君吾がしたことについてまとめてみたいと思います。ネタバレを含むので最後まで未読の方はご注意ください。

物語全体を通して、君吾目線で描かれている部分はほとんどないため、花城や謝憐の推測の中からヒントを得たり、全体の構図から推測するしかないので、意外とわかりにくい部分だと思います。今一度、まとめてみたいと思います。

 

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①謝憐に与君山の任務を与え、宣姫に辿り着けるように胎霊で導かせ、裴茗の勢力を削ごうとした。

 

②宣姫だけでは裴茗の勢力が削げなかったので、空殻を使って謝憐を半月関に遣わせ、裴宿を失脚させ、結果的に裴茗の勢力を削いだ。

 

③謝憐に地師救出の任務を与え、結果的に水師と風師を蹴落とした。ここは順を追って見ていきます。

 

・(君吾の正体が判明してからの花城の推測で、)君吾はおそらく最初から水師の弱みも、黒水が地師になりすまして天庭に潜入していたことも知っていたのではないか。

 

・謝憐は三巻の終盤で、''君吾が(スパイである)地師を鬼市に潜伏させたなんて、盗人を賊の巣窟に送り込んだようなもの''と言っていましたが、先程の花城の言葉を受けると、君吾は黒水が地師になりすましているのを知った上で、わざと黒水を鬼市に潜伏させたと思います。

 

そうすることで、スパイが天庭でうろうろすることがなくなるのです。たださすがの君吾も、まさか黒水の分身が50もあるとは思いもよらなかったのではないかと思います。

 

 

以下の青文字の部分は三巻の終盤でも語られています。

 

・本物の地師は飛昇して天庭に上がる前に黒水と花城にさらわれて監禁されています。経歴や、技術、法器の使い方など、色々聞き出すために生かせておく必要がありました。飛昇して他の神官と接触してしまうと、なりすますことが難しくなるため、天庭に上がる前にさらわれて監禁された可能性が高いのです。

 

・火龍啸天で助けを求めたのは本物の地師です。これは不測の事態だったため、花城は協力関係である黒水のために事後処理しに行きました。火龍啸天が出てしまった以上、辻褄が合わせのために理由が必要になります。そこで花城と黒水は、地師が鬼市に潜入したことが明るみになったことにします。

 

・花城は手下である下弦月使に、咒枷を使って謝憐の注意を引き、監禁場所まで導かせて、花城も謝憐に運気を貸してあげて、謝憐が無事に黒水がなりすました''地師''を見つけられるようにします。

 

・本物の地師はこの時既に死んでいます。

(助けを求めた時に爆死したのか、黒水に殺されたのかは書かれていません。でも、この助けは危険で命を落とす可能性があり、やむを得ない事情がなければ使わないと説明されているので、個人的には助けを求めたと同時に爆死したのではと思っています。←黒水を悪い人にしたくない...)

 

・ちなみに、黒水が狸寝入りしているような描写があります。

地師を地牢から連れ出す時、師青玄は「明兄、喧嘩強いんじゃなかったの?半月関の時はピンピンしてたのに、わずか数日でどうしてこんな姿になったの?花城をどうやって怒らせたの?」と尋ねます。地師は「黙れ!」と返します。謝憐も気になって「花城はどうしてこんなことをしたの?」と尋ねますが、何も答えないので、見てみると目を閉じていました。謝憐はきっと拷問で疲れて眠ったと思います。この質問が答えにくいから狸寝入りしたんだと思います。

 

・極楽坊で郎千秋と花城が戦って、その流れで極楽坊が燃えて謝憐や地師達は脱出しましたが、本当は花城も最初から何かしらの理由をつけて逃すつもりだったと思います。

 

・君吾は地師の正体を知った上で天庭に戻し、何らかの方法で黒水に仇が水師であることを伝えます。

 

(どう伝えたのかは書かれていません。伝える描写もありません。君吾の正体が判明した後に、花城が推測しています。「もし僕が君吾なら、きっと師無渡が目障りだ。師無渡を蹴落としたい時は、自分の手を汚すまでもなく、黒水に命格を変えたことを吐露すれば良いだけだから。」)

