前回の続きです!前回のあらすじはこちら↓

-----------------

賀玄は師青玄から「替わり」という言葉を聞いて胸騒ぎがします。自分は師青玄に出会った時からずっと偽の身分でいて彼を騙していることが多かったな...と思いを馳せます。初めて師青玄に出会った頃は、天庭に潜り込むために地師になりすましていたし、皮肉にも、本当の姿を現したのは敵討ちする時だけだった...。考え込んだ黒子を見て、師青玄は話しかけます。「ごめん、そんなに考え込まないで!よく考えたらやっぱり似てないや。適当に言っただけだから、気にしないで!ははは・・ほら、作業に戻ろう!」

 

師青玄が皇城を救った噂が広まると、あちらこちらから人が集まり、師青玄のことを神官のように崇める人もいたり、信仰しだす人も現れます。昔の師青玄であれば喜んで受け入れましたが、今の彼はそうではありません。「はははは・・みんな褒めすぎだよ。神官とかじゃないし、あの晩は本当にたまたまで。ははは・・お祈りしても意味ないよ!神官じゃないから叶えてあげることはできないんだ。ははは・・」それでも、師青玄の人柄に惹かれて、廟のことを手伝ってくれる人も増え、師青玄の目には思いがけず涙が浮かんできます。

 

みんなの手助けがあったり、経験がある人が手伝ってくれたこともあり畑作業は順調に進みます。時折、師青玄は謝憐に会いに行きます。花城が離れてからずっと元気がないのに、無理して笑う謝憐を心配して、もっと会いに行ってあげた方がいいかもしれないと考えます。

 

謝憐に会いに行った帰り、山の途中に小川が流れていることに気が付きます。その川を少し眺めて、魚がいれば捕まえて帰ってみんなに焼いてあげられるのになぁ...春になったらまたここに来てたくさん捕まえよう、と思いました。そして横に梧桐樹(アオギリの木)があることに気が付きます。この上に登ったらきっと景色がいいんだろうなぁ。いてもたってもいられず、片腕が不自由にも関わらず樹に登り始めました。「そんな腕で樹に登れるわけないだろ?馬鹿!」後ろから黒子の声が聞こえます。黒子は何も言わず、師青玄の腰に手を回して一緒に樹の上に飛び乗りました。

 

「はははは・・・やっぱり木の上の景色は最高だ!!」笑顔の師青玄につられて黒子も自然に顔が綻びます。自分の口角が上がっていることに気付いて、また顔をこわばらせます。横に座る師青玄をこっそり横目で見て、師青玄の目の中の輝きを全て心の中に刻もうと思うのでした。

 

師青玄が横で笑うのは初めてじゃないのに、どうして今回はこんなに気持ちが騒ぐのだろう。どこから始まって、どうすべきか分からない複雑な気持ちに、賀玄は困惑します。師青玄がおもむろに口を開きます。「・・・黒子が誰なのか、やっと分かった気がする。」

 

・・・黒子はどう向き合ったらいいのか、心準備ができず黙っていました。「本当は城の標局(貴重品の配送をする仕事)の人でしょ??安心して、誰にも言わないから!」当てたと思って喜んでいる師青玄を見て、やっぱりこいつは馬鹿だ、と考えながら「うん、そう。」と黒子は答えました。「だって、体がしっかりしてるし、たまにいなくなるからそれって遠出してるってことだよね?身なりも綺麗だから俺たちとは完全に違うと思ってたんだ。」

 

「お前だって、みんなと違う生活をしようと思えばできるじゃないか。ずっとそこで物乞いの生活をする必要はないだろ」「ここにいる人達は、何か困難にぶち当たって一時的に転んだ人達なんだ。でも再び起き上がる能力も自信もなくて。もしできることなら、誰も物乞いをしないで生活できるようにしたいんだ。だから、廟をしっかり建て直したい。住むところが落ち着くとみんな他のことに目が向けられて、再び立ち上がれると思うんだ。」そう語る師青玄の眼差しは遠くの皇城を見つめていました。

 

