季節柄、色々所用で更新が空いてしまいましたぐすん今日は霊文についてです。

霊文と言えば、謝憐が三度目の飛昇をしてから、他の人は謝憐に冷たいのに、霊文だけが普通に接しているので、悪くない印象を持っている方も多いと思います。彼女にももちろん過去や背景があります。今日は彼女について見ていきたいと思います。霊文と錦衣仙に関して大いにネタバレを含むので、ご注意ください。

飛昇前

霊文は人間の頃の名前は’’南宮傑’’と言いました。飛昇前は靴売りで、時々お金を貰って恋文やお経を代筆することを仕事にしていました。才能があるにも関わらず、ただ女性であることが原因で、そんな境遇を甘んじて受け入れなければならなかったのです。

 

ある時、国で論文の大会が開かれ、当時の文神の神官である’’敬文真君’’が人間に化身して参加し、『須黎賦』という文章を書きます。彼は間違いなく自分が優勝すると確信していましたが、南宮傑の書いた『不須黎』という文章に優勝を取られました。(南宮傑の書いた文章に関して、花城は''悪くない''と評しています。)

 

敬文真君はすぐに、誰が優勝をとったのか調査すると、靴売りの、しかも女性が書いたことが判明し、驚きます。須黎国の国主はこれに激怒して、南宮傑を投獄します。その時、敬文真君に副将として指名されて、南宮傑は飛昇しました。

 

飛昇後

しかし、敬文真君は南宮傑の才能に惚れて副将として指名したわけではなかったのです。敬文真君は大会で負けたにも関わらず、自分の度量を誇示するために、わざわざ南宮傑を副将として指名し、南宮傑は霊文として敬文真君の元で神官になります。

 

しかしその後、長年にわたって、霊文は敬文真君から嫌がらせや中傷を受けます。ただお茶汲みをさせられたり、読書や文章を書く時間もないぐらい雑用を押し付けたり、真夜中まで仕事を強いられることも度々ありました。霊文は投獄されていた時の方がまだマシだったと言っています。

 

そのうち、ただの靴売りがどうして飛昇できたかに関して、いろんな噂が流れ始めます。きっと自分の美貌で、神官を誘惑して飛昇したんだ、と考える人までいました。その後、次第に敬文真君の勢力は落ちていきます。信徒が多ければ多いほど法力は強く、信徒が少ければ少ないほど法力は弱くなります。

 

敬文真君は須黎国の人なので、靈文は敬文真君の信徒がたくさんいる須黎国を滅ぼして復讐しようと思います。

 

復讐

当時の須黎国は衰退していて、風前の灯でした。唯一、白錦という少年の将軍が何とか支えていたのです。しかし、この将軍は知能が低く、他の人達から馬鹿にされていました。白錦は、人間に化けた霊文に恋をしてしまいます。

 

霊文は目標の為なら手段を選ばないような人で、野心家でした。その時の霊文はただただ復讐することしか頭に無かったのです。でも霊文は神官なので、人間を殺すことができません。そこで、霊文は白錦の誕生日にある服を作って贈ります。その服とは、着た人の判断能力が鈍り、着せた人の命令を聞くようになるものでした。

 

この服は、服というより、袋のような形をしていました。白錦は初めて好きな女性からの贈り物に興奮し、何も考えず被りました。しかし、手を出す袖口がありません。「どうして手が出ないの?」と尋ねると、「初めて作ったの。手がなかったら出す必要はないわよね」と言われて、自らの手を切り落とします。

 

次に、「どうして脚が出ないの?」と尋ねると、「脚がなかったら出す必要はないわよね」と言われて、他の人に頼んで自らの足を切り落としてもらいました。最後、「どうして頭を出すところがないの?」と尋ねると、霊文がまた答え、そうして白錦は死んでしまいました。

 

霊文は最初からこの服を通して、白錦を自殺させて、須黎国を滅亡させようとしたのです。白錦はもともと才能があり、飛昇に近かったこともあり、その血と怨念が服についたことで服は「錦衣仙」となります。そうして霊文は須黎国を滅亡させて、敬文真君に取って代わりました。

 

錦衣仙について

錦衣仙には白錦の魂が憑いていて、他の人が着ると判断が鈍って着せた人の言いなりになってしまうのに、霊文がそれを着ると武神のような戦力を発揮することができます。つまり、彼は生きている時も、死んでからも霊文のことが大好きなのです。

 

