はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ダークホルムの闇の君」についてです。奇想天外な舞台設定に、魅力あふれるキャラクター、そして予想のつかない展開を、どうぞお楽しみください。
「ダークホルムの闇の君」ダイアナ・ウィン・ジョーンズ(東京創元社)
エルフがいて、ドワーフがいて、王国があり、魔術師がいる……そんな異世界は、今やチェズニー氏という、私たちの生きている現実世界の資本家によって、観光地として色々なものを搾取されるようになっていた。定期的に訪れる、現実からの〈巡礼者〉たちは、勇者気取りで、異世界の人間たちを殺し、戦争をし、しまいにいわゆる魔王である〈闇の君〉の城塞で戦って帰還する。そんなチェズニー氏に対し立ち上がることを決意した魔術師大学の総長、ケリーダは、お告げに従い、魔術師大学では落ちこぼれとされていた、ダークを今年の〈闇の君〉に任命する。果たしてチェズニー氏の搾取を止めることはできるのか。
面白かった。一般的なライトノベルと呼ばれる小説によく登場するような世界観を構築しつつも、視点を完全に反転させて、ライトノベルなどなら、転生者、と呼ぶ人々を、異世界からの〈巡礼者〉であり、世界を救うのではなく搾取していく者として描く。その豊かな発想力には脱帽である。
誰が、物語をこんな風に、ことごとく仕組まれたものとして描くだろう。演じる側の苦労に目を向けるなど、到底考えつかない設定だ。強欲なチェズニー氏に振り回される、ダークやその子どもたちの苦労は、見ていられないほどだった。
ところで、ライトノベルを読んでいると、なんとなく先達のライトノベルが作ってきた系統をいかに逸脱するか、ということに労力が割かれているように見える。それはそれで面白いが、結局根底の部分に目新しいものがないのは、少し物足りないと感じることも少なくない。だが、やはりこの「ダークホルムの闇の君」という作品は、他のものとはひと味違った。ぜひライトノベルが好きな方にも、一度読んでいただきたいファンタジーである。
その一方で、私たちもこうやって何かを搾取しているのかな、と思うと不安も芽生えた。勝手な個人の見解に過ぎないが、なんとなく人間たちが今破壊している、自然環境と、搾取されるダークたちの異世界が重なる。色々なことを考えさせてくれる物語だった。
そして、まだダイアナ・ウィン・ジョーンズの作品は、ほとんど読んだことがない。きっと私の好みだろうと思うので、これからもう少し意識を向けるつもりだ。また読みたい作家が増えた。
おわりに
ということで、「ダークホルムの闇の君」についてでした。
さて、次回は、一気に毛色を変えまして、マルクス・アウレリウスの「自省録」についてです。どうぞ、お楽しみに。それではまたお会いしましょう。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!