前回の初夜と同じシリーズの中から、謝憐と花城の結婚後すぐの日常生活を紹介したいと思います。二人が再会して結婚した上元節の当日から見ていきます照れ(少々ネタバレを含みますので、最後まで読んでいない方はご注意ください。)

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天庭を再建するために毎日忙しく奔走していた神官達は、今年の上元宴で一息つけるのを楽しみにしていました。毎年恒例の上元宴の燈会では、神官達が長明燈の数を競うのが慣わしですが、今年は十名以内の神官が何人もいなくなったし、血雨探花もいないし、もしかしたらきっと自分も十名以内に入れるかも...!と暗に期待する神官もたくさんいました。しかし、当日の晩、満天に漂う長明燈を見て、...こんな壮観な燈の数は絶対血雨探花しかいない!血雨探花が帰ってきたんだ!とみんな慌てふためきます。こんな壮観な燈の数に比べたら、例え十位以内に入ったところで全然おもしろくありません。

 

どうしてよりによってこんな日に帰ってくるのか。絶対わざとだろうな。そんなことを思いながらも、相手が相手なだけに、どうしようもありません。確かに黒幕を倒す際には、血雨探花の貢献は大きかったけれども...だからと言って、神官達にとって血雨探花に対する心の陰影は一生拭えないのです。

 

表情が曇る他の神官達に対して、風信と慕情は血雨探花が帰ってきたことを初めて嬉しく思います。あれほど花城を待ち侘びた太子殿下に、やっと血雨探花が帰ってきたのです。二人は言葉を交わすことなく、ほぼ同時に立ち上がり、謝憐のところに行こうとしました。裴茗はそれを見てすかさず止めます。「久しぶりに帰ってきて、仲良くしてるとこなんだろうし、邪魔しにいくなよ」風信は確かにその通りだと思い、裴茗の言葉の意味を深く考えることなく、二人にしてあげようと思いますが、慕情は何を考えたのか一瞬複雑な顔色になり、何も言わずに宴会に戻りました。

 

何日か経って、さすがにいくら待ち侘びた相手だからといっても、そろそろ落ち着いた頃だろうと思い、二人は会いにいきます。風信は謝憐の観前にやってきて、堂々と中に入ろうとしますが、慕情は少し何か葛藤している様子で後をついていきます。謝憐は二人がやってきたのを見てもちろん歓迎して声をかけます。花城も機嫌が良さそうで、二人に対して珍しく笑顔を見せましたが、笑顔は作り笑いでした。嫌がる顔をしないだけマシな方かもしれません。

 

花城と謝憐は長らく離れていて、結婚したばかりなのもあり、四六時中、ずっと一緒にいるのです。二人の周りには他の人が入っていけないような独特の空気が流れていました。慕情は戸を開けるや否や、そのことに気が付き白目を剥きます。風信はしばらく話しているうちに何か感じますが、なんとも言えないのです。

 

しばらくしてやっと気が付きました。花城が手を謝憐の腰に回したまま話しているのです。大の男性二人がそんな体勢で話しているなんて、風信は罵詈雑言が出そうになるのをやっとの思いで堪えました。

 

花城も以前なら他の人の前では慎んでいる様子でしたが、今では何も気にしていないようなのです。しかし、半柱香の時間も経ってないのに、花城は謝憐の腰に手を回して、疲れたらいけないからと座らそうとするのです。そんなに立ってないよね?そんな必要ある??風信は思いました。

 

そして、謝憐の反応も変なのです。花城が座らせようとしただけなのに、顔が赤くなっているのです。今の行動にそんなに顔が赤くなることあった??風信は大きな目を開けて、一体あんな短時間でどこが疲れるんだ?という目で謝憐を見ました。

 

二人はお祝いの気持ちで来たのに、花城が謝憐を妊婦のように扱っている態度を見て、用意していたお祝いの言葉も全部呑み込んでしまいました。風信は最後に花城に、殿下を頼んだぞ、と言うのですが、言い終わると同時に何か、娘を嫁にやった父親のような言い草だなと気が付きます。

 

花城もすかさず「お前に言われたくない」という顔をしながら、実際にその言葉を言い返します。婿がそんな態度なら、普通なら追い出されますが、風信は花城には勝てないし、言い負かすこともできないし、どうしようもありません。謝憐がそんな空気を和ませて収めました。

 

花城の顔には徐々に’’お前らまだ帰らないのか’’の表情が顕著に現れてきて、謝憐が振り向いた時だけ、にこやかな顔に戻るのです。そんな鬼王の表情がコロコロ変わるのを見て、二人は表情を繕うだけでもやっとでした。謝憐がその場では一番楽しんでいるようで、二人にご飯を食べていくように言いますが、ご飯と聞いて二人はすぐに退散します。退散する早さと言ったら、謝憐が呼び止めようとしても、間に合わないぐらいでした。

 

二人が帰った後、謝憐が作った意味不明な物体の食事を、花城は最初は拍手で歓迎して、ありったけ愛でて、ありったけ賞賛して、最後は綺麗に全部食べ終えます。二人はいちゃいちゃしながら食事を終えた後、今晩は千灯観で休もうと思いました。花城を一人寂しく待った一年が効いたのか、花城が帰ってきてからというものの、謝憐はなんでも花城の言う通り、求める通りに合わせます。謝憐が甘やかすので、花城もだんだんエスカレートするのでした。

