はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、小川英子さんの「王の祭り」についてです。時は16世紀。当時の世界を支配していた人々に思いを馳せ、いざ時を飛び越えていきましょう!
「王の祭り」小川英子(ゴブリン書房)
いつもぼんやりして周囲から怒られるウィル。彼は、ひょんなことからエリザベス女王の前で演じられる劇の役を任されることになってしまった。仕方なしにその劇に加わったウィルだったが、そこでエリザベス女王暗殺の陰謀に気づく。女王暗殺を防ぐため、夜の森にやって来たウィルは、エリザベス女王と劇団のハムネットという青年と共に、織田信長の支配する日本へと飛ばされてしまった。3人は果たしてイギリスに戻ることができるのか。
一見して、荒唐無稽だな……と思って読み始めたのだが、気づいたときにはその斬新な物語にのめり込んでいた。エリザベス女王と織田信長という、同時代人とはいえかけ離れたところにいた2人を結びつけてしまう想像力、そしてその2人を華麗に出会わせてしまう手腕に感嘆した。2人に性格の共通点があるな、と思ったとしても、おそらくは同時代人で、同じように民衆を支配していたからだ、と結論づけて終わりにしてしまうだろう。それをこのように壮大な物語にまで仕立て上げるのは、なかなかできることではない。
また、本能寺の変で戸惑う京の民衆も印象に残った。私たちはあくまで本能寺の変を、織田信長が明智光秀によって殺されたという歴史上の一出来事という視点でとらえる。だが、その下にはこうやって戸惑い、恐れる人々の姿があったことに気づかされた。時が移るにつれて、支配する人は変わり、歴史は流れていくが、庶民の姿というものはいつの世も普遍的なのかもしれない。喜び、怒り、戸惑い、そして悲しむ。私たちとなんら変わりない人々の姿がそこにあった。歴史上の偉人というのは、どこか人間離れしていて、あまり共感できることが少ないが、そうやって地に足を着けて生きた、歴史に名の残らなかった人々には共感を抱ける。改めてそのことを考えさせてくれる本だった。
ちなみに、この「王の祭り」の挿画は佐竹美保さんだ、というのもなかなか重要だ。上橋菜穂子さんの守り人シリーズや、最近ではハリー・ポッターの新装版も手がけている名だたる画家さんの1人である。それだけでも、この本の魅力の一端が感じ取れるに違いない。
おわりに
ということで、「王の祭り」についてでした。楽しめる作品だったので、ぜひ実際に読んでみてください。シェイクスピアもいつかきちんと読みたいところです。さて、次回は大島真寿美さんの「ピエタ」についてです。ようやく一般文芸ですが、時代物であることに変わりはありません。どうぞお楽しみに。それでは、最後までご覧くださりありがとうございました!