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図書館の入り口へ向かう途中、クーモは敬子に今までの自分の生い立ちを話し始めた。
島での暮らし、優しかった家族、そして自分の死、この時初めて敬子はクーモがどの様にしてここに来たのかを知った。
クーモは南洋のそれは小さな島で育ったそうだ、一年を通して温暖な気候だったが島の表と裏では海流が違い表は遠浅で暖流になっており裏は一面の岩場が続き寒流が流れていた。島の住人達はこの岩場が続く寒流の場でよく漁を行なっていた。
岩場付近では海草や貝など色々な物が取れたが、岩場付近の海は魚影が濃く大型の魚が多く取れた。
クーモもよくこの島の裏で漁を行っていた。その日は兄弟達も岩場で蟹などを探し兄の
漁をする姿を見に来ていた。
クーモは岩場にいる弟達からは離れ少し沖に向かって泳いだ、うねりこそあるが白波が立たぬ程度の深さのある場所で漁をする、あまり岩場に近づきすぎてしまうと大波が来た時に波と一緒に自分まで岩に叩き付けられてしまうからだ、この事はクーモの父から教わりその父は祖父に教わりその漁の仕方は代々教え伝わっていた。
その日の漁は、快調だった。波は季節の変わり目で少し高かったが慣れたクーモには何の問題もなかった。五メートルも潜ればそこには魚が豊富に生息し漁はさして難しくなかった。しかし、あまり長い時間海で漁をしていると寒流に体が冷え足を攣り早い流れに体を持っていかれてしまう危険性があるので三十分間隔で休憩をする事にしていた、この事もクーモは父から教え込まれていた。
漁をして三十分が過ぎた頃だった、クーモは自分の体が冷えてきり硬くなっている事を感じ始めていた。長い時間潜り続け、唇は紫色に変色し手の先や足の感覚も弱ってきていた、水中で最後の魚を仕留め水面に顔を上げると岩場で兄弟達が何やら騒いでいた。
岩に叩きつけられる波音でクーモには弟達が何を騒いでいるのかはまったく理解出来なかったがそれがただ事でないのは皆の表情ですぐ理解できた。
皆の様子を見ていると一様に皆、同じ場所を指差していた。よく見ると一番下の弟のヤムの姿が見えない事に気が付いた、まだ五歳になったばかりのヤムは兄弟達と方時も離れなかった。クーモはこの年の離れた一番下の弟をこの上なく可愛がっていた。
この岩場でもつい先程まで皆と大騒ぎをしていた姿があったのに、今はその姿が見えない。
(どうしたんだ・・ヤムだけいないじゃないか)
クーモは皆が指している場所を見ようとしたがうねりが高くなかなかその場所が見えずにいた。
しかし、只ならぬ兄弟たちのその表情でヤムの身に何かが起きたことだけは理解できた、クーモは全力で皆が指している岩場付近に向かいその付近を見回した。
(いた!)
岩場から落ちたのだろうヤムは小さな体で必死に近くの岩にしがみ付いていた。しかし、その場所は打ち付ける波も高く危険な場所であることは見ただけでもクーモには判断できた。海で漁をしているクーモたちにはこの一瞬の判断に生死をかけてきた。そのクーモが見てもヤムのいるこの状況がどれだけ危険かは直ぐに察しがついた。