 

お風呂上がりの火照った謝憐を眺めながら、不意に花城が口を開きました。「そういえば、銅炉山が開いた時、哥哥とここで一晩戦ったんだよね?」謝憐はドキッとしました。花城は続けます。「あの時は哥哥がいてくれて良かった。まだお礼を言ってなかったよね」・・あの時は花城が銅炉山の影響を受けて様子が変になり、謝憐は一晩キスしながら花城を鎮めたのです。まさか一晩中ずっとキスしていたなんて言えません。その次の日、何も覚えていない花城に尋ねられて、一晩ここで戦ったんだと、つい言ったのです。・・まぁ、唇で戦ったと思えば、嘘ではないはず・・・と謝憐は思うのでした。

 

「そんなお礼なんて・・」謝憐は言いながら鼓動が早くなり、嫌な予感がします。「確かにそうだね。今の哥哥との間柄ならそんなの気にしなくて良さそうだね」これでこの話も終わるのかなと思い、謝憐は少しホッとしました。ホッとしたのも束の間、「ただ・・」花城が続けます。「次の日起きたら、ここが腫れて少し痛かったんだよね」自分の唇を指差しながら花城が言います。「哥哥、どうしてか知らない?」「・・し、知らないよ...」

 

花城は目に笑みを浮かべながら、謝憐に寄っていき、耳元で囁きました。「哥哥どうして知らないの?一晩戦ったんでしょ?・・もしかして、ここをめがけて戦ったの?」近すぎて、花城の吐息が耳や首にかかります。くすぐったくて、少し肩をすくめ、体を傾けますが、花城はさらに寄ってきました。逃げられない緊張感でいっぱいになり、手をどこに置くかも迷います。

 

花城は謝憐の髪を小さい一束掴んで遊びながら言います。「哥哥、どんな武器で戦ったの?腫れ、何日もおさまらなかったよ」そんな大袈裟なことがあるわけがない。からかわれているとすぐに分かります。振り向いて何か言おうとした瞬間、至近距離の美しすぎる顔に息を呑み、顔がすぐ真っ赤になり、何を言おうとしたのかも綺麗に忘れました。

 

花城は謝憐の手を取り、手のひらを丁寧にマッサージしながら質問を続けます。「哥哥が言わないなら、当てるよ」時折、指と指の間もマッサージしたり、手の背に優しく口付けしたり。徐々に手つきも、話し方も、違う色を帯びてきました。ひとしきり耳元でくすぐったい尋問を受けた後、謝憐は覚悟を決めて、正直に答えます。その回答に満足した鬼王は、質問が変わります。

 

「哥哥は、いつから自分の気持ちに気がついたの?」・・そんなの正直に答えられるわけがない。一瞬身体がこわばった謝憐を、花城が見逃すはずがありません。「哥哥、なんて答えようか、決めたの?」「はは・・三郎、年をとると物覚えが悪くて、、はは」「そんなこと、忘れられるの?」花城が尋ねます。忘れられないけど、こんなこと、どう口に出せば良いのか分からないのです。

 

そこからひとしきり尋問されて、謝憐はついに口を割ります。「・・黒水島で、一緒に棺桶に入った時・・」「哥哥その時、触らないで、って言ってたよね」謝憐はその時のことを思い返します。花城に身体が反応してしまい、気まずくて死にそうだったので、他のことは何も考える余裕がありませんでした。今思い返すと、明確な拒絶のように聞こえてしまい、花城を思うと心が痛みます。

 

謝憐は花城の顔を両手で包んで、顔を赤めながら言いました。「八百年の間で初めてだったんだ。恥ずかしがって何が悪いんだ...」まさかの突然の、露骨な告白に、花城も少し驚いた様子でした。

 

よく考えると、謝憐は自分はずっとその方面には全く興味がないと思っていたのです。修行も禁欲する必要があるので、あまり気にしたこともなく、あまりに絡まれて困った時には「不能なんだ」と顔色も変えずにさらっと言っていました。何度も何度も言ってるうちに、淡白な生活が長いこともあり、本当にそうなんじゃないかと思うこともありましたが、必要になる機会もないだろうと、気にも留めていませんでした。それが花城に出会ってしまったことで、そうではないと心から思い知るのでした。

 

「そうだ哥哥、そういえば、新郎には満足した?」新婚初夜の話が出た瞬間、謝憐は頭のてっぺんから足の爪先まで真っ赤になりました。花城はそんな謝憐を見て、ここぞとばかりに、止まることなく続けます。「きっと満足したんだろうなぁ。でなきゃ...」花城の口を塞ぐように謝憐が飛びついて口付けしました。

 

 

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二人の甘い日常照れいかがでしたか?

二次創作ですが、甘い日常の中に、あの時こうだったんだ、みたいなものも散りばめられていて、結構好きなんですラブラブ同じシリーズでまだまだほっこりするものがあるので、また随時紹介していきたいと思います!今回は『紅珠戯道惹人怜』から抜粋してあらすじとしてまとめ直しています。)