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この話を聞き、何日かの滞在後にヤルーナから聞くことが出来た話では“マリアは頻繁に送られて来る寄付者であるあなたを調べ、それがミスター・ガイバーガーと言う名前である事を知ったそうです。彼女はなぜかあなたの送金がある日、決まってその送金されてきた金額の数字を見つめてはとても辛そうに、そして、何とも愛おしそうにしていました。その事に関して私たちが幾ら聞いても答えようとはせず結局、私達には彼女がなぜそんなにあなたに対して一寄付者として以外の特別な感情を抱くのかは教えてはもらえないままでした。”
その話を聴き私はマリアに対して一生背負わなければならない十字架を背負ってしまった様に感じた。
彼女は私を許してくれていたのだろうか?それとも未だに許せずにいたのだろうか?彼女が見せたその辛そうな表情は裏切られた過去の男からの寄付を受けなくては行けないと言った屈辱的な感情表現なのかそれとも私が背負ったマリアへの罪に対しての慈悲なのか今となっては解らない。
しかし、マリアからのお礼状には私に対しての最大の敬意と賛辞の文字が特に印象だった。そんなマリアだからこそ私の事を知っていながらも知らないそぶりをして私のエゴに付き合ってくれたのだろう。そして、もう私の事は許してくれていたのではないか?
あれから私はマリアが残したあの施設の火を消さないよう援助を続け、またマリアと言う存在が消えないようベールに隠し、多くのマスコミに取り上げさせて来た。そして、この映画できっと彼女は世界中の人間にその存在を知られ永遠に未知のベールに隠された伝説となるだろう。)
「戦場のマリア」の完成試写会はセントラルパークに大スクリーンを設け未だかつてない大仕掛けとなって行われようとしていた。
その周りには各国のテレビ局が場所取り合戦とばかりにテントを広げそこはまさに野外ホールと化していた。赤い絨毯は何百メートルと敷かれその豪華差を物語っているようであった。
試写会前のセレモニーが始まる十八時にはまだ少し時間があった。
「アン、どうしよう私、緊張してきた。」
「あなたが緊張してどうするの?あなたが先に緊張するから私が緊張するのを忘れちゃったじゃない」
そう言われて皆の笑いを受けているケイトだったが今、アンの周りにいる誰しもが緊張で顔を強張らせていた。そしてアンの横にはこの晴れの舞台を是非見て欲しくて呼ばれた親友のナンシーがアンのメイクを施していた。
「きれいよ、アン」
「ありがとうナンシー」
アンはナンシーの手を握り微笑み返した。その笑顔を見てナンシーはこの笑顔こそが本物の女優の笑顔なんだろうと感じた。
「アンは撮影前に出会った時とは別人の様に美しくなったわ、あの時はまだ小娘の様な自信だけで自分は女優だと言って虚栄を張っていた様にみえたけど、今のあなたは何年もハリウッドで主役を張っている様な、妙な貫禄すら感じる。この短期間であなたに何があったのか解らないけど凄いものね、女優って・・」
「嬉しいわ、ナンシー。実は私は女優として大きくなったと言うより今回の主人公のマリアを演じて自分が始めて大人になれたといった実感があるわ」
そう言うとアンは目を閉じ控え室いっぱいに送られたバラの香りに身を委ねた。
「十分前です」
呼び出しに来た若いディレクターがアンに声をかけた。
アンは周りの皆を見渡した。誰しもがアンを見つめていた。
「ありがとう」
そう一言だけ言うと勢いよくドアを開け会場へ続く廊下を歩き始めた。