今日は久しぶりにあらすじ紹介をしたいと思います。多少ネタバレを含むのでご注意ください。

 

花城は小さい頃、赤い瞳の右目が原因で周りから忌み嫌われ、他の子供から虐められたり、家族からも疎まれて、幸せとは程遠い子供時代を過ごしています。国の一大イベントに城壁から飛び降りようとしたことも、生きることが苦しすぎてなぜ生きるのか尋ねたことも、それを物語っています。

 

その心残りを少しでも埋められるような物語を、二人の結婚後の二次創作の物語『紅紅児駕到!』からご紹介したいと思います。少し長いので、二回に分けてご紹介します。

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ある日謝憐は夜中に目が覚めましたが、隣に花城の姿がありません。花城を探しに寝室を出ようとすると花城が戻ってきました。「三郎、どこに行ってたの?」花城は「少し用があって、出てたんだ」と答えます。「こんなに遅い時間に・・何か大きなことでも起きた?」「小さいことだよ、もう解決した。」花城は謝憐に布団をかけながら続けます。「でも、ここ数日、真夜中に少し処理しないといけないことがあって、もし起きて僕がそばにいなくても心配しないで。」「何か手伝おうか?」「哥哥も最近疲れてるだろうから、ゆっくり休んで。」

 

花城が帰ってきてから、謝憐は上天庭に休みを取りました。上天庭は快く休みを取らせます。他の神官は、花城が暇になって上天庭を荒らしに来るのが怖いので、謝憐には是非休みをとってほしいのです。一年という年月は、思い合う二人にとってはとても長いものでした。二人は戻ってきてから四六時中一緒にいました。しかし、謝憐が処理しないといけない祈願は溜まる一方で、花城も一年離れた分、鬼市のことで処理しないといけないことがたくさんあるので、昼間はお互い仕事を処理し、夜になってから一緒にいるのです。

 

「あまり無理をしないで」謝憐が言います。花城も「哥哥心配しないで。無理はしないから」と答えました。「そういえば、さっき子供のような声で、哥哥と呼ぶ声が聞こえたような気がする。」花城は眉が少し動きました。「夢でも見たんじゃないかな。ここには子供なんていないよ。」それを聞いて確かにそうだと思い、花城の腕の中で、謝憐は再び寝付きました。

 

謝憐が寝付いたのを確認すると、花城は寝床から起き上がり、静かに普段行かない部屋に行きました。そこには揺かごがあり、子供が心地よく感じるぐらいの速さで、何匹かの銀蝶がゆっくり揺らしているのです。揺かごから、微かに嗚咽のような苦しそうな声が漏れていました。花城は近づき、ゆりかごを見下ろしながら、「余計なことはするな。哥哥は最近忙しいんだ。邪魔するな。」と言います。

 

二日目、謝憐が仕事を終えて、鬼市に帰ってきました。頭の中は花城のことでいっぱいで、何か手伝えることはないかと思って来たのですが、花城が見つかりません。通霊するほどの急ぎの用事でもなく、どうしようか考えていると、花城と指にそれぞれ赤い糸が結んであるのを思い出しました。普段は使わないので、赤い糸は見えないようになっています。この糸をたどって、こっそり探しに行って驚かそうと思いました。

 

呪文を唱えると、赤い糸が見えるようになりました。しかし、なぜか糸は二本出てきたのです。糸はそれぞれ左、右と違う方向を指していました。どういう状況だろう?何かの間違いかと思い、もう一度赤い糸を消して、また呪文を唱えますが、やはり二本あります。

 

もしかしたら、最近鬼市が忙しいから分身でも作ったのかな?そんなことを考えて少し安心しながら、花城を探しに行こうとしました。さて、左と右、どっちに行こう?謝憐はあまり迷うことなく、右を選びました。理由は簡単です。左は鬼市の方向なので、花城がいてもおかしくないのですが、右は普段行かない部屋の方なのに、そっちに花城がいる方がおかしいので、そっちを選んでみたのです。

 

戸の前まで来て、何とも言えない懸念が頭をよぎり、戸に耳をつけて物音を聞いてみます。音は何も聞こえません。障子に指で穴を開けようとしたのですが、穴が空きません。それは、誰にも入らせない為の結界が張られていることを表していました。謝憐は、中には絶対何かある、と確信します。

