今回は、媒婆のお話です。軽く読める甘い番外編になっています。

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この前、お店の前で閉め出された媒婆は、まだ諦めていませんでした。

 

もしあの店が繁盛してなかったら、あんな人のために仲人なんかしたくないのに、と本心では思うのでした。あの店は少し古いし狭いけれど、売れ行きがとても良く、利益もよく出ているという話を聞きつけて、師青玄に目をつけたのです。遠い街からもお金持ちが絵画を買いに来ることも多いし、もし縁談をまとめることができたら、きっと潤沢なお礼を貰えるだろう。それに、手脚が不自由な師青玄の縁談をまとめ上げたら、他の障害を持っている人たちからも仲人としてきっと人気に火がつく。師青玄もお金持ちの人を紹介してくれるかもしれないし、そしたらきっとお金になる!そう考えると師青玄の縁談を、諦めることができなかったのです。それが媒婆が、誰からも頼まれていないのに、師青玄に縁談を持ちかけた理由でした。

 

この前の縁談、彼はどうして彼は断ったんだろう。手脚が不自由で、良い年してまだ独り身なのに、嫁に来てくれる人がいるだけでもありがたいのに、断る理由が思いつきません。もしかしたら、相手の年齢が少し上で、子供がいたからなのか?それなら、次は少しふっくらした女の子を紹介しよう!昔から男なんて、女の子の色白の肌を見れば、きっと馬鹿になって何でも言うことを聞くはず、媒婆はそう思うのでした。そうして、次は「暁点点」という女の子に目を付けました。名前には可愛らしい「点」が付いてますが、名前には似合わず、とても恰幅の良い女の子です。暁点点は、身体の上から下まで、肉まんのように白く柔らかそうなのです。媒婆はありったけの言葉を駆使して、その家の両親を説得しました。

 

師青玄には両親がおらず、嫁に行ってから義両親の世話をしなくて良いこと、師青玄の手脚が不自由なので、嫁に行ったらきっと言いなりになってくれること、店の売上が良く、今後一生お金に困らないこと、そんなことを言って説得し、女の子の両親も渋々納得したようでした。

 

そうして媒婆は何とか女の子を''双玄書画坊''に連れてきました。暁点点は師青玄が手脚が不自由なのを聞いて気が乗りませんでしたが、父が前向きだったので渋々ついてきたのです。戸をあけて中に入ると、師青玄は絵を描いていました。陽に照らされた師青玄は、立ち居振る舞いが優雅で、眼差しも温かく、鼻筋も高く通っていて、口角も少し上がっていました。師青玄のとても整った顔を見て、暁点点は顔が赤くなり、少し恥ずかしそうにしていました。もはや手脚が不自由なのも気にならなくなります。

 

師青玄はやってきた媒婆を見て、心の中でため息をつきました。この前断ったのに、きっとまた同じ用事で来たんだな。横にいる女の子を見て、察しがつきます。察しがついたものの、一応尋ねます。「今日はどのようなご用件で?」媒婆は目をぱちぱちさせて、横の女の子を見るように示しました。暁点点は恥ずかしがって何も言いませんが、媒婆は暁点点が師青玄を一目見て気に入ったとわかりました。しばらくして口を開きます。「この女の子と一緒に歩いていて、疲れたからたまたま入って見ているだけよ。気にしないでね。」その眼差しは、師青玄が暁点点を気に入ることを期待しているようでした。

 

師青玄は暁点点の方は見向きもせずに言います。「いらっしゃい。少し座って待ってて、お茶淹れてくるよ。」そう言って、小屋の奥に歩いて行きました。媒婆は暁点点にイライラした気持ちを抑えながら「あとでお茶を出してくれたら、何か喋りかけてみて。その可愛い声を聞いたらきっと虜になるわ!」暁点点は下を向いて、何を話そうか考えているようでした。

 

小屋の奥から戻ってきた師青玄は、顔が赤く染まり、唇が腫れていて、鎖骨のあたりに紫の傷跡のようなものがいくつもできていて、服も少し乱れていました。媒婆はあまりの変化に驚いて、何があったのか聞こうとしましたが、師青玄の後から背の高い黒い服を着た男性が出てきたことに気が付きます。顔の半分を髭で覆われた、この前閉め出しを食らった時の男性でした。

 

男性が二人の机に勢いよく茶具を置きます。お客さんをもてなすような置き方ではありません。媒婆はもはやお茶に手を伸ばすべきか、暁点点を連れて逃げるべきなのか分かりません。「...ありがとう..ございます。」でも、貰える礼金のことを考えて粘ります。

