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歩きながら敬子はヤンに尋ねてみた。
「ヤンさんは何時頃この図書館に来たんですか?」
そう敬子が言うとヤンはしばらく考えてから答えた。
「そう、いつだろう?でもだいぶ経つんだろうね・・」
あまりに抽象的な答えに敬子は拍子抜けした様子で質問を続けた。
「ヤンさんは次の世界に向かうのに今までどんな本を読んでいたんですか?」
「そうだね・・・んんん」
困った表情でいるヤンはその答えにも答えられなかった。
不思議に思った敬子はそんなヤンにこれならと言った質問をぶつけてみた。
「私が今までここで出会った人達は皆、この図書館に入る際に案内人からこの場所の意味やこの本棚の本の意味を教えてもらっていたんですがヤンさんはいったいどんな人が案内人としてこの世界の説明をしてくれたんですか?」
そう敬子に言われヤンはとうとう押し黙ってしまった。
何を聞いても答えようとしないそんなヤンに敬子は苛立ち始めた。
「ヤンさん、私に何か隠してます?」
そう敬子が言い切るとヤンは慌てたように首を振った。
「隠し事?とんでもない」
「じゃあ、何でヤンさんは何時来たかとか、どんな本を探しているとか、ここに来た人間なら当然の様に答えられる事が答えられないんですか?それにここへ来たときの案内人の事は皆、覚えてましたよ・・・」
不信感を抱いた敬子は強い口調でヤンに向かって言い切った。
その敬子の苛立った表情にヤンは驚いた様子で瞳は潤みまるで子供の様な顔で涙を流し始めた。その姿を見て敬子は年寄りであるヤンに向かって強い口調で問い質してしまった事を後悔をした。
「ごめんなさい。別にヤンさん怒ったわけではないんです。」
泣きじゃくるヤンは大きく首を振りその場にしゃがみ込むと何とも切なそうに泣き続けた。その表情を見ているだけで敬子の胸は押しつぶされそうになっていった。
(どうしよう。何であんなに強い口調で言ってしまったんだろう。クーモやリリィよりも古くこの場所へ居たとしたら何時来たかなんて解らないのは当然なことだし、クーモだって「何時からいたの」って言う質問に読んだ本の冊数を言っていたくらいだった。それに年齢も年齢だ、昔からここに居たとしたら案内人すら忘れて当然だ。)
今となっては疑問をストレートに投げつけた事に後悔ばかりする敬子だった。
ヤンが泣き続けしばらくした時、敬子はヤンの背中を包み込むように抱きしめた。むせび泣くヤンは落ち着き始めたのだろう、まだ膝を抱えて下を向いたままだったがもう泣いている様子はなかった。
「ヤンさんごめんなさい。私が悪かったわ、さあそろそろ南へ向かって歩きましょう」
そう言って敬子はヤンを抱き起こした。
ヤンは落ち着きを取り戻し敬子に向かって一言あやまった。
「ごめんなさい」
「とんでもない、私こそすみませんでした。これからの事は取りあえず南に着いてからゆっくり考えましょう」
二人は歩き出し少し南へ向かう道すがらヤンが敬子に向かって質問をした。
「敬子さんはどうして南へ向かっているんですか?」
「それは・・・」
少し照れくさそうに敬子は理由を話した。
「私は今までこの図書館の入り口から西の端、北の端、へと行ってみたので南の端を見ればこの大きな図書館の大体の大きさも解るし、ただ知りたいと言った理由だけなんです。これと言った訳はないんですよ。」
そう言うと敬子は照れくさそうにヤンに向かって笑いかけた。
「そうですか、それは大変でしたね。ここは大層広いからこの中の東西南北の全てを歩き回るなんていったいどの位を歩いたら回れるのか私には考えられない事ですよ」
そう言ってヤンは敬子に微笑み返し、その笑顔に敬子は何ともいえない懐かしを感じていた。