 

どうして三郎は結界を張ったんだろう?見せられないものでもあるのかな?そんなことを考えていると、後ろから花城の腕が背中越しに伸びてきました。「哥哥。」「三郎。今帰ってきたの?」「うん、この結界に動きがあったから、帰ってきたんだ。」結界には、誰か触れたら、施術者に分かるように細工されていました。「だから、中には見られたくないものが入っているの?」「・・・うん」「わかった。三郎が知ってほしくないなら、無理はしないけど、・・・手に赤い糸が2本出てきたんだ。」花城はもう隠せないと思い、ため息をついた後、言いました。「哥哥一緒に来て。」花城は結界を解いて、戸を開きました。謝憐は一緒に入って、赤い糸の先をみると、揺かごがありました。謝憐は驚いて目を見開きます。その瞬間、謝憐は何か宝物を発見したように興奮しました。揺かごに向かって歩き、中を覗くと、一瞬呼吸が止まりました。

 

揺かごの中には、眠っている4、5歳の子供がいたのです。色白で、頬が丸くて、幼くて可愛い、見慣れた顔の面影がある、子供の花城がいたのです。子供の花城の指から出てきている赤い糸は、自分の指と繋がっていました。

 

あまりの可愛さに謝憐は思わず声を上げて、子供を抱き上げそうになりますが、眠っているのを見て、必死に気持ちを抑えて、花城に尋ねます。「三郎、どういうこと?」謝憐は花城が子供の時の自分が嫌いなことを知っているので、理由もなく小さい自分の分身を作るとは思えなかったのです。何か事情があって、そうせざるを得なかったのではないかと考えました。

 

「殿下、説明するから聞いて。」呼び方まで変わりました。そんなふうに厳粛になる花城を見て、謝憐は肩に手を置いて優しく言います。「大丈夫、三郎。三郎の私生児とは思ってないよ。」たとえ赤い糸で繋がっていなくても、謝憐が花城を疑うことはありません。花城は笑顔になり「哥哥、信用してくれてありがとう」と答えました。

 

説明しようとしたその時、揺かごの中の子供が声を上げます。謝憐は振り返り、揺かごを覗き込みました。穏やかな寝顔ではなく、苦痛に満ちた表情をしているのです。眉をしかめて、小さい顔は冷や汗をかきながら、何か苦痛に耐えているようでした。

 

謝憐は慌てて子供を抱きかかえ、子供がとても熱いことに気が付きます。「どうしたの?」花城は冷静に答えます。「法力が暴走しているんだ。心配しないで。そんな大したことじゃない。」謝憐は心配しないわけがありません。花城の法力が暴走した姿を以前見ているのです。小さい体でそんな苦痛に耐えられるわけがない。「どうしてこんなことになったの?」「・・・僕のせいなんだ。」

 

実は、花城が霊力が尽きて消えた後、わずか一年で鬼身を造り直し、謝憐のそばに戻ってきたことには代償もあったのです。骨灰もあり、魂もあるものの、法力が尽きることの損傷は大きく、本来は時間をかけてゆっくり法力を取り戻すべきところを、謝憐を待たせたくなくて、上元節に間に合わせるために急いだことで、問題が起きたのです。

 

花城は帰ってきてしばらくして、体内の法力が不安定なことに気が付きます。最初は抑えることができましたが、徐々に抑えることができなくなり、火の玉が身体中を燃やすように暴走するので、前回の法力の暴走よりもかなり深刻な状況になりました。謝憐に心配をかけたくなかった花城は、暴走した法力を身体から追い出しました。しかし、あまりに強力で短時間で消耗もさせられない法力を、放っておくこともできないので、子供の姿に変えて管理することにしたのです。

 

謝憐は胸に抱き締めている子供を見ながら言います。「だから、昨日聞いた子供の声は、この子だったの?」「うん。」「私に子供を発見されたくなかったの?」「ごめん、哥哥。」「謝ることないよ、心配をかけたくなかったんだよね。そばにいたのに、気が付かなくてごめん。」霊力を失って、透明になって消えるぐらい重症だったのに、たった一年で当初と同じように戻れたと思ったのがそもそも甘かったのです。「僕が殿下に言ってなかったせいなんだ。」

 

