猫の減量には、エネルギー制限だけでなく、代謝調節による方法もある。代謝調節食の有効性はエネルギー制限食と同等であり、安全に減量できることが、臨床実験により示されている。 代謝調節による減量には、以下のポイントに注意する。
炭水化物
食事中の炭水化物の制限(20%以下 乾物量)は、代謝コントロールでは重要な要素である。
炭水化物の摂取量が増加するとインスリン分泌が刺激され、脂肪の蓄積を促す方向に向かう。反対に低炭水化物食を摂取した場合は、インスリン応答が鈍くなり、脂肪の利用を促す効果がある。
人では食事中の蛋白質に対する炭水化物の比率を低くすると、満腹感が得られることが報告されている。
蛋白質
食事中の炭水化物を少なくすることで、エネルギー源として蛋白質と脂肪の使用が増加する。そのため、体蛋白の減少を避けるため、食事中の蛋白質を増やす必要がある。
猫はもともと蛋白質要求量が高く、推奨される食事中の蛋白量は47~55%(乾物量)である。
脂肪
炭水化物の量が制限されると、猫はエネルギーをより脂肪に依存することになる。すなわち、低炭水化物食の摂取によって、体は脂肪や蛋白質にエネルギーをより強く依存する状態になり、体脂肪の分解が促される。
脂肪は単位重量に含まれるエネルギー量が多いため、可能な限り食事中の脂肪量は低く抑えることが望ましい。食事中の脂肪量は25%以下(乾物量)に抑えることが望ましい。
食物繊維
食物繊維はエネルギーを希釈し、満腹感を生じさせるため、5%以上(乾物量)にすることが望ましい。
L-カルニチン
L-カルニチンは肥満猫を安全に減量するうえで重要であり、食事中の推奨レベルは500ppm以上とされている。
抗酸化物質
肥満動物では酸化ストレスが増大しており、エネルギー制限食同様、猫の減量用食は、500IU/kg(乾物量)以上のビタミンE、100~200mg/kg(乾物量)のビタミンC、0.5~1.3mg/kg(乾物量)のセレンを含むことが推奨されている。
減量のための給与量の決定
安静時エネルギー要求量(RER)の算出
RER(kcal/日)=30×体重(kg)+70
この式で近似値を算出することができる。(2kg未満、50kg以上の
動物では別の式が用いられる。)
猫が脂肪組織を維持するために必要とするエネルギーはわずかであり、ほとんどのエネルギーを脂肪を除いた組織の維持に使用される。すなわち、減量時の給与量を決定する時には適正体重の動物と肥満動物のRERがほぼ同等と仮定する。そのうえで、猫の減量開始時に推測されるエネルギー要求量を「0.8~1.0×RER」で算出する。
このレベルのエネルギー制限を行うと、不足分のエネルギーを貯蔵脂肪の分解によって補わざるを得なくなる。
実際には個々のエネルギー要求量には差があり、体重減少量率を週に0.5~1.0%の範囲に保つように調節する。
肥満猫は飢餓状態が継続することにより、肝リピドーシス(脂肪肝)が誘発される。それを避けるためにも過度のエネルギー制限は危険であり、計算された食事量の50%以上を必ず摂取させることが重要である。