 

この男性は店の手伝いをしている人なのか?それならこの態度は礼儀知らずだし...。師青玄を見ると、身なりを整えて、机に向かってまた一心不乱に絵を描き始めていました。こちらのそばに立っている黒い服を着た男性は、まだすごい剣幕でこちらを見ています。あまりの居心地の悪さに、お茶をなんとか一口飲んで、二人はお店を出て行きました。師青玄は笑顔で「それでは」と言い、暁点点はここでやっと口を開いて「それでは」と言いました。媒婆は、暁点点が恥ずかしがってなかなか師青玄に話しかけないことに少しイライラしました。でもあの黒い服の人を思い出すと、鳥肌が立つのです。

 

何日か経って、媒婆はまた店舗に行こうとしましたが、暁点点の父から連絡があり、暁点点があの日以降、悪夢にうなされると言うのです。黒い服の鬼に追いかけられ、食べられそうになる夢ばかり見て、夜も眠れないのです。今はとても外に出られる状態ではないとのことでした。

 

媒婆は悔しくて、店舗が閉まるぐらいの時間に訪ねました。店舗に入って、黒い服の男性がいないことを確かめて、師青玄に切り出します。「もう遠回しに断らなくて良いから、どんな女の子が好きか単刀直入に教えて!」師青玄はため息をつきながら答えます。「好意は嬉しいけど、前も言ったけど結婚する気はないんだ。それは変わることはないから、もう諦めて。」断られて、媒婆はまた続けます。「学識のある子?小さくて可愛い子?妖艶な子?優しい子?どれかは好きなタイプがあるでしょう。結婚しないとずっと独り身よ?どうしてそんなことがわからないの?」

 

「・・あなた。」突然親密な呼び声が、女性の声で響きました。小屋の奥から、表情が冷たく背の高い女性が出てきて、鋭い目つきで媒婆を一目睨んで、それからずっと師青玄を見つめています。女性は師青玄に近づき、片手を取ると手を広げ、自分の手と恋人繋ぎしました。

 

「うちの夫が何度も断っているのに、何度も店舗に来ているわね。私はお客さんの前にはあまり出たくないけど、いないわけじゃないの。私は夫に、妾を許してはないわ。気持ちはありがたいけど、もううちの夫は諦めてくださいね。」女性は見下すような目つきで、冷たく言いました。黒い服の男性とどことなく雰囲気は似ているものの、違った怖さがあり、媒婆は鳥肌が立ちます。

 

媒婆は急いで謝りながら、「ごめんなさいね、まだ独り身だと思って、紹介しようとしたのよ。勘違いだったわね、許してくださいね...」と言いながらそろりそろりと店舗を出て行きました。

 

「もし今度また来たら・・・」男性の姿に戻った賀玄が言い終わらないうちに、師青玄が慌てて言います。「やめて!大丈夫、もう絶対一生来ないと思う。」「それなら良いけど」賀玄は荒く言います。

 

「俺のこと見ても無駄だよ?もう女の姿には化けないから」賀玄が言いました。「今回女の姿に化けたのは仕方がなかったんだ。お前が脅かすな、って言うし。」「・・・」師青玄はおねだりする目で見つめ、唇もとんがらせます。「良い加減にしろ。お腹すいたからご飯作ろう」そう言いながら、師青玄に口付けします。

 

「一炷香の時間でいいから!」「無理」「一刻で良いから、一刻なら良いよね?」「嫌だ」「じゃあ一瞬でいいから!一瞬なら見てないのと同じだろ?一瞬!」賀玄はついに我慢できずに吹き出しました。吹き出したのを見て、師青玄は同意したと思って笑顔で賀玄を見ますが、賀玄は近づいてきて言います。「い、や、だ」

「賀郎、騙したな!」「笑ったからと言って同意はしてないぞ」「もう一回見せてよ、一瞬だけでいいから!」「だめ」「お願い!」「いや」「頼む!」「無理」

 

その晩、小屋の裏には、二人のお願いする声と拒む声が、食事のいい香りとともに漂っていました。そして、もう少し後には、浴桶の中から、二人の吐息が静かな夜に響き渡りました。

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媒婆、なかなか良い仕事するでしょ?もう、甘すぎて、この甘さが自分の活力になりますお願い

実は番外編、最後にまだ一つあります。あらすじを書くか迷ったのですが、甘いの大好きなので、やっぱり書きますラブ次も甘い番外編です照れラブラブお楽しみにおねがい