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いい加減歩いた頃だろうか突然クーモが振り向き敬子に話しかけてきた。
「あそこだよ、あの棚の向こうに積んであるんだ」
嬉しそうにクーモは棚を指差し敬子に向かって叫んだ。
(ハア、やっと到着か・・流石に500個分の棚を左右に見て五キロちかくを歩くと大そう疲れる、といった感覚が戻って来るな、これって錯覚かな?)
そう思い敬子はクーモが指差す棚へ向かった。
一足先に到着していたクーモは微動だにする事なくその場に立ち尽くしていた。
「どうしたの?クーモ。」
クーモが立ち尽くしている足元を敬子が見るとそこには本など何も無くただクーモが呆然としているだけだった。
「本が無い、本が、俺がこれまで読んで良いなと思った本が一冊も無くなっている。どうしてなんだ・・・」
クーモの目には悔しさで薄っすらと涙が浮かんでいた。
「クーモ、場所が違うんじゃないの?ここはほとんど同じような景色だしもう少し先の棚の横に積んだんじゃないの?」
余りにも落ち込んでいるクーモに敬子が言葉をかけるとクーモが厳しい表情で敬子に向かって言った。
「絶対にここなんだ、俺は何度も何度も本を読んでは棚とこことの往復を繰り返していたのだから絶対に間違える訳がないんだ」
そうクーモが涙声で敬子に向かって言い切ると遥か棚の先から微かに咽ぶような声で女性らしき笑い声が聞こえてきた。
「フフフフフ」
棚の先からは最初は声を押し殺していた笑い声が馬鹿にしたかのように大きな笑い声に変わって行った。
「ワハハハハッハッハハ」
「この声はリリィだな」
今まで涙声だったクーモの顔が今度は怒りで真っ赤になっていた。
「リリィ?」
「出て来い、リリィ。なぜ俺の本を隠したんだ、返せこの泥棒猫」
「何ですってクーモ、もう一度おっしゃい」
棚の脇から出てきたその女性は、それは美しく金髪の巻き髪で真っ白いパジャマとガウンをまとったその姿は、敬子が知る限りまるで中世のお姫様の様だった。
そのヒステリックな言い方にさすがのクーモも一瞬たじろいだものの自分の一番大事にしていた本を隠されたのでは黙ってはいられない様子でクーモが叫んだ。
「だってそうだろ、俺の大切な本を・・返せ、リリィ」
そのクーもからの言葉を受けてもリリィの態度が怯む様子もなく逆にクーモを睨み付けた。
「あら、ここにある本がクーモの本だなんていったい誰が決めたの?言ってごらんクーモ」
そう言われるとさすがに返す言葉がなくクーモは口を噤んだ。その二人のやり取りを聞いていて横にいた敬子がリリィに言った。
「本棚にある本は自由に読んでかまわないでしょうけど横に積んだ本は誰かが故意に除けた物だって事あなたにだって解るでしょう、その本をあなたがかってにいじって良いなんて事はないわ」
そう言うとリリィが敬子を睨み付けた。
「あなた誰?見かけない顔ね・・」
少し不安そうな顔で、二人のやり取りを聞いていたクーモが横から叫んだ。
「彼女はケイコって名前なんだ、どうやら最近ここに来たようなんだ」
「ふうーん」
「ケイコ、あなたがそこまで言うのなら返してあげでもいいわよ、但し私の言うことを一つ聞いてくれたらね」
「言うこと?」
敬子とクーモはお互いの顔を見合った。
クーモの本を取り返す事だけを考えている敬子はすぐにリリィの顔をにらめ付け聞き返した。
「あなたはいったい私達に何をして欲しいの?」
そう敬子が言うと、リリィの顔は勝ち誇ったように二人に向かって難題を語り始めた。
「私はこの美しさを次の世界まで持って行きたいの、次の世界が自由で巨万の富を得たとしても女として生まれて自分の美しさを誇示出来ないなんて私には考えられないのよ!だから貴方達で私の次の世界にもっとも相応しい人生の一冊を探してもらいたいの」
「あなたに相応しい人生?」
敬子は考えていた。この人は自分では決めきれない自分の人生を一人で探すよりも三人で探したほうが早く見つかるんじゃないかと思っている。
(自分の人生なんて人が探して決められるようなものじゃないわ、でもその一冊が見つからないとクーモの本は返してもらないし、いったいどうしたら良いんだろう?)
「では、もし俺たちがリリィに持ってきた一冊が気に入らなかったらどうするんだ?」
そうクーモがリリィに向かって問いかけるとリリィは嫌味を込めた言い方でクーモに答えた。
「あなたが選んでいた本は永久に見つからないようにこの無数にある本棚の何処かに隠してしまうわ。」
そう言われてクーモの顔は悔しさとも悲しさともつかない表情でリリィを睨み付けていた。
「解ったわ。二人であなたに合う一冊をこれから探してくるからもしあなたがその一冊に納得したら絶対にクーモの本を返してあげてね」
そう敬子がリリィに言うとリリィは、ニヤリとかすかに笑い首を縦に振って答えた。
