天官賜福の新版(2023年5月発売)の、改編されている箇所その⑤です。今回は過去編の続きから、日本語訳小説三巻の最後あたりまで見ていきたいと思います。

・城門が閉められて、郎英が城壁に登るくだりや、城門の前で一家が死んでしまう戦の契機になる事件が削られています。

・謝憐が国王である父と口喧嘩するくだりや、謝憐の国王に対する不満の描写なども削られています。

 

・温柔郷での、謝憐と兵士(花城)とのやりとりや動きなどは大きな改変はないと思います。温柔郷以降、初めて兵士に会った時に、軍を追い出された話を聞くくだりがあったと思います。新版では、謝憐が神武大街にある石橋の上で、鯉に餌をやっている時に少年兵士の視線を感じて、そこで会話をしています。そして、少しだけやりとりが増えています。

 

謝憐「君だったのか。ずっと探してたんだけど、色々忙しくて忘れてしまってた。あの日、帰ってから大丈夫だった?傷はもう治った?」「殿下、僕は傷はありません。殿下の方こそ傷は?」「私も大丈夫だ」「そんな大丈夫だなんて!殿下は確かに剣で・・・」「あの日は驚かせてしまったね。本当に大丈夫だよ。神だからあれぐらいの傷は大したことないんだ。すぐに治る」

 

少年が何か小声で言った後、謝憐が尋ねると、少年は勇気を溜めて言います。「あの晩、僕がややこしくしたから、だから殿下は・・・」謝憐はすぐに答えます。「違うんだ。君のせいじゃない。君がいなかったとしても、自分を刺してた。考えすぎないで。そんなに真っ直ぐ立たなくても、説教してるわけじゃないんだから」少年は板みたいに真っ直ぐ立っているのに頭を上げなくて、謝憐はつい笑いそうになります。そして、少年の手に、餌を持たせながら、「餌やりを頼むよ。それが終わったら忘れて」と言います。そしてしばらくしてから謝憐が「どうして軍にいないの?」と尋ねる会話に続きます。

 

・謝憐が白無相と対峙する時の会話が少し増えています。

謝憐「お前はなんだ?」白無相「私は君が連れてきたんだ」謝憐「どういうことだ?」白無相「誰にも教わらなかったのか?世界の運気は一定数しかない。お前がこの碁を乱したから、どこかでその乱されたものを調整することが起きる。私は、いわばその調整の手だ。昔から、神が人界に降りるのは、良い結果をもたらさない。知らないのか?」謝憐「そんなの聞いてない!黙れ!黙れ!黙れ!」この後に「そんなに黙ってほしいなら勝つ方法を教えてあげよう」の会話に続きます。

 

「言え」の後に、白無相が人面疫の作り方を謝憐に教えます。「そんなの聞いてない!解決法を聞いてるんだ!」白無相「これが方法だ。ただ、するかしないかは君次第だ。永安人は仙楽国に怨みがあるが、仙楽国も永安人に恨みがあるはずだよな?どう呪術をかけるのかが分かれば、同じ方法で永安人に人面疫を仕掛けることができる。人面疫が爆発すれば自ずと勝てる」

 

謝憐「そんなのできるわけがないだろ」白無相「どうしてできないんだ?汚名を背負うのが嫌なのか?先に呪術を仕掛けたのは向こうだ。君は仕返しするにすぎない」謝憐「人面疫は兵士には感染しにくい。罪のない平民を攻撃しろと言うのか?」白無相「太子殿下、君を温柔郷に誘い込んだのが誰か忘れるな。それは君が言う''罪のない''平民だ。君はいつも人のために考えるけど、他の人は君のことを考えてくれるわけではない。君ばっかり損じゃないか?」

 

この部分の改変では、神である謝憐が人界の出来事(国の滅亡や戦)に介入したことで、白無相が生まれたということを印象付けているように思います。終盤全てが明るみになる時に、謝憐の師匠が同じようなことを言います。そこへ繋がる部分の加筆だと思います。

 

・白無相の仮面を取ると謝憐の顔だった、というのも削られています。

・これ以降の部分(地震が起こって太子像が倒れるくだりや、皇極観で少年が「永遠に忘れない!」と叫ぶ場面など)はほぼ同じだと思います。

 

ちなみに、原作のネット版では、その時更新した文章の最後に、作者のコメントを書いてくれています。この場面については、ボロボロの神廟の中にいる忘れ去られそうになっている神明と、少年の信徒というのは、この作品の中で一番印象的な部分だと語っています。そして、この作品を書く動機になったのが、この場面だったそうで、このシーンを書くために作品を一つ書き上げたとのことです。そのことを念頭に置いてこの場面を読むと、とても感慨深く感じます。

 

 

