過去にも投稿した項目ですが、記述を増やした上で再掲します。
眼瞼下垂レーザーミュラータッキングマニュアルという2022年10月に発行された書籍において、重症筋無力症の患者さんに眼瞼下垂手術を行なった例が掲載されており、よく目が開くようになっていました。(もちろん筋無力症の治療開始済みで安定した時期に手術です。)
写真が掲載されていて、60歳代の男性の症例で、術前には目が少ししか開かず、かなりの眼瞼下垂状態だったものが改善していました。
眼瞼下垂手術を集中的に扱っている医療機関では、筋務力症でも手術がある程度の効果がでる事の認識は徐々に知られていると思います。
この書籍において私が注目したのは、このページに掲載されている60歳代の患者さんが、なんと
(ひどい眼瞼下垂であるにもかかわらず)10ヵ所以上の眼科をまわったがどこからも眼瞼下垂手術を断られた
という事が書いてあった部分です。
ここからは私の推測ですが、もちろんその眼科の中には小さなクリニックばかりではなく大規模な病院の眼科もあったことでしょう。
この患者さんのように10ヶ所以上受診を繰り返してこの本の著者の病院までたどりつける人というのはなかなか居ないでしょう。
現状でも医師から「手術はやらない」「できない」「内科の病気のせいなんだから手術しても効果ない」と言われて数ヶ所まわった段階で諦めてしまっている患者さんは多く居ると思います。
また、筋無力症は内科疾患なので、内科のかかりつけ医にまぶたの手術の事を相談しても、内科医は手術のことは実感としてよくわからない、情報が無いのが実情という、構造的問題もあるように思います。
確かに、手術したときにどの程度の強さでまぶたを上げるかの加減が一般的な加齢による眼瞼下垂よりもさらに難しいとは思いますが、この病気の患者さんで眼瞼下垂手術を希望されている方は、眼瞼下垂手術を多く扱っている病院を複数箇所たずねてみると、手術を行なってくれる医師に巡り会える可能性があるでしょう。
決して、まぶたの手術をほとんど行なっていない1〜2ヶ所の眼科で相談してあきらめてしまわないほうがいいなと感じた一件でした。
しかしこれは重症筋無力症に限らず、やや頻度の少ない疾患においては共通して言える事だと思います。
ーーーー以前(2020年)に投稿した記事ーーーーー
重症筋無力症または筋無力症と呼ばれる病気があります。その病気は筋肉に脳からの命令「動け」という司令が届きにくくなる疾患です。脳からの命令が筋肉に伝わるのに必要な部位が自分の免疫系によって攻撃され、機能不全を起こす自己免疫疾患の一つです。
これは病院の科目で言えば神経内科に属する領域の疾患ですが、まぶたの下がり(眼瞼下垂)が症状の一つとして在るため、まぶたの診療を多く行なっている病院なら、数は少ないなもののこの疾患の患者さんがまぎれているはずです。それを見逃さないためにもまぶたの診療をする者は知識を持っておいたほうがいい疾患です。
実際に私が勤務するまぶた専門の外来でも重症筋無力症であると確定した患者さんは複数名おられます。
筋無力症における眼の周囲に現れる症状にポイントをしぼって記載いたします。
筋無力症において動きが悪化する筋肉には特徴があり、眼の周囲であれば眼の向きを制御する筋肉(外眼筋)と、目を開く際に上まぶたを挙上する筋(上眼瞼挙筋)が動きづらくなり、左右の眼で見る視界が二つにずれる複視という症状や、まぶたが下がって十分眼が開かなくなってしまう眼瞼下垂が起きる場合があります。
この疾患は自己免疫疾患なので、免疫の働きを抑えるような、ステロイド薬や免疫抑制剤の使用によって症状はいくらか改善します。しかし、患者さんの眼瞼下垂(まぶたの下がり)は、内科で正しく診断と治療が行われた後でも残る場合があります。
まぶたの下がりが内科的治療によって全快するなら手術は必要無いわけですが、実際は全快まではいかずある程度下がったままで 、そこから肩こりや首の痛みや頭痛など、痛みを中心とした症状が引き起こされている状態のかたがあります。
治療後も残っている眼瞼下垂に対して、眼瞼手術を扱う医師と普段のかかりつけの内科医で意見の一致をみない事が多く、手術でまぶたの重さが改善しうる事はあまり知られていないように見えます。
手術をしない内科系医師からすれば、どの程度の事が手術で可能なのかイメージしづらいですし、まぶたの高さを手術で動かすなんて事は得体の知れない事で、気軽に患者さんに勧めたい事ではないでしょう。患者さん側から要望が出ないかぎりは。
まぶたの手術を手がける医師からすれば、重症筋無力症という疾患自体が、ほとんど扱った経験の無い得体の知れないもので、オペしていいものかどうか判断がつきにくいのかもしれません。
清水 雄介ら:臨床神経学 52巻12号 Page1543(2012.12)
上記タイトルをクリックし、さらにpdfファイルをクリックして1543ページを見ると論文の概要が読めます。
筋無力症の治療後も残る眼瞼下垂の12眼瞼(8名)に眼瞼下垂手術を行ない、大きなトラブルなく眼の開きの改善を得たという内容です。
下記の論文は英語ですが誰でもアクセス可能です。
https://www.karger.com/Article/Pdf/356793
Is Surgical Intervention Safe and Effective in the Treatment of Myasthenic Blepharoptosis? A Multicenter Survey in Japan. Eur Neurol. 71 : 161-163, 2014
(訳:重症筋無力症の眼瞼下垂治療における外科的介入は安全で効果的か?日本における多施設調査)
676人のこの疾患の患者さんに質問用紙に記載してもらう方法で調査が行われ、そのうち19名が眼瞼下垂手術を受けておられました。その19名の回答内容について、術後1年以上経過した状況での結果は手術前に比べて開瞼がとても容易になったと答えたのが7人(37%)、容易になったと答えたのが10人(53%)、現在手術前よりも悪化していると答えたのが2人(11%)だったという事です。
この疾患で、治療を受けているが瞼の重さは改善が不充分だ、というかたは眼瞼下垂手術のできる専門家を受診してみてはいかがでしょうか。ただしもちろん、手術である以上は成功不成功があり得ます。
※特定の医療施設を勧めるものではありません。