昨日の続きです!

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数日経って、三人で街に遊びに出かけました。道中、謝憐はずっと紅紅児を抱っこしていて、紅紅児も謝憐の首をぎゅっと抱きしめて、時々耳元でひそひそ話をしたり、とても仲睦まじくしていました。花城はそれを見て、甘やかしたくなくて、冷たく「自分で歩け」と言います。「大丈夫だよ。人も多いし、抱っこしてる方が安全だよ。」「じゃあ僕が抱っこするよ。」怖い顔をしながら言うので、紅紅児も抱っこして欲しいとは思いません。でも紅紅児は謝憐が疲れるといけないと思い、自分から降りて「哥哥、自分で歩くよ」と言いました。良い子すぎる紅紅児を見て、謝憐はまた抱っこしたい衝動を必死に抑えて言いました。「じゃあ手を繋いで。疲れたら抱っこしてあげるから。」「うん!」

 

紅紅児の手は小さくて、柔らかくて、繋いでるだけで謝憐はとても幸せな気持ちになります。次の瞬間、もう片方の手が握られ、振り向くとそこには十五、六歳の姿の花城が手を繋いでいました。謝憐は左右の手を、大きい花城と小さい花城に繋がれ、幸せも二倍になりました。

 

はたから見ると、大人が兄弟二人を連れて遊びに出掛けているように見えます。謝憐が遊びに連れ出したのに、毎回お金を払う時は花城が素早く金箔を出してしまって、謝憐はお金を払う機会がありません。「二人とも欲しいものがあれば言ってね。私が出したいんだ。」謝憐は言いました。すると、しばらくしてから大きい花城も小さい花城も同じものを指差して欲しいと言いました。指差す方を見ると、そこには白い不倒翁がありました。数多くの不倒翁がある中で、真ん中の一番目立つところに花城姿と謝憐姿の不倒翁が置かれていました。

 

紅紅児は謝憐の服を引っ張りながら言います。「哥哥、白いのが欲しいんだ。」店主はそれを聞いて言いました。「坊ちゃん、これは一対の不倒翁なんだ。片方だけで売ることはできないんだ。二つ揃って買って帰ることで、運気も上がるんだよ。」大きい花城はそれを聞いて、大きく頷きながら同意しているようでした。謝憐は一対の不倒翁を買いました。

 

紅紅児は白い不倒翁を握りしめて、赤い不倒翁には見向きもせず、赤いのはどうぞ!と花城に言っているようでした。花城も何も言わず、赤い不倒翁を貰って行きました。「三郎、ごめんね。二人に欲しいものを買うって言ったのに、一対しかないから、白いのは一つしかなくて。」「哥哥、そんなこと言わないで。哥哥から貰ったの、気に入ったよ。」花城は、小さい自分とそんなことで争いたくなかったのです。彼はいずれは消えてしまうし、一対の不倒翁も最終的には花城のものになるのです。それなのに、今哥哥を困らせるようなことをしたくなかったのです。

 

しばらく歩いていると、謝憐はまた紅紅児を抱き上げていました。「どこか行きたいところある?」「ママ、あっちに行きたい!」謝憐をママと呼ぶ紅紅児を見て、道行く人は怪訝そうな顔をしました。謝憐は慌てて「間違って言っちゃったんだね。はははは」と誤魔化します。花城はそれを見て「哥哥、緊張しないで」と言います。「緊張してないよ。」「じゃあ恥ずかしくなったんだ。」「・・・」

 

「哥哥、こうしてみると家族三人に見えない?」振り向くと、花城は二十六、七歳の姿に変わっていました。今見れば、誰が見ても、子供の父親に見えます。紅紅児は謝憐の胸の中で「全然見えない」と言います。花城もそんな紅紅児を相手にせず、謝憐の腰に手を回して耳元で話しかけます。元々低い声を、小声で話すので、何とも言えない妖艶さになっていて、謝憐は顔が真っ赤になりました。

 

