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どの位、歩いたのか歩いてきた道を振り返っても、建物を見ても全くといっていい程、何故か時間の感覚だけが出て来ない。
敬子は歩く道すがら少しずつどうしてここに来たのかを考え始めた。
「そう、私は病院のベッドで昏睡状態だったはずだ。」
「だけどなぜ?」
半年前、敬子は突然倒れた。
当初は単なる軽い貧血程度に考えていた。
しかし、夫の隆史が必要以上に検査を進めた事と七五三を前に体調不良でもしお宮参りが出来ないなんて事があっては義母に申し訳が立たないと半ば強引に病院に連れて行かれたのであった。
敬子の検査の結果は思いの外、早く出た。
隆史は病院に呼び出され担当医より病状の説明を受けた。
くどくどと意味も理解出来ないカタカナを並べられ病状を説明する担当医に結局の所どう言った病気なのかをつめ寄り説明を受けた病状は白血病だった・・
検査の結果後、数日して隆史は敬子に病状をハッキリと伝え二人で話し合い入院をする事にした。隆史も敬子の病状を正確には伝えたがそれは初期の白血病と言った説明をしただけで早期治療を施せば早く完治してしまうといった嘘を付いた。
入院後の敬子は検査を繰り返し治療に専念したがそれもこれも全て早く優貴と沙紀のもとえ一刻も早く帰りたい一身だったからだ。
検査を繰り返していた敬子の病状は日に日に悪くなり一年を過ぎた頃には悪化し続け昏睡状態に落ちるまでにはそう時間はかからなかった。
「敬子、敬子」
ベッドの横で静かに声をかける隆史の声に目を開ける敬子の前には自分の母親に抱かれる優貴と義母に抱かれる沙紀がそして周りには見慣れた家族の顔があった。優貴も沙紀も敬子を見つめ今にも眠そうにしていた。
「どうしたの?」
敬子はそう言ったつもりだったが隆史に答える敬子の声はもつれ聞き取る事さえ難しかった。
敬子は心の中で叫んでいた。
(この子達とまだ別れたくない、まだ生きたい隆史、助けて、助けて・・)
そう願う敬子が眠るようにこの世を去ったのは優貴と沙紀が寝て間もなくしてからであった。