過去編はここまでです。次に現在軸の改編部分を見ていきます。

・戚容の洞窟で鬼に化けたり、お互いの手に字を書いたりするくだりがなくなったので、青年に憑依する部分の説明が別で付け足されました。戚容は、あの日仙楽皇陵で郎千秋や花城に叩かれて、魂が散りそうになった時に急いで逃げました。しかし、魂が弱い状況では普通に人に憑依することができないらしく、騙すことでしか、人の肉体に憑依することができないのです。

 

本当は皇族や貴族を騙してその肉体に憑依しようとしたものの、騙されてくれる人がいませんでした。もう生きたくないと言う、酒と賭けに溺れた青年が肉体を貸してくれることに同意したので、仕方なくこの青年に憑依したとのことです。''仕方なく''というのは、戚容の父親が酒と賭けに溺れたような人だったので、本当は戚容はこの種の人間が大嫌いなのですが、他に憑依できる人がいないので、仕方なくこの青年に憑依したことが語られています。

 

・戚容が謝憐の首につけているネックレスに気がついて、色々やりとりするくだりも改編されています。ネックレスを発見するくだりがなくなっていますが、そのあたりの会話は残されています。

戚容「花城がお前に近づいたのはきっと何か裏がある。いつか何かされても俺のところに泣きに来るなよ!神官なのにあんな''絶''とつるんでるなんて、君吾はどうして何も言わないんだ?上天庭はほんと恥知らずだな。」

謝憐「第一に、''君が''私のところに泣きに来ることしかない。第二に、そんなに人聞きの悪いことを言うな。そんな話を信じる方がおかしい。私は花城主を信じる方を選ぶ、何事に関してもだ」

 

・三千灯が上がるくだりや、その前の余興の劇のあたりなどは、旧版と大きな改編はありません。

 

・三千灯が上がった数日後、菩荠観に食べる物がなくなり、郎蛍と谷子を連れて街に出かけるエピソードがあったと思います。新版では郎蛍は最初から登場しないし、谷子は村長の家に預けられる設定になっていました。なので、妊婦がいるお金持ちの家に入るのは謝憐一人になっています。それに伴い、胎霊が部屋から出た後、郎蛍と谷子のいるところで黒煙が渦巻くあたりの描写が、知らない人の家の子供に置き換わっていました。

 

・水中キスシーンですが、ほぼそのままです。「唇が重なり合う」みたいな直接的な表現がなくなっただけで、シーンの描写もそのままだし「冷たくて優しい気が送られてきた」や「謝憐が顔を傾けると頭の後に添えられた花城の手で元に戻された」の描写もあります。その後の謝憐のタジタジもそのままだし、鬼市の水辺での鬼達の「手伝いましょうか?」もちゃんと残されています。''ヤリたいんですね''と''押さえておきましょうか?''は無くなっていました。

 

逆に、削除された語句や文章は次の部分だけです。「片手は腰に回され、もう片手は顎を捉えている」「冷たくて柔らかい何かが唇を塞いだ」「唇もしっかり塞がれている」「一瞬だけ離れた唇が再び重なり合う」「ヒリヒリして痛いほど口付けられ、麻痺しそうになった」

しかも、''額をくっつけて''みたいな描写もないので、元々ここがキスシーンというのが頭にあると、読んでいる時にキスシーンとしか思えない描写なので、個人的にはそこまでがっかりする改編ではなかったです。

 

・この後、晩御飯に出かける前に、謝憐が花城の紅い服を借りて着る描写が足されていました。謝憐が着替えて出てきた瞬間、花城が少し呆気に取られる描写があります。(謝憐の服装はいつも白だし、紅い服は婚服を連想させるので、それで呆気に取られたのかな?)花城の方が身長が高いはずなのに、この衣はなぜか謝憐にはちょうど良かったとの描写もあります。(花城が何かのために謝憐の体格に合わせて用意したのかな?何のために用意したのか気になります。)

 

・鬼市で歩きながら、謝憐が笑い出して「こんな言葉を思い出したよ」「どんな言葉?」「虎の威を借る狐」「哥哥、ひどいよ。僕を狐だなんて」謝憐は言葉に詰まります。旧版ではこの言葉は、謝憐の頭の中に浮かんだだけなので、会話としてここも付け足された箇所です。

 

・この後、千灯観で一緒に字の練習をするときに、謝憐は白い花が目につきます。旧版では目に留まるだけで終わるのですが、新版ではここで「この花は可愛いね。''血雨探花''の''花''はこの花なの?」と会話が続きます。

 

・謝憐「三郎、衣を貸してくれてありがとう。洗ったら返すよ」花城は笑いながら、「いやいいよ。この衣は着たことがないんだ。哥哥に似合ってたから、とっておいて」(やっぱり何のために謝憐の体格に合わせて用意したのかが気になります...)

