はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、庵野ゆきさんという作家の「水使いの森」をご紹介します。「馬・車輪・言語」の下巻ももう読み終わったので、この記事を書いたあと、すぐに上げますね。それでは、豊かな自然の中で生きる、特別な力を持った民の声を、聞いてみましょう。
「水使いの森」庵野ゆき(創元推理文庫)
イシヌ王家に生まれた、女の双子、ミイアとアリア。長女のミイアは、〈水使い〉として水を自在に操る才能を持っていた。しかし、玉座を継ぐのは末子であるアリアと決まっている。城に居場所をなくしたミイアが出会ったのは、〈水蜘蛛族〉と呼ばれる一族のタータとその親友であり、〈水蜘蛛族〉の族長のラセルタだった。波乱の中で自分の居場所を探す少女と、ひたむきに世の理を見定めようとする女性が出会い、壮大な物語を紡いでいく。
庵野ゆきさん、という名前を聞いたことのない方は多いだろう。私も、この作品を知ったのは創元社を通してだった。2019年の創元ファンタジイ新人賞で、この作品により、優秀賞を受賞した駆け出しの作家らしい。あらすじを読んでなかなか面白そうだと思い、本屋さんで探したのだが、結構大変だった。まず読みが分からない。あんの? いおりの? 前者が正解らしいが、本屋さんで見たときに、いおりの、の位置にあったような気がする。
それはともかく、本当に面白かった。手に取った自分を褒めたい気分である。選評を見てみれば、井辻朱美さんや乾石智子さんなど、私でもよく知る方々の名前が並んでいた。間違いなく私の功績ではなく、この方々の慧眼に他ならないのだが、私の好みを選び出すのは私なのだから、許されよう。
まず、根幹の設定がしっかりしている。この世界では、丹と呼ばれる力が物質を動かす。比求文字という文字を綴ることによってそれを操るのが、術士と呼ばれる人々だ。そして、〈水蜘蛛族〉はそれに大変優れた一族で、その大きすぎる力のゆえに、森の奥に隠棲している。
これだけでも感心するが、その中で描かれる人間模様もまた外せない。優れた才能を持ちながらも、王家に育った者ゆえの高飛車な感じが否めなかったミイアが、タータたちとふれあうことによって、成長していく様子は胸を打つものがある。また、ハマ—ヌという青年も重要な人物なのだが、ぶっきらぼうな彼が心で何を思っているのかが分かるにつれて、好感を持てるようになった。
本当に、一巻に収めるにはもったいない作品である。続編を切に期待したいところだ。
ちなみに、選評はさすが、とうなずいてしまう説得力だった。応募当時は「門のある島」というタイトルだったらしいが、明らかに「水使いの森」の方がこの作品の持つ雰囲気を醸し出していて良い。「門のある島」と言われると、なんとなくホラー感が出てくるのは、小野不由美さんのせいだろうか。
カバーイラストも、作品の雰囲気によく合っていると思った。禅之助さん、とおっしゃるらしい。少し山田章博さんに似たものを感じる。
おわりに
というわけで「水使いの森」でした。創元推理文庫のファンタジーって、面白いんですよね……。乾石智子さんが好みです。
さて、次回はお知らせしたとおり、「馬・車輪・言語」の下巻についてです。すぐに上げますよ〜 ぜひ次もご覧くださいね。それでは、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!