途中、三人は酒楼に入り、食事します。子供が好きそうなおかずをたくさん頼み、紅紅児は好き嫌いせず何でも食べるので、謝憐も嬉しくなって次々とおかずを入れてあげます。食べているうちに紅紅児の顔にはご飯粒が付きました。「顔にご飯粒がついてるよ。」謝憐はそう言いながら、手で粒をとり、自分の口に入れました。花城は「お前は餓鬼か。そんなに急いで食べるなんて。」と紅紅児をみっともないという顔で見ました。「子供なんだからそんなもんだよ。」謝憐は言いました。紅紅児が口を開きました。「しばらくこんな美味しいものを食べてないんだ。」それを聞いて、謝憐は涙がこぼれ落ちそうになりました。紅紅児は花城の全ての記憶があるわけではないものの、子供の時にお腹を空かせた記憶は持ってて、だからあんなに急いで食べていたのです。あんな小さい子供がお腹をすかして辛い思いをするなんて。謝憐は心が痛みました。そんな謝憐を見て、花城はすぐに何を考えているのか分かったようで、「哥哥。あまり深く考えないで。食い意地が張ってるだけだよ。」と言いました。

 

「哥哥。」服が小さい手に引っ張られて、謝憐は振り向きました。「どうしたの?」「これ!」紅紅児はスプーンで豆腐をすくい、「これ美味しいよ。食べてみて」と言いました。謝憐は嬉しくて一口で食べました。口の中も、心の中も甘くて幸せな気持ちになります。「うん、確かに美味しい!」言いながら、紅紅児の手にキスしました。

 

次の瞬間、肩に手を置かれ、振り向くと大きい花城が寂しそうな顔をしていました。「さっきの、俺にはないの?」すかさず紅紅児が口を開きます。「君は大人でしょ。子供の僕と張り合うなんて、恥ずかしくないの?」姿は子供ですが、口は一丁前で、もう一人の自分が何を考えているのかよく分かるのです。謝憐は花城の手に口付けをしました。花城は挑発する目で紅紅児を見ました。紅紅児は怒って口をとんがらせます。謝憐は急いで紅紅児の顔をさすり、あやしました。

 

「額十二回、頬十二回、左手八回、右手八回。」後ろの少年が言いました。「・・何?」「哥哥が今のところ今日この子にキスした場所と数。」「・・・」まさかそんなこと数えていたなんて。花城がどうしてほしいのか、謝憐はもちろん分かっています。でも外にいるのでここで花城にキスするなんてできません。花城は追い打ちをかけるように耳元で囁きます。「僕の分は、どうする?」謝憐は慌てて、帰ってからと約束しました。

 

食べ終えてからまた町でぶらぶらして、暗くなってから紅紅児は謝憐の腕の中で眠ってしまいました。花城が抱っこしようとして、謝憐は最初は大丈夫だと断ろうとしたのですが、やっぱり思い直して、紅紅児を渡しました。花城が紅紅児を抱っこして、片手で小さい頭を自分の肩に載せる仕草を見て、謝憐は反対を向いて悶絶します。あまりにも可愛すぎるのです!

 

花城が慣れた手つきで、自分と瓜二つの美しい子供を抱っこしていて、大きいのが小さいのを抱っこしてる姿はまるで大きい狐が小さい狐を寝かしているようで、もう、ときめかないわけがないのです。この絵は、すれ違ってもまた振り返りたくなる絵だし、実際すれ違った女性達が何人も顔を赤めながら頻繁に振り返って見ていました。謝憐も紅紅児のふっくらした頬が花城の肩を枕にして、お口がとんがっているのが可愛すぎて目が離せません。その顔をつまみたい衝動に駆られますが、起こしたくなくて我慢します。

 

花城が時折、紅紅児を支える仕草を、謝憐は決して見逃すまいとしていました。「どう?可愛いと思うでしょ?」ついに口を開いて花城に尋ねます。「哥哥が可愛いと言うなら可愛い。」謝憐は心の中で、自分が可愛いことを認めたらいいのに、と思うのでした。

 

本当は鬼は眠らなくてもいいのです。もちろん、寝ることもできますが、鬼王にもなれば、完全に眠らなくても問題ないのです。なので謝憐は紅紅児が普通の子供のように、遊び疲れて眠くなるのを不思議に思いました。花城が説明します。「法力が少ないから、少しでも長く存在するために、眠って体力を温存してるんだ。」「・・そうなのか。」

 

紅紅児がいつか消えるとは分かっているものの、花城から聞くと実感が湧いてきて、別れを思うと辛くなるのです。「哥哥。」「・・ちょっと待って、食べ物買ってくる!」何か素敵なものを見つけたら、相手にも分けて、一人で楽しむのではなく、二人で楽しみたくなる。人を好きになるというのは多分そういうことなのです。謝憐は一日を通してたくさん物を買ってきました。特に食べ物は、紅紅児がお腹いっぱいにならないことがないぐらい沢山沢山買ったのです。花城は、そんなに食べさせても大きくなるわけでもないのに、と思いましたが、謝憐が喜ぶなら好きにさせようと思いました。