「それでお前は?」「ははは・・俺はいいんだ。」「どうして?」・・・罪人だから?・・・受けて当然の報いだから?・・・自分のせいで何人も死んだから?・・・一生かけても償えない罪を抱えてるから?・・・いくつもいくつも理由が浮かぶけれど、師青玄はただ静かに「俺はいいんだ。一日一日生きれたらそれだけでいいんだ」と答えます。しばらくして「そろそろ暗くなるから、木から下ろして。一緒に廟に帰ろう。」そう言う師青玄の顔には笑顔が戻っていました。

 

季節は変わり、冬が過ぎ、春が来ます。謝憐に会いに行く帰りは、黒子はいつも山の途中で待ってくれています。師青玄は汗を流そうと上着を脱いで小川に飛び込みます。黒子はいつも川辺で、そんな師青玄を見守ります。風師だった頃の、白くてすべすべした柔らかい肌はもうなく、畑仕事や廟の立て直し、説書ですっかり肌は荒れて日焼けてしまっています。栄養不足で体も細く、平たく、傷跡もちらほら残っています。折れた腕や脚を見るたびに、黒子はやり場のない怒りを感じていました。小川で水浴びした後は、二人で梧桐樹の上で皇城の景色を眺めていました。

 

「この景色は何度見ても綺麗だ」「そんなに皇城が好きなのか?」「昔からここで宴会を開きたいと思っていたんだ」「今でもやろうと思えばできるじゃないか」「今はもうそんなこといいんだ・・」そう言う師青玄の目の中に、黒子は少しばかりの残念さを感じとります。

 

「手脚は医者には診てもらわないのか?」「もういいんだ」・・黒子にじっと見つめられて、気まずい師青玄は続けます。「ははは・・つまり・・・そんなお金があれば廟を修理したいしさ。ほら、魚を捕まえよう!みんなに持って帰ったらきっと喜ぶよ!」そう言って魚を捕まえに行こうとした時、「あ!!」師青玄が声を上げます。「どうした?!」黒子が駆け寄ります。そこには蛇に手を噛まれ不安な顔をした師青玄がいました。次の瞬間、黒子は師青玄の手を持ち上げて、傷口を吸います。「そんなことしなくていいよ!自分でやるから。」と言って師青玄は手を引っ込めようとしました。「今は人間なんだから!死ぬんだぞ!!」口から出た瞬間、黒子は言ってはいけないことを言ってしまった・・と思います。二人とも果てしない沈黙が続いた後、「はははは・・人間なんだから当然だろ!俺はずっと人間だよ。」師青玄が口を開きます。「俺が言いたかったのはその・・・もし毒蛇だったら、誰でも死んじまう、ってことだ。」黒子も返しました。

 

-------

最後、黒子絶対正体バレましたよね汗うさぎでも心のどこかで思うんです。きっと一目見た時から、どことなくバレてたんじゃないかなって。神官の時に長年親友として一緒にいたし、神官の長年って、そもそも何十年、何百年じゃないですか。。一緒にいる時の空気感とか、会話のテンポとか。好きなものとか、仕草とか。ちょっとそっけない返しとか、そういうところって、少しの間なら誤魔かせても、長く一緒にいると誤魔かせないじゃないですか。どことなくわかってしまうもんじゃないかなって。

 

お互い心の中では分かってるかもしれないけど、一旦それを白日の下に晒してしまうと、嫌でも向き合わないといけなくなるし、今のままの関係ではいられなくなる。どんな顔で、自分の家族を奪った元凶と向き合ったらいいのか、どんな関係で、自分が不幸にした相手と向き合ったらいいのか。・・・お互い心の整理ができないと思うんですよね。百歩譲って、自分側はなんとか新しい気持ちで向き合おうとしても、相手は向き合えるとは限らないし、相手に向き合ってもらう資格もないし。嘘でも偽りでも、黒子が黒子のままなら、少なくとも二人は今はそばにいることはできるわけで・・・。

 

もう本当に悲しくなる。本編でも二人の結末が苦しくて、そのまま終わってほしくなくてこの作品にたどり着いたんだけど、この時点での二人の関係もなんだか苦しい。考えれば考えるほど、この二人の運命って複雑に絡み合ってて、言葉にならない。。