はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、前回の続きで、小野不由美さんの「屍鬼」についてです。どうぞ、お楽しみください。

 

「屍鬼 下巻」小野不由美(新潮社)

 敏夫と静信はついに決裂し、村の屍鬼は増えていく一方となる。敏夫は、村の崩壊を防げるのか。最初にまざまざと見せつけられた火事の光景が、いかにしてもたらされたのかを追って、ページを繰る手も自然と速くなる。

 

 最初は、とにかく屍鬼が怖かった。夜などにこの本を読むと、今にも窓をこつこつと叩く音がしそうで、真冬のように布団にきゅっとくるまって、重い単行本をめくっていった。だが、人も家畜を食べて生きている、それと同じように、屍鬼は人を糧にするのだと言われれば、そうか、と納得してしまう。屍鬼という存在の切なさが心に迫ってきて、悲しくてたまらなくなった。読み終わった今でも、その感触が消えない。人を食らわねば生きていけない、ということの残酷さを、嫌というほど突きつけられた。

 

 人の世界の理不尽さを、諦観と愛情を持って教えられたような、そんな風にも思える。世界は、こんなに理不尽で、でも愛おしいのだ。

 

 以下は、ネタバレとなるので、未読の方はご注意いただきたい。

 

 敏夫の指導により、屍鬼の退治を始めた村人たちの残酷さは、屍鬼たち自身に勝るとも劣らず、寒気がした。抑圧された人びとは、こんなにも無意識に、無慈悲になれるのかと思うと、背筋がぞっとする。

 

 個人的には、夏野が好きだった。なんとなく、彼の姿が、私の好きな、荻原規子さんのレッドデータガールに登場する深行と被って見えたのもある。だから、彼には死んでほしくなかったし、他の人を犠牲にしてでも「起き上が」ってほしかったのだ。そう願ってしまう自分が怖くなってしまう。

 

 これは完全に余談だが、十二国記についての荻原規子さんのコメントが、去年の十二国記の新刊発売の際に、書評雑誌ダ・ヴィンチに掲載されていた。意外と影響を受けていることもあるのかもしれない。

 

 上巻の感想にも書いたが、やはり阿部智里さんの「玉依姫」という作品の設定が思い出された。

 

 衝撃が大きすぎて、なんだか頭の芯がしびれているようにも感じる。あまり長々と感想を書き綴ることはできそうにないので、短いが今回はこの辺りで、終わりにさせていただこう。

 

おわりに

 というわけで、「屍鬼」についてでした。次回は、氷と炎の歌に戻ります、多分。また予告を裏切ることになるかもしれませんが、笑ってまた次も読んでいただけると幸いです。最後までご覧いただき、ありがとうございました!