 

花城が子供を抱っこしていると、目立たない場所にいても目立ちます。おばあちゃんが寄ってきて、紅紅児を見ながら言いました。「これは弟さん?」「違うよ」花城は答えます。謝憐が歩いてくるのを見て続けます。「息子なんだ。」おばあちゃんは笑いました。「パパに似て男前だね。」「そんなことないよ。妻に似たらもっと男前なんだ。」「きっとお嫁さんはすごい美人なんだろうねぇ!」「そうなんだ。」花城は自分が褒められるより嬉しいようで、満面の笑みで続けます。「誰も比べられないくらい綺麗だし、優しいし、すごい貴人なんだ。」

 

謝憐は少し離れたところで、足を止めました。武神なので、少し離れたところでも二人が何を話しているのか全部聞こえています。おばあさんが立ち去ってから謝憐はこちらに歩いて来ました。「哥哥、すごい表情してるね。何か言いたげだね。」「いや、何もないよ。」謝憐は花城が何か恥ずかしくなることを言い出しそうなので、「これ美味しいよ!」と花城の口に点心を詰め込んで塞ぎました。

 

鬼市に帰ってから、花城が紅紅児を降ろそうとすると、気持ちが良いのか降りたがらないようで、花城の首をしっかり抱きしめていました。その瞬間の花城の表情と言ったら・・。謝憐は口を押さえて笑うのを堪えました。しばらくすると紅紅児は起きて目を擦り、「哥哥。」と呼びますが、謝憐が違うところから顔を出してきたのを見て、驚いて顔色が変わります。自分を抱っこしているのが大きい花城であることに気が付き、花城も「僕だけどなに?」みたいな顔で見つめるので、紅紅児は嫌がって顔を押しのけました。「はははははは・・・」謝憐はお腹を抱えて笑います。

 

寝る時間になり、謝憐は紅紅児を抱っこしたまま本を開いて読もうとしました。その時、花城が上着を脱いで寝床に入ってきて、いつものように謝憐を膝の上に乗せたのです。それを見て、紅紅児は「哥哥、あの人に来てほしくない。」と指差しながら言います。花城も負けず応戦します。「まず、これは哥哥と僕の寝床なんだ。」謝憐は紅紅児の指を手で包み、人を指さしたらダメだよ、と言います。謝憐は花城の膝から降りて、二人に向かって座りました。

 

「まず、喧嘩自体、良くないよ。家族なんだから、お互い大事にしないと。」大きい花城と小さい花城は顔を見合わせながら、お互い大事にする絵が浮かばないからか、顔をそらしました。「次に」謝憐は花城の手を握りながら、紅紅児の顔を見て言います。「これは私の愛する人なんだ。だからずっと一緒にいるよ。」それを聞いて大きい花城は晴れやかな顔になり、ご機嫌になりました。紅紅児はなんだか不服そうで、拳を作って膝の上に置きました。謝憐は笑いながら続けます。「もちろん、君は私の大事な子供だ。君も、彼も同じだよ。」紅紅児は顔を上げて謝憐を見ました。子供の目は、瞳が大きくて、見つめられるだけで心が溶けそうになります。

 

謝憐は子供の小さい手にキスして、花城の大きい手にキスしながら言いました。「だから、自分を嫌いにならないで?」視線は二人を交互に見ながら、最後は大きい花城で止まりました。花城は一瞬驚きます。謝憐は喧嘩を仲裁しようとしたわけではなく、最初から花城が小さい頃の自分を憎んでいることに気がついていたのです。小さい頃の彼は能力がなくて、謝憐を守れなかったことを、いまだに悔いているのです。花城は紅紅児を見ながら、自分自身を否定していたのです。

 

でも、そうじゃない。謝憐は花城を見ながら話し始めます。「君は、私が何よりも大事に思っている人なんだ。自分自身を嫌わないでくれるかい?」誰かを愛するということは、その人の全てを受け入れることなのです。花城が謝憐の慈悲も、憎悪も、栄光も、転落も、全部を受け入れたように、謝憐もそうなのです。全部を受け入れ、全部を深く愛しているのです。「紅紅児も、少年兵も、無名も、血雨探花も、全部君なんだ。」謝憐は二人を抱きしめて優しく言いました。「大事なのは’’君’’で、’’どんな’’君とかは関係ない。君であれば、それだけでいいんだ。」大きい手を小さい手は同時に謝憐を抱きしめ返しました。

