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「ようーし、これでやっと俺の本が見つけ出せるぞ!」
さっきまでの事が嘘の様にクーモは元気いっぱいにハシャギまくった。
「でもさ、敬子!リリィはなぜあんなにも変わってしまったんだい?あの本にはいったいどんな人生が書かれていたのさ?」
不思議そうにクーモは敬子に訊いた。
「それは、秘密よ!」
そう笑顔で答える敬子は椅子を立ちクーモの本が待つ一番西の本棚へ向かって歩き出した。
歩く距離は長かったがクーモと話す会話は尽きなかった。
「ねえ、そう言えばケイコはいったいどんな本を探すんだい?」
そう言われ敬子はハッとし自分の一冊についてまったく考えていない事に気がついた。
「何も考えてなかった」
「えっ?」
驚いた様子でクーモが敬子を見るとその表情は、悩んだかのように首をひねり上目づかいで歩いていた。
「あるだろう?何か、リリィじゃないけど美しい女性になりたいとか何か?」
「そう言われても?」
依然、敬子は悩んだ様子で歩き続けた。
「ん・・・・・・」
幾ら悩んでも敬子にはこんな人生を歩みたいといった理想が出てこなかった。
そもそも敬子は決断力のある人間ではなかった。結婚を決めた時など隆史にプロポーズされる前にいろいろアプローチして来た男性を悩む事が出来ず、そのまま隆史と結婚式を挙げたほどだ。我が子の名前を決める時でさえ“どちらが優貴と沙紀でも良いよ”とさえ言ってしまう程だった。そんな敬子が次の一冊をそうそう決められるはずがなかった。
「そうだ!」
ひらめいたかのように突然、敬子は叫んだ。
「次は、男性になってみようかな」
クーモは開いた口が塞がらずよだれを垂らしそうになった。
「だから、そう言った事じゃないでしょ・・・」
「冗談よ!」
敬子がそんなクーモの子供っぽく怒る表情に笑いながら歩いていると西の端近くにさしかかった。
「まるでさっきと逆ね。テーブルも椅子もあって入り口だけがないんだ・・」
「そうさ、この配置は南も北も一緒なんだ。それぞれテーブルと椅子が配置されているんだよ」
そう言うとクーモはリリィが言っていた西の端にある棚の横へ早歩きで進んで行った。棚の横には確かに五冊の本が積んでありその本を見つけたクーモの顔は安堵の表情でいっぱいだった。
「あった、これだ!」
棚の横に置かれている本に駆け寄りクーモはその本を大事そうに抱えテーブルの上に置いた。敬子がその本を手に取り一冊、そしてまた一冊と捲るとその全てに物語が記載され、その文字を見てクーモはホッとした表情で椅子に座り込んだ。
「敬子、それじゃ選んでくれよ。リリィの時の様に俺に会う感動的なお金持ちの本を」
そう言ってクーモは敬子をせかせた。
「解っているから、この本が読み終わるまであなたはどこかこの近くの本棚の本でも読んでなさい。もしこの中にあなたの一冊がなかったらまた一から探し始めないといけないんだから」
そう言われクーモは渋々、敬子が見える少し離れた本棚に向かいその棚から一冊の本を抜くとその場に座り込んでその本を読み始めた。敬子はテーブルに置かれた一番上の本を手に取り表紙をゆっくりと捲り読み始めると徐々にその内容に同調していった。
この一冊目の本を中ほどまで読む事にそう時間はかからなかった。
「あー!」
そう声を出し両手を上げ伸びをすると、クーモは先程抜いた本を一心不乱に読んでいた。
(どうしたんだろう?やけに集中して読んでるな?)
そうは思ったが敬子もクーモが大人しいのでまたこの本の話の続きを読み始めた。
敬子がこの本を読み終わり視線を上げるとクーモは未だにその本を読んでいた。気にはなったがクーモには声をかけずに二冊目の本を読み始めた。
一冊目に続きこの二冊目の主人公も敬子にはピント来るものがなかった。皆、共通して言える事は使い切れないお金を持つと次に向かうその思考はくだらない物へ向けてしまうという事だった。三冊目、四冊目、そして最後の五冊目まで一気に読み切ろうとしていた時、敬子はふと、クーモの事を思い出し、視線を上げてみた。クーモは先程から読んでいた本を閉じ、何やらうつろな表情でこちらを見ていた。そのクーモ様子を気にはなったが敬子はこの五冊目の本を一気に読み終えてしまおうと残りのページに集中した。