない...」

 

花城はそれを遮るようにして言います。

 

「もう押し入ったし、門を仙京に開いたなら、帰っても帰らなくても、彼らはただじゃ済まさないだろうし、俺が怖いとでも?」

 

花城が仙京の結界を無視して、仙楽宮の正門で何か仕掛けをして連れ去ることができるなんて、本当に不思議なのです。

 

謝憐は君吾が言った、花城には天庭にもっと早くから間者がいる、ということが実証されたようでした。

 

しばらくして考えれば考えるほど、ことの重大さに思い至り、「やっぱり戻るよ、今ならまだそんなに大ごとになってないだろうから、自分で逃げたと言えば...」

 

花城はそんな謝憐を引っ張り、一字一字言います。「それならもっと大ごとにしてやるよ!俺がさらった人が、どうして戻る必要なんてあるんだ?」「そんな...」

 

この時突然風信の声が耳元で響きます。「霊文!太子殿下がさらわれた!」

 

謝憐はまずいと思います。もう手遅れで、隠せません。風信が通霊陣の中で叫んだのです。

 

師青玄が真っ先に出てきて言います。「そんなわけないだろ?ここは仙京で、仙楽宮は神武殿と一つしか道を隔ててないんだ、誰がそんな度胸があるんだ?」

 

君吾が仙京にいない間は、霊文が全てのことを代理で取り仕切っていました。霊文は落ち着いた声で言います。「わかりました。見に行ってみます。太子殿下、聞こえますか?応えられますか?」

 

謝憐が応えようとした瞬間、花城が突然振り返って、指を二本伸ばしてきました。ひんやりと冷たい指先が、謝憐のこめかみに優しく押し当てられたかと思うと、花城は笑いながら口を開きます。「久しぶり。皆さんご健勝かな?p92」

 

(この先はしばらくほぼ旧版と同じです。)

 

二人で前後に並んで歩きながらも、謝憐は考えれば考えるほど申し訳なさが込み上げてきて、我慢できずに謝ります。「花城主、申し訳ない」花城は突然歩みを止め、「どうして謝る?」と尋ねますが、その口調は硬く、謝憐は本当に怒らせてしまった、と思います。

 

自分が少し小さくなったような気がして、「鬼市に行ったのは地師が失踪した事件を調査するためだったんだ。だからこの前は...騙したことになる」

 

「知ってたよ」

 

謝憐は更に低くなってしまい、「心からもてなしてくれたのに、極楽坊も、あの貴重な宝物ばかりの武器庫も燃やしてしまった。本当に申し訳ない」「武器庫はもうあなたに贈ったでしょ?燃えたら燃えたで、別に申し訳ないことはない」

 

終わった。

 

錯覚かどうか分かりませんが、謝憐はその声から一抹の冷たさを感じ、もしかして彼は皮肉を言っているのか?と考えます。

 

慎重に口を開きます。

 

「花城主、’’申し訳ない''という言葉に重みがないことも分かってるから、できる限りのことをして償いたい。少し時間がかかるかもしれないけど、もし良ければ...」

 

花城は急に口を開きます。「どうして俺に償うんだ?」

 

もうこれ以上聞いていられないというように、さっと振り返って続けます。

 

「俺が呪いの刀であなたを傷つけたことを忘れた?どうしてあなたが謝るんだ?どうして俺に償おうとする?」

 

怪我したことを綺麗さっぱり忘れかけていた謝憐は、その怒った顔に少し驚き、はたと思い出します。

 

「右手のこと?右手は大丈夫だよ、もう治りそうだし。それに、これは君のせいじゃないだろ?」

 

謝憐を見つめる花城の左目には、この上なく明るい光が宿っていました。ふと、謝憐には彼が震えているように感じます。でもしばらくしてから、震えているのは腰の弯刀厄命だと気が付きました。

 