 

しばらく抱きしめ合った後、謝憐はお話を読んであげました。読んでいるうちに紅紅児は眠ってしまい、寝顔を見ながら二人で色々話をします。花城は思わず眠っている紅紅児の頬をつまもうとしますが、謝憐は「起こさないで」と止めます。「顔、肉ついてる」「そう?子供はみんなこんな感じだよ。」「僕は小さい頃こんな肉ついてなかった」それを聞くと、謝憐はまた心が痛くなります。「初めて会った時、七、八歳かと思ったけど、十歳だったんだね。その頃は本当に痩せてて小さかったよね。」花城はそれを聞いて、「哥哥、そんなことはもう忘れて。」と言います。「どうして?」「・・全然可愛くないから」「そんなことないよ」「・・痩せてるし小さいし、上から下まで汚いし、可愛くないよ。」謝憐は悦神服に付けられた黒い手形を思い出し、吹き出しました。あの頃どうしてもっとあの手形を見なかったんだろう。小さくて、可愛い手形だったろうに。謝憐は口を開きました。「あの日、君に会えて嬉しかったよ。」あの時はただ落ちてきた子供を受け止めただけなのです。誰でもそうしたし、それがまさか八百年経ってまた再会するとは思ってもみませんでした。二人の縁は八百年の年月を超えて、また繋がったのです。

 

二人はしばらく沈黙しました。色々思い返しているうちに、伝えたいことが多すぎて、言葉が出なくなったのです。「・・本当に可愛いや。」「哥哥も可愛いよ」「私が?」「そう。子供に話しかける時の話し方も、声も子供みたいで可愛いんだ。」謝憐は慌てて紅紅児に話しかける時の自分を振り返ります。大きい花城には恥ずかしがって呼べない呼び方や仕草も、小さい花城には自然に出るのです。「小さいのも僕だからね。」花城は意味深な表情をしながら続けました。「哥哥、何か忘れてない?額と、頬と、左手と、右手と・・・」「・・・」謝憐は少し沈黙して口を開きました。「子供が起きちゃうから。」もはや子供がいる夫婦のような光景です。でも、狡猾な血雨探花がそんな簡単に引き下がるわけがありません。銀蝶を一匹見張りにつけて、謝憐を抱き上げて隣の部屋に移動してしまいました。色々ひとしきりバタバタした後、寝床に戻って三人で並んで寝ました。

 

次の日からは、謝憐は紅紅児を連れたまま仕事しました。紅紅児も良い子で、掃除をしたり、お椀を洗ったり、机や椅子を拭いたり。少しすると菩荠観の戸から村人の子供が何人か顔を出してきました。新しくやってきた紅紅児のことが気になるようです。それを見て、謝憐は紅紅児に外を見るように目配せします。「私はまだしばらく手が離せなくて、・・友達を作ることは興味ない?」紅紅児は黙って花城の方を向きます。「自分で決めて。したいことがあればしたらいいし、何も怖がることはない。」紅紅児は謝憐の服を掴みながら言いました。「哥哥、外に出て遊んでみたい。」「いいね!」

 

紅紅児は見た目も可愛いし、謝憐が買ってあげた新しい服を着ていて身なりも綺麗で、子供達の中に入っていくとみんなから歓迎されました。子供はみんなすぐ仲良くなるので、しばらくすると紅紅児は子供達の真ん中で楽しく遊んでいました。謝憐はそれを見てほっとします。「良かった。友達を作る提案、気に入らないかと思って。」「そんなことないよ。子供はみんな友達と遊ぶのが好きだし。」謝憐は花城が小さい頃子供達に追いかけられて虐められている場面を忘れることができません。きっと彼もまた友達が欲しかったんだろうと思うのでした。

 

しばらくして落ち着くと、謝憐は戸の方を見ながら上の空になりました。花城は謝憐が何を考えているのかすぐに分かります。「紅紅児が楽しくやってるか心配なんでしょ。ほんと頭の中全部あの子だよね。」「小さい君のことも大好きってことだよ。」「そうだね。それも僕なんだし。」そう言いながら花城は額を謝憐の額にくっつけて、紅紅児が遊んでいる姿を見せてあげました。