子供は、まだ眠っているのに、花城が額に置いた手を払いのけて、謝憐の懐に顔を埋ずめたのです。花城は面倒くさそうな顔をします。もう一人の自分を甘やかすはずがありません。「哥哥、僕がやるよ。」そう言って子供を謝憐から離そうとしますが、子供はさらに謝憐の服を掴んで離れようとしません。昔あった光景と同じです。花城の顔を見て、「三郎も小さい頃そうだったじゃないか。」言います。「哥哥、もうそんなこと忘れて。」謝憐は忘れることができるはずがありません。花城と謝憐の過去の貴重な思い出なのです。

 

謝憐は子供の存在に気づいてしまったからには、もう放っておくことはできません。そばに置き、自分で面倒を見ると言い出して、二人の寝室に抱っこして帰りました。揺かごで寝かせようと思った花城に対して、謝憐はそばに置きたいと言います。そういうところは謝憐も頑固なのです。

 

謝憐は子供の顔を見ながら、可愛くて可愛くてたまらなくて、いくら見ても見飽きない様子でした。花城は一目で興味を無くしたようで、「哥哥、ゆっくり休んで。僕がこの子を見てるから。」「大丈夫だよ、それに・・・」二人の真ん中に置かれた子供は、謝憐の胸に飛び込みました。無言の抵抗のようなのです。「ほら。」謝憐は笑いながら言いました。「この子、三郎のことがあまり好きじゃないみたい。」花城はそれを聞いて、気にも留めない顔をしながら、「ちょうどいい。僕も好きじゃない。」と言いました。「そんな態度だからだよ。子供は敏感に感じ取るんだ。」

 

「だからこの数日、こっそりこの子の法力を調整してあげてたの?」「うん、そんな大したことないよ。発作が起きた時に少し対応するだけだから。」謝憐は発作を思い出して可哀想になりました。「どれぐらい発作が起きるの?」「昼間はほとんど大丈夫で、夜間が2、3回かな」「法力が安定したら、どうなるの?」「どうもならないよ、僕が吸収するだけだよ」「だめ!・・もし法力が安定しても、そのままこの子を残してくれない?」花城は怪訝な顔をしました。「ずっとじゃないんだ。法力が自然に尽きるまででいい。」花城は謝憐の要求を断ることはありません。「わかった。哥哥のしたいようにしたらいいよ。」

 

謝憐は思いがけず贈り物をもらったような気持ちになり、「紅紅児、早く目を覚まして」と呼びかけました。「・・哥哥、今なんて呼んだ?」「紅紅児だよ。小さい頃はそう呼ばれてたって言ってただろ?」「哥哥、そんな名前忘れて」「どうして?」可愛いのに。花城は黒歴史のように感じており、額に手を置きながら「いや、忘れてくれ、馬鹿みたいだ」と言うのです。

 

胸の中の子供は、深く眠っているのに、小さい手で謝憐の指を掴んで離さないのです。謝憐は心が溶けそうでした。小さい手で、小さい指で掴まれて、謝憐は可愛くて仕方がありません。そんな様子を見て、花城が口を開きました。「哥哥。今日まだキスしてくれてない。」あ。謝憐は呆気に取られながら、一日を思い返してみると確かにキスしていないのです。花城の真面目な表情を見ながら、「三郎、ちょっとこっちにきて」子供を抱っこして動けないので、来てもらったのです。花城が寄ってくると、謝憐は子供が寝ているのを確認して、頬に口付けします。「足りない。」謝憐は赤い顔をしながら、何回か口付けしました。

 

その日の晩、子供は一回だけ発作が起きました。たった一回でも謝憐は心が痛むのです。当時、花城の法力が弱まった時、普段の半分ぐらいの大きさになった厄命に、謝憐が口付けしたことでまた大きくなったことを思い出しました。発作が起きた時に、花城に水を一杯入れてもらっている間に、子供の額に口付けします。そして、「いい子だ。賢くて、可愛くて、勇敢で、強くて、世界一で・・・」言っているうちに熱が引いてきたのです。やっぱり効果があったと自信を持ち、額や、頬や、鼻や、手にもたくさんキスしました。だんだん苦痛そうな表情が和らいできます。

 

