はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続きサトクリフの作品です。ブリテン島が舞台となることの多い彼女にしては珍しく、舞台は砂埃の舞い立つアラビアの地。スコットランドに生まれたトマスは、捕虜になったことをきっかけに、アラビアで生きることを選びます。

 

「血と砂 愛と死のアラビア」ローズマリ・サトクリフ

 スコットランドに生まれ、兵士として故郷を飛び出したトマス。アラビアの地で従軍している際に、捕虜となった彼は、言語も習慣も宗教も、全てが異なる場所で人生を送ることを強いられる。彼のたどった数奇な運命とは。

 

 相変わらずの技倆である。ため息がこぼれそうな美しい情景描写は、これこそサトクリフ、とうならせるものがあった。やはり、彼女の作品はどれも逸品である。

 

 特に今回は、トマスとトゥスンの間にある深い信頼関係に惹かれた。血のつながりも何もないけれど、お互いを親しく兄弟と呼び、心の底から頼り切っている。友情とひとことでくくってしまうにはもったいないほどの絆は、あまりにもまぶしかった。それが結ばれるまでには紆余曲折あったわけだが、だからこその深い絆なのだと思う。この関係は、物語の終盤になって、芯となって生きてくる。それには、感動せずにはいられなかった。

 

 また、これらがほとんど史実である、という点もすごい。圧巻の構成力と、迫真の描写は、作者が本当にそこにいて見てきたかのよう、いや私たちも砂漠の中を行くトマスたちを見送っている気分にさせてくれた。砂嵐の中、馬に乗って駆け去って行く彼らの姿が、まぶたの裏に浮かぶ。

 

 ただ、残念だったのは私の知識の欠如だ。ルネッサンスぐらいまでなら、なんとか塩野七生さんの著作で流れをつかめるようになったのだが、それ以降となると佐藤賢一さんの「ナポレオン」くらいしか読んだことがない。また、この「血と砂」は、舞台がアラビアとなっているため、地名にも馴染みが薄いし、キリスト教と比べるとイスラム教の習慣は聞き慣れないことも多く、それを知っていたらもっと楽しめたのかな、と思うと悔しい。

 

 だが、こうやって興味の対象が際限なく広がっていくのも、歴史がひとつながりであるからこそだ。サトクリフの作品は、総じてそんな感覚を抱かせてくれる。また、歴史の中で生きた人々への肉付けも、サトクリフは本当に上手い。なんと、この「血と砂」の主人公トマスは、実在の人物だというのだ。しかも、この本の中身はほとんど史実に基づいているという。

 

 このことを知って思い出したのは、アラビアのロレンスである。彼についてはこの作品の解説でも触れられていた。もっとも、先ほども書いた通り、私はこの人物が、第一次世界大戦時にアラビア側で戦ったイギリス人、ということしか知らないのだ。彼についても、何かしらの本を読んでみたい。

 

 歴史は広く深く、興味は尽きることがない。そしてまた、その中には多くの人々のドラマがある。現代には残っていないことも、きっとたくさんあるだろう。空想を巡らせながら、これからも歴史を追いかけていきたいと思った。

 

おわりに

 ということで、「血と砂 愛と死のアラビア」についてでした。サトクリフはどれもことごとく面白いですね。まだまだ読んでいない作品もたくさんあるので、楽しみです。一通り読み終わったら、サトクリフの作品を時代順に並べてみたりしてみたいです。

 

 さて、次回は京極夏彦さんの百鬼夜行シリーズについてになるかな、と思います。他にも、ヘロドトスの「歴史」や「プルターク英雄伝」などをじりじりと読み進めておりますので、そのうち上げたいですね。それでは、次回もお楽しみに。最後までご覧くださりありがとうございました!