紅衣に下げられた銀色の弯刀がぶるぶる震えていたのです。銀色の線で描かれていたその目も。もしそれが子供の顔についていたなら、きっとその子供はわあわあ泣きじゃくっていたでしょう。

 

「どうしたの?」謝憐は手を伸ばして撫でようとします。

花城は少し体を横に傾けて、謝憐の手を避け、しかも刀の柄を容赦なく叩きます。

 

「なんでもない。こいつには構わなくていい。お前を呪いの刀だと言ったのは別に間違いじゃないだろ?」

 

諸天の神々が噂を聞いただけで肝を潰す呪いの刀、弯刀厄命は、花城に叩かれるとさらに激しく震え出します。

 

謝憐は慌てて彼の手を押さえながら言います。「花城主!何も彼の前で言わなくても!それにもう叩くのもやめてください...」

 

 

通霊陣の中で風信が心配でイライラしながら叫びます。「一体どこに行ったんだよ!」

 

慕情の方がまだ冷静です。「仙楽宮の正門が花城に細工されて、縮地千里で他のところに繋がれたんだ。でもどうやってこの陣を発動すればいいんだ?」

 

風信「わかった!やってみる!」

 

謝憐はそれを聞いて、ミミズ洞窟と野蛮人のことを思い出し、「待つんだ、動くな!」と言いますが、すでに手遅れで、風信は次の瞬間大声で罵り出します。怒りの中に恐怖も混じっているような感じなので、皆驚きます。

 

「どうしたんだ?どうしたんだ?」

 

師青玄「本当に気をつけて!あの骰子は適当に投げたらいけないんだ。結構運にかかってる!」

慕情の声が聞こえます。「どうしてもっと早く言わないんだ!」

 

師青玄は意外そうに尋ねます。「慕情、君も一緒に行ったのか?思ってもみなかったけど、君も太子殿下のこと結構心配してるじゃないか!」

 

謝憐はすぐさま術の主人に尋ねます。「骰子は彼らをどこに連れて行ったの?」

「振った人が、一番怖いと思うところにたどり着く」

 

それを聞いて謝憐は顔を隠します。風信は一貫して女性のことになると顔色が変わるので、この世で一番怖いところと言えば、それはきっと女湯なのです!

 

二人はついに逃れたようで、慕情は風信に攻撃できるこんな滅多にない機会を無駄にするわけがありません。「本当に風紀乱しだな!」

 

風信「俺だってそんなところだと思わなかったんだ!行きたくて行ったわけじゃない!できるもんならお前がやってみろ」

慕情「やってやるよ」

 

謝憐は嫌な予感がしますが、止めることができません。しばらくするとやはり、慕情の全身に鳥肌が立って歯を食いしばるような声が聞こえてきます。「この世にこんなに見てられない場所があるなんて!」

 

師青玄「また場所が変わったの?聞いてる限り、運気良くなさそうだけど、今度はどこに出たの?」

風信「ゴミを捨てる山のようだ」

 

おそらく慕情が昔、掃除をしていた出身だったため、「汚い」ことに対して極端に耐えられず、綺麗にしないと気持ちが悪いのです。そのため、ゴミを捨てる山に身を置き、四方八方から残飯や埃、腐った匂いなどに囲まれたら、いかに窒息しそうになるのかがわかります。

 

大きな音が響いてきて、おそらく慕情が耐えられなくて、掃除することもできなくて、全てを破壊しようとしたのです。

 

風信「これは共に滅びるつもりか?山ごと平地になったじゃないか!骰子を返せ、お前も大したことないな!」

慕情「さっきよりはだいぶ綺麗になったじゃないか。骰子をよこせ。俺がやる」

風信が怒りながら言います。「さっき渡しただろ?無くしたとは言わせないぞ!」

 

二人がお互いのせいにしながら、お互いに声を荒げるのを見て、神官達は面白そうに見物します。

 

謝憐だけが忍びなくて、花城に声をかけます。「花城主、やっぱり彼らを逃してくれないか」

「逃したくないわけじゃない。勝手についてきたんだ」この様子だと、二人を逃すつもりはなさそうです。

 