「哥哥、何してるの?」花城が水を入れ終わってやってきて、額を触ると、熱が下がっていました。「キスしたでしょ?」謝憐は何も答えません。黙認したことになります。「どうしてわかったの?」「銅炉山の時、厄命が教えてくれたんだ。」実際は厄命がキスされ、褒められて、嬉しくなって、それを子供のように花城の前で自慢したのです。花城はもちろん、そんな厄命を打ちます。「哥哥に激励されないとちゃんと仕事しないなんてクズだな」というのが理由でした。謝憐は恥ずかしさを抑えながら、「どうしてこうなるか、理屈わかる?」と尋ねます。「理屈も何も、哥哥がキスしたり褒めたりしたら、僕は何だって良くなるに決まってる。」そんな真っ直ぐな告白に、謝憐は恥ずかしくなるのでした。

 

次の日紅紅児は目を覚まします。

花城が極楽坊で仕事している時に、子供をそばに置いて見ていました。謝憐はそばにいない間も気がかりで、恥ずかしさを気にしてられなくて、花城に通霊します。大丈夫だとわかった瞬間安心しますが、そのまま花城から色々話しかけられて、通霊を終える頃には顔が真っ赤になって突っ立っていました。花城は謝憐と通霊しておしゃべりしたことでご機嫌になり、まだぐっすり眠っている子供の額を指で弾いていたずらします。

 

通霊口令をあえてあんな言葉にしたのは、謝憐の口から聞きたいからなのですが、謝憐は恥ずかしがって口に出さず、なかなか通霊してくれません。まさか、こんな子供がそんな花城の願望を叶えるきっかけになるとは思いませんでした。

 

謝憐のいない隙に、額を弾かれた子供は目が覚めます。大きい花城と小さい花城は顔を見合わせ、少し呆気に取られた後、小さい花城は寝床から飛び降り、逃げようとしました。花城はそんな子供の後ろ襟を掴んで持ち上げます。「離せよ!」ジタバタしますが、手足も短いのでどうにもなりません。花城は骰子を投げ、菩荠観にやってきました。ちょうど観を出ようとした謝憐にばったり会います。

 

「哥哥!」飛びつこうとしますが、花城に掴まれたままなので、暴れ出しました。花城を蹴ろうとした時、花城の方が動きが早く、子供を投げようとしました。すかさず、謝憐が「三郎、投げないで!」と子供を抱きしめます。子供と目が合った時、黒色の瞳と赤色の瞳に気が付き、少し驚きます。一目見た瞬間、謝憐はこの綺麗な瞳に魅了されました。小さい頃どうしてこんなに綺麗な瞳を隠そうとしたんだろう?と思いながら「初めまして、紅紅児」と言いました。

 

紅紅児は謝憐の懐にいると表情が変わり、少し恥ずかしそうな顔をしながら、手を伸ばして謝憐に抱きつこうとしますが、抱きついて良いのか分からず、小声で「哥哥」と呼びかけました。謝憐はそんな紅紅児が可愛くて可愛くて仕方がなくて、頬にキスします。

 

銅炉山にいた時に、花城が子供の姿になったことがあり、その時は自分の気持ちに気付かれまいと、キスするのを我慢して、頬をつまんだり高い高いしていました。しかし、心が通い合った今はそんな心配をする必要はありません。

 

花城は歩いてきて、腕組みしながら冷たく言い放ちます。「ほどほどにしとけ。哥哥の邪魔になるだろ」紅紅児はそれを聞いて嫌な顔をします。謝憐はすかさず、紅紅児を撫でると、また落ち着いた顔になり、大きな目で謝憐の顔を真っ直ぐ見ていました。謝憐も紅紅児を離そうとせず、花城に「そんなに怖い顔をしないで。もうこっちは落ち着いたから。」と言います。紅紅児はさらに目を見開き、ついに手を伸ばして謝憐の首を抱きしめながら、花城を横目でみて、勝ち誇ったような顔をしました。花城は笑いますが、額には青い筋が出てきました。

 

村長が通りかかった時、「この子は?」不思議に思って入ってきました。他にも数人の村人が次々に入ってきます。「子供?誰の子供?」みんな謝憐を囲むように入ってきます。紅紅児は片手で右目を隠しましたが、それでもみんな誰に似ているのかすぐわかります。「この子可愛いわね。小花の子供かい?」「パパに似て男前だな」みんな花城を見ます。花城は「違う」と答えます。「違うの?」「こんなに似てるのに?」すると謝憐が口を開きました。「違うんだ。この子は三郎の弟なんだ。」みんなそれで納得しましたが、花城はあまり嬉しくないようでした。