 

・黒水は犯人が分かれば勝手に復讐するので、結果的に君吾は自らの手を汚すことなく、水師と風師を蹴落とします。

 

④(後の花城が推測)君吾が郎千秋を謝憐と一緒に鬼市に遣わしたのは、謝憐が芳心国師をしていたことも、二人の因縁も知っていたから。その結果、君吾の目論見通り、謝憐が芳心国師であることが明るみになります。

 

⑤(後の花城が推測)君吾は師無渡の天劫の時に、漁民を数百人巻き込んでいます。

 

理由は書かれていないのではっきりとは分かりません。ただ、謝憐は黒水の復讐のことが明るみになってから、この三人のしがらみに関して自分は何もできないと思い手を引こうとしました。しかし漁民が数百巻き込まれたと聞いて、結局向かうことになります。謝憐を巻き込みたかったからかもしれません。

 

⑥(後の花城が推測)銅炉山に鬼を集結させています。君吾はいろんな鬼を銅炉山に遣わし、銅炉山で新たな「絶」を出したいと考えました。理由としては、君吾としては人界に禍をもたらす''悪''も見たいし、悪が現れると人々は神に祈願し、祈願する人が多くなれば君吾の法力も強くなるためです。

 

 

君吾はなぜ神官の勢力を削ごうとしたのか?

君吾は、元々あった上天庭を転覆させてから、今の上天庭を築いたので、同じことが起こらないよう、他の神官の権力が大きくなりすぎないよう、常に気を配ることになります。つまり、君吾は警戒心が強く、自分の地位を脅かす存在を野放しにできないのです。

 

ここで灯会の灯の数に注目してみます。灯の数はいわば、勢力の縮図なのです。

今年の君吾の数は961灯です。去年の明光殿の数は君吾に次いで、今年よりも100多かったそうなので、681程あったことになります。そして今年は勢力を削がれて、それでも581灯ありました。

 

今年は、水師が君吾に次ぐ数781灯となっていて、発表されるや否やあちらこちらで歓声が湧き上がりました。きっと君吾はこの時、水師の勢力を削ぐ時が来たと思ったはずです。実際この灯会の後、黒水の復讐が始まり、水師・風師の勢力が削がれます。

 

 

なぜ勢力が拡大してから蹴り落とすのか?

花城が後に語りますが、君吾にとっては弱みがある神官の方が牽制しやすいのです。勢力が大きくなり過ぎれば、弱みという切り札を出すことで、簡単に勢力を削ぐことができます。しかし飛昇してすぐに弱みを明るみにして失脚させたとしても、代わりに他の人が水師になってしまい、その人がもし弱みがなければ牽制が効かないのです。

 

ちなみに同じ理由から、君吾が胎霊を保護したのもいつか風信を牽制するため、錦衣仙を保管していたのも霊文を牽制するためだったのではないかと思います。実際、新版では錦衣仙の記憶を改ざんしたこと、錦衣仙を邪悪なものにしたことに君吾が関わっていると花城は推測しています。裴宿の命運を握っているので、裴茗の牽制もできます。

 

拾いきれていない部分で、君吾はもっと他にも沢山手を回していたかもしれません。

 

君吾の統治術

謝憐に任務を与えて功徳を得させることで謝憐は君吾に感謝するし、謝憐が貶めた神官が恨むのは謝憐だし、君吾はそれによって自分自身の勢力を守れるし、一つ一つの任務の裏には謝憐がどう行動するのか試している部分もあります。一石四鳥ですよね。

 

そして同時に、彼は父親かのように謝憐を激励し、他の神官の前でも謝憐の肩を持って、謝憐が自分に対して感謝や罪悪感、頼りにする気持ちを持つように仕向けています。

 

こうしてみると君吾の統治術、凄くないですか?どの一手も、裏にはいくつもの意図があり、感嘆してしまいます。ある意味、こういうことができる器用な人しか、帝王として君臨できないんだろうなと思います。

 

そして、君吾の目線では一切語らずに、状況と登場人物の推測だけで、ここまで君吾の統治術を書き上げた作者にも、感嘆しかありません。