はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回と同じくサトクリフの、「ヴァイキングの誓い」を読みたいと思います。西ローマが滅び、ビザンティン帝国がその勢力を拡大しようと心血を注いでいた時代に、さあ参りましょう!

 

「ヴァイキングの誓い」ローズマリー・サトクリフ(ほるぷ出版)

 牛飼いとして一生を過ごすはずだったジェスティンは、ある日嵐の中でさらわれて、奴隷となってしまう。アイルランドはダブリンの奴隷市場で、ジェスティンを買い上げたのはトーモッドというヴァイキングの一味だった。彼に奴隷から解放され、彼の故郷にも共に帰ることになる。しかし、トーモッドの父は、彼の親しい友人によって殺されていた。凄絶な復讐劇が、今始まる。

 

 今までは、サクソン人に対抗するローマ人という観点からの作品が多かっただけに、ヴァイキングとして戦う青年という切り口はなかなか新鮮に感じられた。改めて正義と悪をひとくくりにすることの愚かさが分かる。

 

 また、北欧神話を信仰する人々と、キリスト教のぶつかり合いも面白い。長年の信仰を持っていたヴァイキングたちが、ビザンティン帝国ではキリスト教の神にも祈りを捧げる。ジェスティン自身はキリスト教徒として育ってきたものの、相棒のトーモッドは北欧神話を信じている。だが、二人の間にそんなことを関係ない。血を混じり合わせる儀式によって、義兄弟とされた二人は、友情さえも越えた何かで結びつけられていたのだと感じた。

 

 前回少しご紹介した、原書房から刊行されている「神話伝説図鑑」は、今回も大変参考になった。作中に出てくる神の名前を気まぐれに引いては眺めて、実に面白い。いつまでも見ていられる図鑑である。

 

 ここからはネタバレがあるので、これから読もうと思っている方は注意してご覧いただきたい。

 

 仇アンナスとの戦いによって、命を落としたトーモッド。アーンナスもまた受けた傷によって死んだと思われていたが、トーモッドを失ったときにジェスティン自身も負傷し、ヴァイキングとしてビザンティン帝国の兵役に従事することは不可能になっていた。職を失ったジェスティンは、以前命を救った少女、アレクシアを頼って、彼女の父であり、医者のディミトリアデスの助手として働くこととなる。そこに現れたのがアーンナス。彼は、以前にトーモッドから受けた傷により、肺炎に侵され、短い命だった。

 

 アーンナスを殺そうと思えば、ジェスティンはいくらでも殺せたのである。しかし、彼はそれを選ばなかった。アーンナスに治療を施し、命を救おうと試みる。彼の決断は、正否に関係なく、清々しいものだったように私には感じられた。敵として長年憎み、病によって死にゆく相手に対し、ジェスティンはこう言う。

「トーモッドに会ったら、わたしのことを伝えてくれ。そして、こういってくれ。老いた二頭の父オオカミはヴァルハラで高く頭をあげて席についている。復讐は名誉という花を咲かせて終わった。かれらの息子たちは、父の名誉のために立派な働きをしたと!」

 彼の達した境地が、いっぺんに現れているようにすら感じられる、潔い台詞だ。そうして、読み終わったあともまた、どこか心の中に一陣の風が吹き抜けていったように感じられた。

 

 ちなみに、ヴァルハラというのは、北欧神話において英雄のみがいける天国のような存在らしい。それが現世にあるかどうかはともかく、このような作品や、北欧神話が信仰されている銀英伝においては、実在してほしいと願わずにはいられないのが、人の情というものかもしれない。

 

おわりに

 というわけで、今度こそ、サトクリフは一旦おしまいです。サトクリフは全部読みたいですね。いくつか未訳本もあるみたいなので、ハリー・ポッターなどなど読み終わったら、挑戦してみたいです。

 

 次回は、塩野七生さんの「わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡」を読みたいと思います。お楽しみに。最後までご覧いただき、ありがとうございました!