 

「息子かと思ったよ。」「そういえば小花も結婚して結構経つよね?子供はまだなのかい?」みんな口々に言います。花城はそれを聞いて笑顔になり「それは・・今のところその予定はないんだ。」謝憐を見つめながら、意味深な表情をしています。「子供がいないと!」「そうだよ、男前なんだから、子供もきっと男前よ!」花城は謝憐の肩に手を回しながら「みんな心配してくれてありがとう。今晩帰ったら妻と相談してみるよ。」と言います。「謝道長はどうして顔が赤くなってるの?」「今日暑くないわよね?」謝憐はそれを聞いて穴に入りたい気持ちになりました。花城はそんな謝憐を見て、「大丈夫だよ、きっと子供が増えることを考えて嬉しくなっただけだから。」と言いました。謝憐も慌ててそれに同意します。

 

村人たちは善意の笑みをこぼしながら、しばらく雑談していました。謝憐も紅紅児が可愛すぎて、みんなそばにいたくなる気持ちがわかるのです。謝憐は紅紅児が肩に顔を埋ずめたままじっとしているのを不思議に思い、花城が小さい頃右目の赤い瞳が原因でみんなから虐められたことを思い出し、心が痛くなりました。この子供が花城の記憶をどこまで持っているのかはわかりませんが、きっと花城の小さい頃の心の陰影は消えることなく、心に傷を残したんだろうと思ったのです。

 

謝憐は子供の肩を軽く叩いてなだめながら「大丈夫だよ、みんな可愛いって褒めてるよ。」と伝えました。紅紅児は謝憐のことを信じているので、ゆっくり顔を上げました。村人達は近くに寄ってきて、顔を覗き込むと、右目が赤いことに気がつきます。花城の表情は一見変化はないものの、愉快には見えなくなりました。

 

宝石を嵌めたような美しい瞳に、みんな感嘆しました。右の瞳が美しい色をしているので、左の黒い瞳まで美しさが際立つようです。「美しい目だわ!」「珍しいわね!」「素敵ね!」菩荠観でいろんな神や鬼を見てきたからか、瞳の色が異なる子供を見ても村人は驚きません。ただただ、美しいと見惚れているのです。

 

「道長、この子は許嫁は決まってるのかい?」尋ねてきた人の家には小さい女の子がいます。「こんなに小さいんだし、まだじゃないの?」・・絶境鬼王の人気は計り知れません。謝憐がどう断ろうかと悩んでいる時に、懐の子供が謝憐の首を抱きしめながら声を出しました。「好きな人がいるんだ!!」小さい子供なのに、気迫は十分で、態度も真面目で、すごく大事なことを伝えようとしているかのようでした。みんな一瞬びっくりしたものの笑い出して、けれど諦めきれず、謝憐に少し粘りましたが、みんな失敗に終わり、帰っていきます。大きくても小さくても、指の赤い糸は謝憐とだけ繋がっているのです。

 

紅紅児は謝憐にベッタリでした。どこ行くにも謝憐についていくのです。それでもこんな可愛い子に「哥哥」と呼ばれると謝憐はいてもたってもいられず、すぐに抱っこして頬にキスして肩に乗せるのでした。「三郎、この子恥ずかしがってるよ、本当可愛い!」いつもは花城の前で、謝憐は恥ずかしがる方なのですが、小さいとはいえ、花城が謝憐の前で恥ずかしがる姿が本当に可愛くてたまらないのです。謝憐はこの子を抱きしめたままあちこちで自慢したくなりますが、そうすれば後日きっと変な噂が流れると思い、気持ちを抑えます。

 

花城は謝憐が紅紅児を抱っこしているのを見て、金箔で遊ぶことを提案します。謝憐も小さい頃はよく金箔で遊んでいましたが、大きくなってからは遊ばなくなりました。それでも小さい花城と遊んでいるとまたすぐに夢中になりました。男の子がみんな好きなもの、かっこいい戦車を作ろうとしました。二人で真剣に戦車を組み立てます。謝憐が手伝ったのは最初だけで、ほとんど紅紅児が自分で組み立てました。戦車は小さいけれども、金色で光っていて気迫があります。謝憐は手を叩きながら褒めました。