 

みんな楽しそうな声で遊んでいて、中でも一番目立っているのが紅紅児で、彼が向かうところにみんなついて来ていて、まるで大将のようです。誰も彼のことを罵ることなく、みんな彼のことが大好きで一番の人気者でした。謝憐はそれを見て安心し「ほら、言ったでしょ。こんなに可愛い子供なんだから、みんな好きに決まってる。」花城と色々話をして、扉を閉めてひとしきり騒いだ後、謝憐はご飯の準備に取り掛かりました。

 

今日の晩御飯は、紅紅児が提案したのです。謝憐が欲しいものを尋ねると、哥哥の手作りご飯が食べたいと言ったのです。花城が以前、紅紅児の前で謝憐のご飯が美味しいと言ったのを聞いてから、ずっと気になってるようでした。謝憐はもちろん喜んで準備します。食材を用意し、腕をまくり、熱心に忙しく作り始めました。そろそろ出来上がる頃、謝憐は外を一目見て、花城に「そろそろできるから呼んできて。」と言います。先ほど戸を閉めて二人で騒いだ光景が頭に浮かび、謝憐が頭が真っ白になりながら適当に調味料を突っ込んで出来上がったものは、匂いも色も摩訶不思議なものになりました。

 

「哥哥!」謝憐が振り向くと紅紅児が帰って来ました。「哥哥、これあげる!」子供は白い小さなお花を差し出しました。珍しい花ではなく、道でよく見かけるようなどこにでもあるお花ですが、とても可愛いものです。謝憐はお花を受け取り、額にキスして「ありがとう。気に入った!」と言いました。

 

晩、三人で食卓を囲みました。食卓には、危険な匂いを発するおかずと、元の材料が何なのかわからない汁物には、死んだのに死にきれない様子の真っ黒な手羽が上に向かって、不当な扱いを受けたことを抗議しているようでした。他の人が見たら、きっとこの鶏一家は悲惨な死に方をしたと思いますが、花城も紅紅児も全くそんなことは思いません。顔色も変えずに飲み干し、おかわりまでしました。謝憐は紅紅児におかずを取り分けながら尋ねます。「今日はどうだった?楽しかった?」紅紅児は頷きます。口のものを飲み込んでから、紅紅児は今日したこと、行ったところについて話してくれました。幼稚なことばかりですが、謝憐は興味深そうに聴きます。「今度お友達も連れておいで。」と謝憐は言いますが、実は今日誘ったけれども謝憐がご飯を作ると聞いてみんな逃げ帰ったとのことでした。花城と紅紅児が食卓いっぱいの食事を平らげたことで、謝憐は少しばかり自信を取り戻します。食後、花城とお立ち台に乗った紅紅児は並んでお椀を洗いました。八百年ずっと歩き続けてきた謝憐は、ついにもう歩き続ける必要がなく、家庭を持ったのです。そんな日常に埋もれて、いつか小さい子供がいなくなることも忘れていました。

 

紅紅児はそれから半月後に消えました。最初の方はよく眠るようになり、昼間もお昼寝することが増えたのですが、最後の方になるとずっと寝てばかりいました。そのうち紅紅児を触ろうとしても手が通り抜けてしまって、触ることもできなくなりました。悲しがる謝憐を見て花城は言います。「哥哥、僕が・・」「いや、いい。」謝憐は、花城が紅紅児に法力を追加しようとしたのが分かったのです。「いつか来る日だから。心準備はできてるから。心配しないで、三郎。」「ごめん。」「どうして謝るの?」「またこんなことを経験させて、申し訳ない。」「違うんだ、三郎。そんなふうに考えないで。」謝憐は子供を抱っこしているので、花城を抱きしめることができず、花城の肩に頭を乗せて言います。「本当は、感謝してるんだ。ずっと、小さい君に会いたかったから。」もちろんすごく可愛いのもありますが、何よりも花城が小さい頃、謝憐のそばを離れた頃は、心も体も痛みを抱えてあまりにも可哀想だったのです。八百年過ぎて思い返しても、謝憐には悔いがたくさん残りました。もっと抱きしめれば良かった。もっとそばに置いてあげたら良かった。謝憐は小さい花城を見て、本能的に愛したい気持ちもありますが、どこかにその悔いを埋める部分もあったのです。「会ってみて、どうだった?」花城が尋ねます。「うん・・父親になるのもいいね。」

