部屋の掃除をしていたら、
懐かしい卒業アルバムや寄せ書きが出てきた。

初めて人を好きになって、
思いを伝えあって、
こっそり手紙を交換して。

そんな記憶とともに蘇ったのが、
何人もの恋人の顔だった。

あの頃のままの写真を見て、
なんだか無性にあいたくなった。
懐かしくて、懐かしくて、堪らない。
いまどこで何をしているのだろうか。
どこか遠くに行ってしまったのだろうか。

あの時、こうしていれば、
いま隣にいたのかもしれないとか、
そんなことばかりが頭の中を巡って、
自分のことが嫌になる。

確かに好きだった。
恋をしていた。

初恋の相手は幼稚園のクラスメイトで、
その子が一緒にいてくれれば
泣くこともなく一日終えたんだとか。
そんな話を聞いていたから、
写真の中の彼を思わず指先で撫でてしまった。

初めて付き合った相手は
小学校一年から五年までのクラスメイト。
恋敵が現れたり、
同性からも好かれてしまったり、
いろいろなことがあったけれど。
手紙を交換したり、
バレンタインとホワイトデーが
楽しみになったり。

でも小学六年のクラスが別になって、
私は他の子と仲良くなっちゃって。
元々男勝りな性格だから、
男友達との付き合いの方が気楽で。
結局その一年で何人かに告白されたり。
でも私は彼が好きだったから。
お互い大丈夫、なんて思ってたけど。

中学に入ってクラスは一度も同じにならなくて。
すれ違いばかりで、
結局別れ話を持ちかけられた。
私は自然消滅したと思ってたんだけど。
でも、これでよかったのかもしれない。
未練はあるといえばある。
だって、彼を手放していなかったら、
きっと今、幸せな家庭を築いてる。
全てが順調だったのかもしれない。

別れたという噂があっという間に広がって
私にも彼にも告白の嵐が待っていて。
結局中学を卒業するまでに、
五人ほどと付き合ったのかな。
部活や試験であまり長続きしなくて、
なにより、病気になって学校に暫く行けなかった。

みんな受験に向かって頑張っている、
みんな大きく成長しているのに、
自分だけ病室に取り残された気分。
完全に外の世界と遮断されていて、
副作用のきつい薬ばかりで、
生きる気力なんてなかった。
人に会いたくない日が続いた。

小学六年の時に仲良くなった彼が
何度も会いにきてくれた。
初めは髪の抜けた頭を見られるのが嫌だった。
痩せ細った腕を見られるのが嫌だった。
汚く黝んだ顔を見られるのが嫌だった。
でも、彼は私に気を遣うことは一切なく、
小学生の頃のまま、あのままで、
なんで坊主なんだとか、
眉毛は生えてるのにとか、
室内にいるのに日焼けがすごいだとか、
ありのままの姿を受け入れてくれたことが嬉しくて、
私は彼の来てくれる水曜日と金曜日と土曜日が
楽しみで楽しみで仕方なくなった。

ガラス越しに筆談し合う日々が、
こんなにも愛おしいということを、
今でも鮮明に覚えている。

無菌室を出て一般の病棟で過ごす日々の中で、
彼に告白をされた。
私も彼が大好きだった。

この時もきっと選択を間違えてしまった。

彼に好きだと伝えていたら。
そうしたら、きっと今、私は幸せだった。

好きだといえなかった。
病気であることに負い目を感じて、
好きだといえなかった。

それでも変わらず見舞いにきては、
日々の何気ない話を聞かせてくれる彼に
申し訳なさと居た堪れない気持ちが込み上げた。
退院した日にそのことを伝えた。

私はこの日、
初めてセックス をした。

心も身体も愛していると言われた。
でもやっぱり、応えられなかった。

そんな彼は元気にしているのだろうか。
今どこで、どんなことをしているのか。
気になって仕方がない。

そんな淡い記憶が蘇ってしまった今日、
歳上の彼は早々と眠ってしまった。
もう少し話したかったな。

彼らとの関係が続かなかったからこそ、
今の彼と出会って、愛して、愛されて。
そんな幸せがある。

だから、一概に間違いだなんていえないし、
言いたくない。けれど。

こんな気持ちになってしまうのは、
きっと秋のせい。
秋の涼しい風が、寂しくさせるの。

明日、目が覚めたら、
うんと彼を抱き締めようと思う。