 

・骸骨の輦輿で「結婚しよう」というくだりは丸々削られていました。謝憐「三郎、さっき言いたいと言っていたことは何?私もいろんな推測があって、聞いてほしいんだ。このことは解決してなくて、始まりな気がする」「いや、もう終わった」と会話が続きます。旧版ではこの会話の合間に''結婚しよう''や''冗談で言ったらダメだろう''が挟まるのですが、丸々無くなった感じです。骸骨達の会話で、''奥さんになる人を乗せるためのものよね''は残されています。その後、到着してからの「僕のところに引っ越してきたらいいのに」もそのまま残されていました。

 

・村人に花城が結婚しているか尋ねられた場面で「妻は・・美しくて賢くて、小さい頃から好きで、何年も好きで、苦労して受け入れてもらった」に変わっています。''金枝玉葉の貴人''という表現がここでは無くなっていました。

 

・その後謝憐がもう一度花城に尋ねる場面で、旧版では「全部が嘘じゃない。まだ受け入れてもらえてないだけなんだ」と言った後に花城は農作業に戻り、謝憐はしばらく呆気にとられた後に作業を開始する流れでしたが、新版では少し変更されています。

 

花城「全部が嘘じゃない。まだ受け入れてもらえていないだけなんだ」謝憐「・・・」花城は謝憐の前で手を振りながら「哥哥?」と尋ねます。謝憐は気がついて、「仕事しよう!仕事!残り少しだから、私がやるよ、休んでて」と田んぼの中に突っ込んでいく勢いで向かった、との描写があります。そして苗の列が途中から曲がっている描写もあります。大きな改編ではないですが、より、謝憐が呆気にとられているのが印象的になる描写なのかなと思います。

 

・黒水島で謝憐が人工呼吸するシーンも''唇を重ねた’’というような直接的な描写はなくなっています。''周りに誰もいないのを見て「失礼する・・・」そう言った声は少し震えていた。話し終わると、心の中でひとしきり何かを唱え、俯いて目を閉じた。それと同時に、花城も目を開いた。''という感じです。''唇を重ねた''と言う描写がない以外は旧版のままです。この後の謝憐のタジタジ具合も旧版通りです。人工呼吸しているシーンというのが頭にあれば、そうにしか見えない描写だと思います。

 

・棺桶に一緒に入るシーンは、花城が下になっている状態で棺桶が何度も何度も裏返っている描写までは同じです。''あるところが反応した''の描写はなくなり、「もうこれ以上は・・・」が「もう出られるかなぁ」に変わっています。そして、「もう出られるかなぁ」の後すぐに「出よう!」で飛び出します。お互いの''触らないで''や’’動かないで’’は無くなっていました。

 

・黒水の復讐の終盤で、口付けしながら法力を奪い合う場面では、額をくっつけて、に変わっていました。

 

・三巻最後の、花城の法力が暴走する部分のキスシーンも、額をくっつける描写に変わっていました。’’両手で花城の顔

を包み込み、額をくっつけた’’みたいな感じです。

 

・謝憐が胎霊を捕まえる話、胎霊の母親を探して天界に連れて行く話、黒水の復讐の過程など、他の部分はほぼ旧版のままでした。

 

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このあたりの甘い箇所の改編はきっと残念がる方も多いですよね...おねだり

 

個人的には、新版ではキスシーンが無くなっているという前情報があったので、心準備して読めたのもあるし、''唇を重ねた''とか''某所が反応した''とか直接的な表現が削られた以外、前後の描写も旧版のままなので、思ったよりは残念な改編ではなかったです。

 

旧版である程度、このシーンは口付けだなと分かっていれば、読みながら頭の中でキスシーンが勝手に再現されるので、全然これでも楽しめました。BL小説がドラマ化された時に、心震える愛情物語が友情物語にすり替わってる残念さに比べたら百倍千倍マシですおやすみ

 

今回で第5回目ですが、第3回目以降は改編が多めなので、削られたところやまとめられて簡潔になった部分は、紹介しているのはほんの一部で、細かい部分は拾いきれていないと思います。花城と謝憐が絡む部分や、大きめの改編を中心に拾っています。

 

改編に伴って、旧版にあったサブタイトルが無くなっていたり、結構な数が新しいサブタイトルに変わっていて、大事な内容も前後の章に取り込まれたりしています。そのため、どこがどう改変された、とはすごく書きにくいのですが、読んだ印象としては、大事な情報は残りつつ、全体的に分量がコンパクトになっています。

 

一度、通しで読みながら大事そうな改編部分を拾って紹介し、読み終えた後、じっくり旧版と付き合わせて精査した際に、大事そうな改編の抜け漏れがあれば、また追ってまとめます。