映画『マネーボーイズ(金錢男孩)』(2021年、墺・仏・台湾・白合作) | 今天有空嗎?

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新宿シネマートにて、クー・チェンドン主演の映画『マネーボーイズ(中文タイトル:金錢男孩)』を鑑賞。

まずは予告編↓↓↓。

 

 

『マネーボーイズ』

2021年/オーストリア、フランス、台湾、ベルギー合作/120分

 

中国南部からやってきたフェイ(柯震東)は、都会で男娼として金を稼いで実家に仕送りをする若者。フェイにはシャオレイ(林哲熹)という同業の恋人がいて、ふたりはシャオレイのアパートで同棲していた。そんなある日、フェイが客に暴力を振るわれ、怒ったシャオレイはその客に報復を試みるが、逆に客の舎弟たちに襲われ大けがを負ってしまう。フェイは警察沙汰になることを恐れ、シャオレイの部屋から逃げ出し、ふたりは音信不通になってしまう。

 

5年後。フェイは別の都市で男娼として成功を収め、羽振り良く暮らしていた。しかし実家に帰省するフェイには居場所はなかった。家族は経済的にフェイに依存しながらも、独身な上に身体を売って金を稼いでいることで、フェイを一族の恥だと感じていたからだ。ただひとり、幼馴染の弟分・ロン(白宇帆)だけが”都会で成功を収めた”フェイに憧れ、フェイのもとに転がり込んできた。同じ道を歩ませたくはなかったフェイだったが、ロンは自ら男娼として働き始める。やがてフェイは偶然シャオレイと再会するが、シャオレイは過去の事件で両足の機能を失い、さらに現在は妻子とともに暮らしているという…。

 

中国南部で幼少期を過ごし、十代でオーストリアに移住後、巨匠ミヒャエル・ハネケに師事しながら映画製作を学んだ新進気鋭の映画監督、C.B. Yi監督による長編初作品は、台湾各地(台北、基隆、台南)をロケ地としながら中国の架空の都市が舞台の劇作品である。台湾で撮影されながらも台湾映画ではなく、だからといって中国映画でもなく。台湾で公開された当時、言葉の問題や、あまりに有名なスポットで撮影されていることから、台湾の観客の感想には舞台が台湾ではないとわかっていてもかえって違和感を覚えてしまい…というマイナスな意見が散見されていたのだけど、日本人が見る分にはそれほどネックにはならない気がした。

 

説明の少ない台詞回しとショットの切り替えで時間が経過し展開するストーリーには無駄な部分がひとつもなく、またどのシーンを切り取っても、ひたすら美しく、印象深かった。クラブで踊るフェイの姿と、その編集がとにかく秀逸だったのと、日本版ビジュアルに使われている歩道橋のシーンに心を揺さぶられた。

 

都会で生きていくために(さらに家族を養うために)身体を売って金を稼ぐ田舎出身者が、さらに同性愛者としてのアイデンティティと「結婚」「伝統的な家族」といった価値観の間で苦悩する姿が描かれる。ストーリーに登場する、フェイとかかわりのある三人の女性:姉のホン、ゲイの友人と偽装結婚するレズビアンのルールー、シャオレイの妻を、曾美慧孜がひとり三役で演じているのが興味深い。弟を心配しつつも依存しなければ生活していけない既婚の田舎女性、性的指向をカモフラージュし、家族と自分のメンツを守るために結婚の道を選ぶレズビアン、夫がゲイだと知りながらも結婚する打算的な妻。三者三様の生き様それぞれが、同じ女性としては切なかった。

 

フェイの心情をカバーするかのような劇中歌がこれまたよかった。林哲熹が情感たっぷりにカラオケで歌い上げる「北京 北京」、そしてクラブのシーンで流れ、エンディングにも用いられていたメロウなダンスナンバー、Phum Viphurit の「Hello, Anxiety」。歌詞がきちんと訳され字幕になっていて助けられたし、歌詞の内容がわかったことで、ストーリーが描こうとしたものや、ラストの編集の意図がよりはっきりと見えた気がする。

・・・というわけで、期待通りの超おススメ作品です。

劇場にもう一回見に行こうかな。。

 

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