 

後ろから咳払いが聞こえて、二人は振り返ります。そこには大きな戦車がそびえ立っていました。実物の三倍はあろう戦車の上には、一人の人が座っていました。よく見るとそれは戦服を着た仙楽太子の像で、全身が金色に光り輝き、とても眩しいものでした。細部までこだわられていて、見る者を圧倒させる凄みがありました。花城は尋ねます。「哥哥、僕もできたけど、どう?」謝憐も、紅紅児も言葉が出ません。

 

こちらの戦車に目をやると、明らかに惨敗しているのです。謝憐に褒められてできた紅紅児の自信も、金箔と共に無惨に散りました。「三郎、遊びなんだから、ちょっと壮観すぎない?」「そうかな?これでも小さいと思ったんだけど」笑いながら続けます。「金箔には処理を施しているから壊れることはないよ。安心して哥哥。」

 

謝憐は慌てて紅紅児の慰めに入ります。無意識に花城の方を向くと、こちらを見て無垢な笑顔を見せていました。謝憐は紅紅児を抱き上げて、次は絵を描いて遊ぼう、と誘います。花城の方を向き、「三郎、帰ってきてから字の練習をしてなかったよね?ちょっと書いてみてよ。」と言うのでした。花城は八荒筆で見るに耐えない字を書いた後、謝憐はため息をついてどう評価して良いやら分からず、首を振ります。紅紅児もこっちへやってきて、一目見て、嘲笑いしました。その目つきは、小さいながらも、鬼王が世界を睨みまわすような眼差しで、嘲笑感が十分にありました。花城は微笑みを浮かべますが、額には青い筋が出てきました。紅紅児はそんな花城を怖がることもなく、自分の描いた絵を謝憐に見せます。謝憐はその絵を一目見て「これは私を描いたのかい?」と尋ねました。

 

太子悦神図です。描き方は見るからに子供が描いたもので、筆使いは拙いですが、一筆一筆真剣に描かれていて、細かいところもこだわっていて、珊瑚の耳飾りも赤色で色付けされていました。描いた人の誠意を感じさせる絵です。「とても上手く描けているよ。気に入った。ありがとう。」紅紅児は目を輝かせて言いました。「哥哥、これからもっとたくさん、もっと上手く描くよ。」謝憐は心を射抜かれた気持ちになり、我にかえると紅紅児を抱き上げて頬ずりしていました。紅紅児は謝憐の懐の中で、花城の方を一目見ました。それは、優越感に満ちた眼差しで、本物の花城によく似ているのです。花城は笑いながら、手に持っていた八荒筆から生えている葉を引きちぎりました。

 

寝る時間になりますが、子供がいるので、二人はいつものように布団の中で騒ぐことはできません。やっとのことで子供を寝かしたら、花城が寄ってきて謝憐に抱きつきました。「哥哥、やっと相手してくれる時間ができたね。」花城は眠っている子供を一目見て「面倒くさい」と言います。謝憐は子供に布団をかけながら言いました。「自分のことを自分で面倒くさいって言うなんて。」「だって面倒くさいよ。哥哥にこんなに面倒をかけるなんて。」「そんなことないよ。いい子だから全然面倒じゃない。」謝憐はむしろ楽しんでいるぐらいなのです。花城は眉を上げて言います。「それじゃあ、本当に子供が欲しい?」

 

「・・・何言ってるんだよ。どうして私にそんな話を?」「昼間、帰ったら妻と子供のことを話すって言っただろ?」「・・・」「哥哥、どうしたい?」「男二人でそんな話なんて・・」「子供でしょ?方法はいろいろあるよ。」「・・・」「でもやっぱりいいや。」紅紅児を見ながら花城は言いました。謝憐も口を開きます。「今日みんな紅紅児のことを可愛いって言ってたよ。特に赤い目が綺麗だって。」花城は何も言わず、謝憐を見つめていました。その眼差しは柔らかいものになっていました。

 