彼は霊文によって酷い死に方をしたのに、死んでからも霊文の言いなりになり、彼女を守ろうとする、その愛の深さに思い至る時、ため息が出ます。

 

少し見方を変えると、白錦は霊文の一番忠実な信徒でもあるのです。花城は謝憐と一緒になることができるけれど、白錦は怨念が服に憑いただけなので、霊文に着てもらえるだけでも嬉しかったに違いありません。

 

また彼は、自分と同じように、愛する人のために全てをかけられるような一途な人が好きなので、花城と謝憐の二人には効果がありません。

 

靈文の錦衣仙に対する気持ち

錦衣仙は権一真が引玉によって着せられた後、ずっと君吾によって保管されていました。銅爐山が再び開いた時に、霊文によって盗み出されたのです。

 

次に、霊文の気持ちを、霊文と謝憐の対話の中から見ていきます。

(霊文が謝憐の胸元についている指輪を発見した際の会話です。)

 

霊文:「恋や愛で周りが見えなくなって、自分の命に関する物を他の人の手に委ねたときに、悲しくて恐ろしいことがたくさん起こり得る。真心なんてものは他の人に蹂躙されてしまうもの。骨灰で作られたものなんて、他の人に奪われたり、割られたり、基本的に良い結末を迎えるものはほとんどない。太子殿下は例外で、隙がないくらい完璧に保管できていると思う。」

 

謝憐:「''似ている'' や''共鳴''と言っていたけど、白錦将軍もそんな人だったの?」

霊文:「そうじゃ無かったら、私なんかに騙されないでしょ?」

 

謝憐:「騙したことにはならないと思うよ。私が錦衣仙の消息をわざと出したんだけど、それでも取りに来たんだから。」

霊文:「防衛の利器だからね。」

 

謝憐:「ただの防衛の利器なら、当初危険を冒してまで盗まなかったし、その後も彼を連れて銅爐山に行かなかったはず。」

霊文:「銅爐山に行かない他ないじゃない。太子殿下にバレてしまったんだから。」

 

謝憐:「言い訳しようと思えばどうにでもできたはず。等級や功徳は少し減るかもしれないけど、それでも逃亡犯になることはなかった。白錦将軍を「絶」の鬼にしてあげて、知能を回復させてあげたかったんだよね?」

霊文:「太子殿下、私をそんな良い人間に思わないで。私は冷酷な人間なんだから、そんなことするわけないでしょ?」

 

謝憐:「そうなの?」

霊文:「そうよ。」

 

人間界も天界も、女性に対して公平でないことが、霊文を殺人者にさせてしまったし、彼女自身にも、自分自身のことを誰に対しても情を挟まない冷酷な人間だと言わしめています。

 

銅爐山に彼を連れて行くことで、彼を「絶」の鬼王にすることで知能を取り戻させ、再び世に出してあげようとしたのです。自分の身分を顧みずに、危険な状況で盗みに出たことも明らかだし、逃亡犯になってまで彼を銅爐山に連れて行ったことや、彼を着ている時も彼の気持ちを考えて男性の姿でいたこと、彼の気持ちを読み取っている描写もたくさんあります。

 

それらが本当に罪悪感だけなのか?と考えると、違うように思います。

 

霊文について

謝憐が三度目の飛昇をしてから、他の神官は避けたり嘲笑したりしますが、彼女だけが謝憐を案内し、頼まれごとを引き受けています。他の人のように嘲笑したりせずに、他の神官と同じ扱いをして、他の人の前でも「太子殿下」と呼んでいます。このことからも彼女が決して権力や名声になびくような人間でないことがわかります。

 

ずっと仲の良かった師無渡が死んでからも、他の神官達が掌を返して誰も葬儀に行かなかったにも関わらず、彼女と謝憐は参加しています。彼女は弟の師青玄の面倒も見ようとしました。師無渡はすでに死んでいて、権力も名声もないのにです。そのことからも分かるように、彼女は本当は義理人情の強い人間なのです。

 

終盤、霊文は神官として間違いを犯したとして監禁されますが、他の神官達では天界の溢れる文書の処理ができなくて、結局牢獄から出されます。霊文は一言で良い人、悪い人とは言えない側面があります。作者さんの人物の描き方、やっぱりすごいと思います。白でも黒でもない。だからこそ、一つ一つのキャラクターが生き生きとしています。

 

《追記》

この霊文と錦衣仙の話は、原作小説の旧版を元にしており、新版では内容が変えられています。そのため、日本語訳の小説も新版に合わせて内容が少し変わっている可能性があります。