さまよう刃 (角川文庫)/東野 圭吾

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 私は、職業柄、「どうしようもない人間はこの世にはいない」「話せば分かりあえる」ということを前提としなければやっていけないと思っているのですが、東野圭吾『さまよう刃』
を読んでいると、どうもその前提が崩れざるを得ない瞬間を感じます。

 被害者と加害者がいて、そのときに、どちらの人権を優先するべきなのか。自分の身内が残虐に殺されて、相手に反省の色が全くなかった場合、その相手を憎むことは悪なのか、殺されたものが戻ってこないとわかっていても、加害者の死を望むことはいけないことなのか。

 徹底的に被害者の側に立つことで、読んでるうちに当事者意識がむくむくとわきあがってきて、昨今起こる残虐な事件に対する被害者の心情を鑑みずにはいられません。

 社会で悪とされている行動を取っている主人公が、悪であるとはどうしても思えない。自分が同じ状況に立たされたとして、その行動を取らない自信は全くない。悪を否定しきれないとても面白い作品でした。