はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、「氷と炎の歌」シリーズについてです。それでは、馬が駆ける音の響く大地で繰り広げられる歴史劇を、じっくりと眺めることにしましょう!
「氷と炎の歌1 七王国の玉座 下」ジョージ・R・R・マーティン(早川書房)
物語は一挙に動き出す。ロバート王の死、エダードの〈王の手〉からの罷免。ラニスター一門が、〈鉄の玉座〉を支配する。とうとう戦いが幕を開けた。
水面下で進んでいたものごとが、一気に水面に立ち現れていくような感触を味わった。スターク家とラニスター家の間の溝は、ますます広く、深くなっていく。それが明らかになっていき、ついには大地を血が覆う。その歴史の奔流に乗せられて、刻一刻と変化する事態を追いかけるので精一杯だった。スターク対ラニスター、バラシオン対ターガリエン。そして、〈壁〉の向こうからは〈異形〉の者たちが迫る。各地でどんどん深刻さを増していく様々な事件が、ひとつになったとき、いったい世界に何が起こるのか。その行方が気になって仕方がない。
ひとつ、印象に残ったところがある。宦官のヴァリスが、囚われの身となったエダードと話す場面だ。
「もし、これが正しいとすれば、エダード公、教えてください……あなたがた大貴族が王位争奪戦を演ずるとき、もっとも被害を受けるのはつねに無辜の民であるのはなぜですか?」
と、彼は言うのである。ヴァリスは、エダードの立場から見れば、信用ならないし、あまりよい印象を読者も抱けないだろう。しかし、彼がこの場面で言っていることは、至極真っ当なことで、大貴族たちが争う中で、犠牲となった数々の民のことを鑑みるきっかけにもなる言葉だ。私も、この本の骨子となっている貴族間の争いに目を取られ、それに意識を向けていた。その中で無理を強いられる民のことを、忘れがちになっていたのだ。しかし、そんな自分に気づかされ、背筋が寒くなる、そんな言葉だと思った。
ここで、「氷と炎の歌」シリーズの第一巻「七王国の玉座」が終わる。次は何が待ちかまえているのか、非常に楽しみだ。
おわりに
というわけで、「氷と炎の歌1 七王国の玉座」は読了です。次回は、「氷と炎の歌2 王狼たちの戦旗」になるかと思います。並行して阿部謹也さんの「中世を旅する人々」も読み進めているので、そちらも読み終わったら感想を書きます。それでは、また次回! 最後までお読みくださり、ありがとうございました。