天官賜福の新版(2023年5月発売)の、改編されている箇所その③です。

・極楽坊で地師を救ってから、花城と郎千秋が戦って武器庫が燃える話があったと思います。新版では、燃える前の戦う描写が増えていました。武器庫の壁には絵画がたくさん掛かっていて、絵の中の子供が弓矢で攻撃してきたり、謝憐が血で絵の中の弓の部分を塗りつぶすと、横の絵の中の木こりのお爺さんが即席で弓を作って子供に渡してあげたり、絵画の中の滝の水が武器庫に流れ込んだり。作者の遊び心が垣間見れました。

 

・謝憐は地師を助け出した後、そのまま神武殿で郎千秋に芳心国師だと指摘される流れでしたが、新版では助け出した後に、君吾が建ててくれた仙楽宮で三日ほど寝てから神武殿で会合が行われ、その時に明るみになります。

その後花城にさらわれて、風信と慕情が追いかけるときに女湯に出てしまったり、ワニ妖怪のいる沼に出る設定だったのが、女湯はそのままで、ワニ妖怪の方はゴミの山に変わっていました。慕情は昔、謝憐と修行する前は掃除をしていたので、汚いところが耐えられない、という描写になっていました。花城が言う’’一番怖いと思うものがある場所に出てしまう''という言葉に合わせての変更だと思います。

 

・謝憐が花城に尋ねた「二の目を出したら会えるの?」の会話が少し付け足されました。花城「僕に会いたかったら何の目が出ても会える」謝憐「・・・」花城「投げた時、僕の名前を呼んだだろ?だから会いたいのかと思って行ったんだ」しばらくして謝憐が答えます。「来たのはそんな理由?」花城「上天庭なんて場所、僕が行く価値のある他の理由なんてない」

 

・その後、郎千秋が追いかけてきます。新版では謝憐はここで郎千秋と割ときちんと対戦しながら、彼の武術の弱点を指摘し、最後の指導をします。それが全部的を得ていて郎千秋が歯痒くなる描写になっています。郎千秋「良い加減にしろ!俺は指導を受けにきたんじゃない!決闘をしにきたんだ!」謝憐「さっきまでの技はなんだ?そんなのでよく決闘なんて言えたな。天地の間で、私と決闘できる人なんて片手で数えるぐらいしかいない。お前がその中に入るとでも思ってるのか?」←すごく痺れませんか??新しい謝憐を見た気がして、謝憐に痺れました絶望

 

・謝憐「郎千秋は良い奴なんだ」花城「そう?どこが?哥哥言ってみて。僕の気が変わるかもしれない。」

謝憐「心にはかりごと(陰謀)がないとか」

花城「間抜けなだけでしょ?」

謝憐「誠実なとことか」

花城「間抜けなだけでしょ?」

謝憐「とても.....とても...」

花城「間抜けなだけでしょ?」

謝憐「まだ言ってないのに...」

 

・その後、花城は謝憐の腕の傷を療養させるために、なんだかんだ理由をつけて、謝憐と悠々と数日過ごします。一緒にお祭りに行ったり、お祭りでは謝憐に金の花の飾りをあげたり。謝憐も大事にそれを受け取って袖にしまったり。一緒に劇を観たり。デートみたいでとても尊いです。

 

・謝憐が芳心国師をしていた時、ずっと冷たい顔をして、誰も届かないような高みにいるような表情をしているから、ただその辺をぶらぶらしているだけでもみんなに“あれはきっと秘密の任務だ''と思われていたようです。

謝憐も変な、いかがわしい儀式が好きで、よくそれらしい儀式をやっていたのですが、みんな神秘的な儀式だと勘違いして、とても尊敬されたようです。

ある日、宮殿を二つ爆発させても国王も王妃も何も怒らず「国師、わかってます。全ては国民のためですよね!」と言うもんだから、謝憐はご飯を作ろうとしただけなんだけど...とは言えなかった描写があります。←このくだり、面白くないですか笑い泣き謝憐、可愛すぎます。国師をしてても謝憐は謝憐なところがツボりました。

 

・回想で、郎千秋が謝憐に自分を救った剣式(双方の攻撃を一身に受けて仲裁するもの)を教えて欲しいと言った時、謝憐は「君は太子殿下だからそんなこと習う必要はない」と言いました。その時、謝憐はこんな例えで説明します。

 

''砂漠に二人いて、どちらも喉が渇いて死にそうだった。水は一杯しかない。飲まないと死ぬから喧嘩になる。この時三人目が来て喧嘩をしないように説得しても、根本的な解決にならないから、無駄だ。二人が喧嘩をしないために、三人目ができることは、自分の水を差し出すことしかない。この剣式も同じことだ。双方の攻撃を自分が受けることで仲裁している。愚かな剣式だから、君は習う必要がない。''

 

新版ではこの後、郎千秋が「俺が太子殿下だからだよ。天下の水は俺の手の中にあるんだ。俺がその三人目をしなければ、他に誰ができる?」と言います。謝憐の弟子らしい発言ですよね。そして謝憐によって、この剣式の名前が「無名」という名前であることも付け足されました。

 

・花城が仙京で謝憐をさらって、郎千秋まで行方不明になったことが、旧版よりも大きな騒ぎを引き起こし、両界の戦に発展しそうになります。(天界が鬼界を討伐する良い言い訳になるため。)謝憐は郎千秋を早く天庭に返さないといけない、と思いますが、でも花城はなかなか郎千秋を解放する様子がありません。夜になって、謝憐と花城は別々の部屋で寝るのですが、花城が郎千秋を不倒翁に変えて持っていると思った謝憐は、花城をお札で眠らせ、その隙に花城の服の中をまさぐりながら探す描写があります。案の定、服が良い感じに綻びたところで、花城は目覚めます。その時の気まずさと言ったら...。謝憐「・・・三郎、起きたんだね!」花城「兄さん、同じ部屋がいいのなら早く言ってよ」←

