はじめに
みなさんこんにちは。本野鳥子です。今回は、「馬・車輪・言語」という本の上巻をご紹介します。細分化された学問を再び統合することによって、印欧祖語の起源を突き止めようとする試みが述べられています。それではお楽しみください。
「馬・車輪・言語 文明はどこで誕生したのか 上」
現在、印欧祖語から発達した言語は、その名の通り、インドからヨーロッパまで幅広く分布しており、世界で一番話者の多い語族である。もともと印欧祖語を話していた人々をアーリア人と呼び、これがナショナリズムに利用されてきた。だが、筆者はそれに疑問を呈し、政治利用ではなく、純粋な学問として印欧祖語の使われていた地域を突き止めようと試みる。
似た装丁で隣に並んでいたので、「銃・病原菌・鉄」の作者のジャレド・ダイアモンドかと思っていたら、違ってびっくりした。だが、これもまた現代では分かれた学問を、それぞれにフル活用することで人類の歴史を探る、という観点では共通している。
専門用語や固有名詞が多くて、専門的すぎるきらいはあるが、楽しめる。
年月を経て、変化していく言語の研究過程を眺めるにつれ、それらが生きものであるかのような錯覚を覚えた。実体がなく、また変化も緩慢なため、短い生の人間が認識することは難しいが、こうやって変化を羅列されると、言語もまた変わりうる存在であることが伝わってくる。言語学というもののおもしろさの一端に触れた気がした。
また、墓から出土する馬の骨から、ハミ跡を探すことで、騎乗されていたか否かを調べるのが、とても興味深かった。一見関係ないように感じられる、動物学と歴史考古学だが、こうやって研究成果を提示されると、応用が利くことがよく分かる。学問は、始まってから時間が経ち、現在では細かく分かれているからこそ、この本の筆者のようにその間を橋渡しする存在は必要であると思う。
ところで、上橋菜穂子さんの作品、「獣の奏者」は、王獣と闘蛇という生きものが存在する世界で、彼らの秘密を探るエリンという女性が主人公になっている。彼女は、生物学はもちろんのこと、古代の記録や法律の変遷などを手がかりに、王獣や闘蛇の生態の研究を進めていくのだが、この「馬・車輪・言語」の筆者の姿勢に、彼女の姿が重なった。こうやって真摯に学問と向き合い、人間の秘密、動物の秘密を探ろうとする人々には、敬服する。
たくさんの謎を秘めている、歴史。それへの興味が、さらに高まった一冊だった。
おわりに
ということで、「馬・車輪・言語」の上巻をご紹介させていただきました。歴史ってやっぱり面白いですよね。
さて、次回は、この本の下巻になることと思います。結構専門書であることがたたって読むのが遅いので、田中芳樹さんの「マヴァール年代記」も平行して読み始めました。もしかしたらそちらの方が早く読み終わるかも知れません。
それでは、またお会いしましょう。最後までご覧くださり、ありがとうございました!