謝憐は花城の手を握りながら尋ねます。「どうしてお母さんは紅紅児って名前をつけたの?」花城は少し沈黙して口を開きました。「わからないんだ。理由を言われたことはないし、聞こうとした時にはもういなかったんだ。」「・・そうなんだ。でも、紅紅児って名前はとても可愛い。呼ぶときに、とても可愛がっている感じがする。お母さんがそう名付けたのは、きっと右目を綺麗と思ったからじゃないかな。」花城も笑いながら謝憐に寄ってきました。徐々に近づいてきて、お互いの顔がよく見えない近さまで近づいたら謝憐は目を閉じました。口付けした後、花城が少しずつ離れていく時に、謝憐がゆっくり目を開けて目の前の顔を見ると驚きました。

 

目の前の美しい顔の右目は赤い瞳になっていました。黒い瞳と、赤い瞳の対比があまりに綺麗なのです。もし花城が右目を失っていなかったら、これが本来の姿なのです。謝憐はしばらくの間、見惚れていました。「哥哥、この姿はどう?」「・・すごく良いよ!」こんな簡単な言葉では、心の中の歓喜を言い表せない気がして、でも何を言ったら良いかもわからなくて、咄嗟に花城の顔を両手で包んで、口付けします。すぐに顔まで真っ赤になって、花城に魅了されすぎて救いようがない自分を感じるのでした。花城も笑いながら、謝憐に口付けします。

 

しばらくして、謝憐は花城の腕の中で尋ねました。「小さい頃、何か叶えたいことはあった?」「あったよ。」「それは何?」「ずっと殿下と一緒にいること。」謝憐は一瞬息を呑み、顔が赤くなりました。「・・そうじゃなくて、私と会う前にはどんな願いがあったの?」花城は黙り込み、真剣に考えているようでした。

 

小さい頃は周りで怒号が飛び交い、真夜中に家を追い出されることも度々ありました。お腹いっぱい食べることができず、寒い思いをすることもよくありました。顔や体には傷が絶えず、汚らしくて、乞食のような姿だったのです。もしかしたら乞食の方がもっと自由だったかもしれません。大昔の記憶です。でも、忘れてはいません。

 

「三郎。」声とともに、花城の手が謝憐の暖かい手に覆われました。謝憐の方を向くと暖かい眼差しと目が合い、その瞬間世界がまた優しく見えてきて、顔に笑顔が戻りました。「殿下。・・もう叶ったんだ。」花城は本当に心からそう思ったのです。

 

住処はもはや単なる住処ではなく、家族がいる家になったのです。毎朝起きて、一番に見る顔が、一番見たい人の顔なのです。夜寝る時もまた、そうなのです。毎日の始まりも、終わりも、暖かく美しいのです。

 

「哥哥どうしてそんなことを尋ねるの?」謝憐は紅紅児を見ながら言いました。「・・ただ、三郎がもし小さい頃に叶えていない願いがあるなら、紅紅児と一緒に叶えようと思って。」謝憐は笑顔で続けました。「でも、三郎の願いが全部叶っているなら良かった。」心からそう思うのですが、謝憐は自分が花城のためにできることは、依然として少なすぎると思うのです。

 

満たされた人をもっと喜ばせるにはどうしたらいいか?難しい問題です。花城は笑いながら、謝憐に膝枕してもらいながら言いました。「じゃあ一緒に遊んでよ。」謝憐は驚きながら尋ねます。「そんなことでいいの?もっと他に何かしなくていい?」「うん。・・俺も、小さいあいつも同じなんだ。ただ哥哥がそばにいてくれたら、他には何の願いもない。」

 

・・まるで謝憐の存在自体が自分の幸せ、みたいな言い方です。謝憐はその言葉を真っ直ぐ受け入れることができるほど自惚れてはいません。でも確かに花城は同じような言葉を以前言っているのです。「もしあなたの夢が万人を救うことなら、僕の夢はあなただけなんだ。」花城が蝶になって消える前に残した言葉です。

 

「時間ができたら三人で遊びに行こう」謝憐は花城の髪を撫でながら言いました。花城は謝憐の手を握り、手に口付けしながら言いました。「うん。」

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小さい花城をこれでもかと可愛がる謝憐。

小さい花城と張り合う大人の花城。

みんな可愛すぎませんかおねがい

みんな尊すぎませんか照れ

 

できれば一回でご紹介したかったのですが、あまりに長くなって、分けました。次回で完結にしたいと思います!