はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、ローズマリ・サトクリフの「太陽の戦士」ををご紹介します。青銅器時代のブリテン島に生きた一人の少年に寄り添い、彼と共にその世界を味わうことにしましょう。
「太陽の戦士」ローズマリ・サトクリフ(岩波少年文庫)
生まれつき、右腕が使えないドレム。ある晩、羊飼いたちのところから戻ってきたドレムは、屋根裏から飛び降りていたずらをしかけようとしていた。そこで彼は、家族がドレムは戦士になれないだろう、と話しているのを聞いてしまう。戦士として認められるためには、オオカミを自ら仕留めることが必要だが、片腕しか使えないドレムには厳しいだろう、と考えているのだ。その日以来、ドレムは決意する、絶対に戦士の象徴である緋色をまとう、と。
分断というのは、人の世界からなくせないものだ。だが、溝を一気に埋めることは難しくとも、一人一人が少しずつ歩み寄っていけば、距離を詰めていくことができる。そのことを、改めて感じる物語だった。族長の息子であるボトリックスとドレムの友情は、たとえ分かたれても固く結ばれている。その力は、ついに一族全体をも巻き込む力となるのだ。
「太陽の戦士」は私の中で、特別な光彩を放っている。なぜなら、この本は私が初めて読んだサトクリフの本だからだ。ではなぜ、今回は最初に読まなかったのか、と問われれば、私は肩をすくめて答えるしかない。だって、本棚の一番右側にあったのだもの。
サトクリフの並んでいるところには、一番左からローマ・ブリテン四部作、運命の騎士、太陽の戦士がある。最後にもう一冊、これは次回紹介するつもりの「落日の剣」だ。そして、文庫である「ケルトの白馬/ケルトとローマの息子」はその一団とは別のところに並んでいる。
ではなぜ、運命の騎士を読む前に、「ケルトの白馬~」を読まなかったのか。それは私にも分からない。ただただ気のおもむくままに、手を伸ばしてしまった。さすがにローマ・ブリテン四部作は順番通りに読んだが、こうやって気まぐれに読みあさるのも、悪くない、と思う。ともかく、その全てが、生き生きとした筆致で作品世界の中に私を導いてくれたことは、言うまでもないだろう。
少々話が脱線しすぎたが、つまりその中で、一番最初に読んだのは「太陽の戦士」だった。かなり昔のことなので、あまり覚えていないが、上橋菜穂子さんがきっかけだったのは間違いない。
おそらくは、今回のほうが強い印象を受けたことだと思う。塩野七生さんの「ローマ人の物語」から始まる、ヨーロッパの歴史に最初よりも多少は造詣が深くなっているからだ。今回は、思わぬところで、見たことのある名前に出会う、ということが多かった。それは、世界の果てで知っている人に会うような感覚かもしれない。それまでは、たいして親しくなかった人でも、全く会うと思わなかったところで出会ってしまえば、親近感を抱くのは自然なことだろう。そんな感覚を、サトクリフを読む中で抱いた。
おわりに
というわけで、サトクリフの「太陽の戦士」についてでした。次回は、このサトクリフについての記事を最終回になると思います。「真実のアーサー王の物語 落日の剣」の上巻についてです。実はまだこの作品、読んだことがなくて、ずっと本棚の中で眠っているのですが、ついに手をつけるときが来たようです。
それでは、今回はここまでにしましょう。最後までご覧いただき、ありがとうございました!