 

花城は謝憐が最近ずっと家にこもっていることを気にして、骰子を投げて、花が一面に咲いている美しい場所に連れ出しました。花城は眠っている紅紅児の額を弾いて「起きろ」と言います。紅紅児が消える前に三人の頭に花飾りを載せました。花飾りは、花城が紅紅児と謝憐に教えて編んだものです。謝憐は紅紅児が編んだものを載せ、紅紅児は謝憐が編んだものを載せ、花城にも謝憐が編んだものを載せました。紅紅児は嬉しそうに何度も何度も小川に自分を映して見ました。

 

紅紅児は次第に透明になりました。「紅紅児!」謝憐が呼びかけると、紅紅児は謝憐に向かって走って来ました。「哥哥。」「うん。」「僕、楽しいよ。」「うん。」「ずっとずっと一緒にいたい。」謝憐は一瞬喉が熱くなりました。「・・・私もだよ。」視線もぼやけてきます。必死に瞬きして、目の前の子供を抱きしめて見つめながら続けました。「会えて嬉しいよ。」子供は顔を上げて微笑みました。消えないようにきつく抱きしめますが、腕の中の紅紅児は一瞬で消えてしまい、その瞬間、たくさんの銀蝶が飛び立ちました。紅紅児がつけていた花飾りが、謝憐の脚の上に落ちます。

 

銀蝶は謝憐の周りを何周か飛んでから、後ろの方に飛んで行きました。その方向には花城がいて、花城が腕を開くと、銀蝶が懐に消えていきました。全ての銀蝶が消えた時、花城は顔を上げて謝憐を見て微笑みました。「哥哥、僕はどこにも行ってないよ。」謝憐は花城を見つめます。花城は続けます。「僕はずっとそばにいるよ。」謝憐は花城を抱きしめました。

 

花城は謝憐を抱きしめ返しながら、「紅紅児の願いは全て叶ったんだ。」温かい家があること。家族が作ったご飯を食べること。友達と楽しく遊ぶという、普通なことが当たり前にできること。「彼の記憶は全てここにあるんだ。全ての快楽も、幸福も、満足も、僕は全部わかった。」記憶は魂の拠り所で、記憶が無くならなければ魂も無くなることはないのです。「哥哥、ありがとう。」謝憐は花城の胸で涙をこぼしましたが、今回は微笑んでいました。

 

小さい花城としばらく過ごしたからか、謝憐はたまに花城を呼び間違えることがありました。花城は、謝憐が悲しんでいると思い、捨て身になることにしました。ある日、謝憐の帰りを待っていたのは小さい花城でした。謝憐は大喜びで抱き上げて、おもちゃの山の真ん中に置きました。全て謝憐が紅紅児のために買ったおもちゃです。紅紅児がいなくなって、このおもちゃは全て花城の物になりました。花城は一対の不倒翁を抱えながら「哥哥...」と言います。謝憐は両手で花城の頬を包みながら言いました。「なんか足りないな。・・あ!そうだ。恥ずかしそうな表情してみて!」「・・・哥哥!!」「ははは・・その表情もいいね!三郎可愛すぎるよ!!」

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いかがだったでしょうか?

小さくても大きくても、謝憐が大大大好きな花城にとても萌えます照れ謝憐のことを自分よりもずっとずっと美しいと思っている花城にも悶えます笑い泣き小さい頃、謝憐を一目見た時からきっと、この世で一番美しいって思ったんだろうな照れ

 

紅紅児の登場は、花城にとっては小さい頃得られなかった愛情や、子供として当たり前の幸せを知ることができるものになりました。謝憐にとっても、小さい頃の花城にしてあげられなかったことを叶える存在になっています。二人にとって、過去の心残りを埋めるものになったのです。

 

物語全体を通して、一家三人のような微笑ましさもあるし、花城二人が謝憐を巡ってバトルする微笑ましさもあるし、花城がどうして子供の自分が大嫌いなのかが説明されています。消えてからわずか一年で戻ってきた花城の代償も納得がいくものだし、人を愛するとはこういうことなんだと深く考えさせられます。

 

「その後」の物語としてなかなか素敵だと思ったので紹介させていただきました。長文お付き合いいただき、ありがとうございましたおやすみ