師青玄が疑問にかられて口を開きます。「おかしいなぁ!君たちの運気は太子殿下よりも悪いことはないはずだろ?どうして太子殿下はすぐに花城が出せて、君たちはそんなものしか出せないんだ?太子殿下は幾つの目を出したんだろう?」

 

それを聞いて、謝憐はもしかしたら自分は本当は運が良いかもしれない、女湯もゴミの山も出していないなんて、と思いながら尋ねます。「さっき二つの目を出したんだけど、二つの目を出したら君に会えるのか?」

 

言い終わるや否や、少しこの質問が微妙だったと気が付きます。まるで、どうやったら花城に会えるのかを尋ねているように聞こえます。花城は「違う」と答えました。

 

急に恥ずかしさが込み上げ、法力も尽きてきて、通霊陣の物音が聞こえなくなってきました。その静寂がより気まずさを際立たせます。謝憐は顔を掻きながら、「そうか、私の勘違いか」と言います。

 

花城は少し前を歩きながら言います。「もし俺に会いたくなったら、何の目を出しても会える」

 

「・・・」

 

「骰子を投げる時、名前を呼んだだろ?会いたいのかと思って、行ったんだ」

 

謝憐は、心の中のぼけっとした木魚が、突然銀のバチで叩かれて''カーン''と軽快な音が鳴ったようで、その音が心に響き、余音がいつまでも消えることなく響くように感じました。

 

しばらくしてやっと返事します。「来たのは、そんな理由?」

 

「そうでなければ、上天庭なんて場所、俺が行く価値のある他の理由なんてない」

 

謝憐は一瞬何て返したら良いのかわかりません。

 

「君は...」

 

「俺が何?」

 

謝憐は言葉が出ず、ため息をつきながら「もういいや」と言います。

 

いつでも花城と対話する時は、彼に優しくやり込められたような気がするのですが、反撃する力もなく、負けるのでさえ本望のような気がするのです。

 

本当にもう何も言うことがありません。

 

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このあたりは旧版の小説と突き合わせて読むと、残された会話と削られた会話が明確に分かれるので、作者が各場面で伝えたいことがより明確になったように思います。

 

ところどころ加筆されていますね。

 

前半では君吾についての描写が増えて、天界での権威を感じます。ここでの表情や対応については、吟味の余地がありそうです。

 

謝憐が武器庫のことを謝ったら、''もう贈ったから、燃えても申し訳ないことない''と返していたり、厄命が''呪いの刀''と言われて泣いていた描写があったり、(もちろん泣いていたのはそれだけではないと思いますが...)

 

師青玄が慕情のことを「意外と太子殿下のこと心配してるんだな」と言ったり、師青玄が問いかけてから謝憐が「二の目を出せば会えるの?」と尋ねたり。

 

尋ねた後、''どうやったら花城に会えるのか尋ねているみたいだ''と感じる描写に変わっていたり...

 

 

旧版ではこの場面のハイライトは、「俺に会いたければ何の目を出しても会える」で、謝憐は自分が何を言おうとしたのかも忘れた、という描写だったのが、

 

「あなたが会いたがってると思って行った」が加えられ、それを聞いた謝憐の心情も細やかに描写されています。

 

 

毎回少しずつしか紹介できなくてもどかしいですが、改変前と改変後を突き合わせて読むと、面白みが増すように感じます。

 

改変後に削られてしまった情報も割とあるので、ここは削ってほしくなかったなぁ...と思う箇所もいくつかありました。(書き終える頃には、どこのことかも忘れてしまいましたが...)

 

次回は郎千秋が追いかけてくる場面です!郎千秋が追いかけてくる場面も改変が大きいし、不倒翁に変えられた後に、花怜の二人っきりの数日間をご紹介できると思いますラブラブ(早くその場面が書きたい...照れ

 

次回もお楽しみにおやすみ