 

・鎏金宴の真相がだいぶ様変わりしていました。前回、郎千秋が飛昇した理由が、仙楽国の怨霊を全て度化(導いて救うこと)した功徳がたまったことだと紹介しました。新版では、なんと旧版で犯人だった安楽王は登場しません。

 

仙楽国民の怨霊の一部(恨みが強くまだ度化が済んでいないもの)が鎏金宴で虐殺したということになっていました。(郎千秋は十二歳から度化し初めて全て度化が終わったのが二十歳頃です。鎏金宴は十七歳の誕生日なので、この時点では怨霊はまだいます。)そして、謝憐は誰も殺していなくて、怨霊によって噛まれた死体の痕跡を消すために死体を損壊しただけ、ということになっています。

 

なぜ痕跡を消す必要があったのか?旧版と同じような理由ですが、郎千秋に、自分が一生懸命救ってきた仙楽国民の怨霊が、自分の家族全てを虐殺したという事実を知って欲しくなかったのです。「善意」は「善意」で返される、と教えてきたので、それを信じたままでいてほしかった、という感じです。

 

しっかり損壊しないと怨霊の仕業だというのがバレてしまうので、そんなふうに謝憐が損壊する現場を見て、郎千秋が芳心国師を犯人と思い込み、謝憐も認めたので、そのまま犯人として四十九本の釘で釘刺しにされて埋葬されます。つまり、謝憐は自分一人の命と引き換えに両族の太平を得ようとした、ということになります。

 

また、郎千秋が小さい頃、鬼に付き纏われていたのを、実は謝憐が助けたという話も追加されていました。戚容が繰り返し郎千秋に悪さをしようとするけれども、他の法師では全く歯が立たなくて、戚容のことをよく知る謝憐でしか郎千秋を守り切れなかったとのことです。(つまり、謝憐はずっと郎千秋にとって恩人だったというのがより濃くなっています。)

 

さらに、真相解明の現場も、戚容の洞窟ではなく、仙楽国皇陵の中でした。戚容がここを拠点にしているという設定です。

 

・真相解明した後、謝憐は色々気持ちの整理がつかず、気が動転して、花城に「お願いだからどこかに行って」って言ったりします。花城は立ち去るふりをして見守ったり。少ししてから、腕を振った拍子に、祭りで花城からもらった金の花の飾りを崖の下に落としてしまった謝憐が、それを追いかけて飛び降りようとするのを花城が止めたり。

 

「哥哥、僕のことはいらないのに、どうして贈った花はそんなに気にするの?」「君のことをいらないとは言ってない!絶対にない!」「さっき僕にどこかに行ってって...」「ごめん...」そんな会話を交わして少し落ち着いた時に、謝憐は「郎千秋には、善意が踏みにじられたと思って欲しくなかったんだ」と言います。それは自分が過去に嫌というほど経験してきたことだから。

花城は「でも永遠に真実を隠し通すことはできないし、彼自身が本当の世界を知る必要がある。それに、そんなに彼を評価しているなら、どうして信じてあげないの?恨みの中でも自分を見失わないって。たとえ世界を滅ぼそうと思ったとしても、最終的には彼はそうはしないって。」このあたりは花城の真意の描写も増えています。

 

少し考えて謝憐が続けます。「私は疫病神だから、やっぱり友でいない方がいい」花城は謝憐の手を握りながら「殿下、あなたの間違いではない。あなたは誰よりも上手くやった」と返します。謝憐は初めてこんなふうに誰かに慰められたと思います。

 

・謝憐が花城にどうして犯人が分かったのか、尋ねたときの会話が少し増えていました。花城「少なくともあなたではない」謝憐「どうして?本当に私が犯人かもしれないよ。どうして私がそうしないと思うの?」花城「思っていても、あなたはしない。僕も小さい頃は毎日世界中の人を殺したかったけど、そうはしなかった」この後に謝憐の「誰かを美化しすぎない方がいい」の会話が続きます。

 

・新版では、最後の血雨が風信と慕情の両方に降り注ぎます

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戚容の洞窟が仙楽国皇陵に置き変わっているので、洞窟に向かう描写(お互いの手に指で字を書いたり、二人とも青鬼に化けたり)も全て消えているし、この辺りは本当に改変が多くて、付け足された物語も多くて、旧版の特徴を少し残しただけでほぼ新しい物語を読んでいるような感じでした。

 

でもその分、無駄が削られて、肝心な会話が付け足されて、作者の意図や伝えたいものがより明確になったと思います。新版で付け足された会話はきっと強調したい部分なので、それを念頭に置いて旧版を読むと、もっとその場面が理解しやすくなるのかなと思います。

 

一つ前の記事(天官賜福71)で、花城が祈願を見ない理由として「人に頼るより、深淵を這い出そうとするなら自分でなんとかしないと。毎回誰かが助けてくれるわけじゃない」と言った場面があります。今回も「永遠に真実を隠し通すことはできないし、彼自身が本当の世界を知る必要がある」と言っています。

花城が謝憐の意に反して、真実を明るみにしたかったのは、鎏金宴の記事(天官賜福68)でも紹介したように、花城は「万人には皆それぞれの苦があるけれども、皆その内情を知った上で、自分自身で乗り越えて成長する必要がある。そしてどんな真実も、誰かの''善意''や''勇敢''によって埋もれることは正しくない」そんな考え方を持っていたのではないかと、改めて思います。

 

新版、こんなにたくさんの改編がされているとは思いませんでした。次回は、過去編の改編部分になります。