長らくお待たせしました、先週再開宣言をした小説の続きですっ!
先週の記事を読んでいない方は こちら からお願いします
新規読者さまは最初から読んでくれると嬉しいです
ひとつ前の話を復習用にもう一回貼りますね 26話「馬鹿」
以下本編
27
「そういえばさ、廃病院――に限らず病院という施設になんで霊がいっぱいいるのか、琉ちゃん知ってる?」
木々が色を失い、乾いた冷たい風が山を撫でる――いつのまにか《コロニー》に冬の兆しが訪れたことを感じられるような気候のある日、いつもの岩場で雑談をしていたら綾さんが何の前触れも無く聞いてきた。
「あー、たしかによく聞きますよね、病院には出るって。でも病院っていうのは命に関わる仕事の場だし、亡くなる人も多いんだからそんなにおかしいことじゃないんじゃ……?」
「ん、まあそんなんだけどねぇ。でもそれじゃ足りないよ、琉ちゃんくん。」
ちっちっと顔の前で指を振る綾さん。ちゃんくんって何だ。というか動作が古臭い。まあ、少し前の時代を生きた人だから、それも仕方ないのだけれど。
「琉ちゃんももう知ってるとは思うけど、死んだときその場に強い磁場が発生してないと霊にはなれないんだよ。っていうことは、病院には磁場が発生しやすいってことでしょ?」
「まあ、そうなりますね」
「で、磁場が発生しやすいから、そこに留まっていた霊は《地縛》してしまう。だから病院には霊がいっぱい。」
「へぇー……綾さんって意外と博学――」
「らしいよ。」
「……。」
得意げに話していた割には伝聞だった。
「でもおもしろいよね、そんなに磁場が強いなら、精密な医療機器とかが壊れちゃいそうなイメージなのにさ。」
「そう言われればたしかに……。逆に医療機器が多いせいで、磁場が発生してたり。」
「それはありえるわね。……ま、どうでもいいんだけどさ。」
言って綾さんは髪の毛をいじり始めた。自分から話題を振っておいて、もう興味はないらしい。なんて人だろう。
「病院、か……」
そういえば先日ハルカちゃんと街に下りて実家に行ったとき、母さんが言ってたっけ。ユウちゃんがまだ病室から出られないらしい、って。無理もない、あの子は小熊とはいえ、クキノワグマの一撃をその幼い体躯(たいく)に喰らったのだ、生きているだけでも奇跡だ。
そう、僕をかばってあの子は――。
ガスッ
「いてっ」
ふくらはぎを蹴られた。霊に触れる霊はただひとり。もちろん蹴ったのは……
「な、なに? ハルカちゃん……」
さっきまで僕と綾さんの会話に交わらず一人黙々と石を積んで遊んでいたハルカちゃんが、こちらに顔を向けて唇を尖らせている。目を閉じていたなら『催促』だったのだが、うらめしそうな表情で睨んできているから、それはお門違いなんだろうな。
「むぅー。琉にい、また遠くを見てる。」
「……『また』?」
「うん。」
しかめっ面のままハルカちゃんがうなずく。
「時々あるよ、何かを懐かしんでるように空の向こうに目を向けてること。そういうとき琉にいは……む、むかし仲良かった女の子のことを考えてるって……」
歯切れ悪く話しながら、ハルカちゃんはちらっと目線を僕の横に向ける。
「……。」
どうやら、綾さんが『吹き込んだ』らしい。口笛を吹きながら目線を泳がせている。
「琉にい、ほんと?」
「え? えー…まあ、うん……そうかもしれない。」
「……その子のこと、好きだったの?」
「っ……うん、きっとそうだった。」
「ねえ、どんな子? どんな子だったのっ?」
「どんな、ね……いろいろあって、はっきりとは覚えてないんだ。交わした会話は鮮明に残ってるのに、あの子のことを思い出そうとすると、脳が嫌がるんだ。……それでも覚えているのは、あの子はハルカちゃんと同じように、かわいい子だったってこと。」
「私、と同じ……か、かわ……」
ハルカちゃんがなぜか頬を赤くしてもごもごしゃべる。
「あと、ハルカちゃんと同じように髪が長かった。けど、もっと漆黒のような黒色で……それからハルカちゃんよりもちょっと背が高くて、ハルカちゃんみたいに――」
「琉ちゃん、女性を『~みたい』とか、喩(たと)えたり比べたりするのは失礼。」
「……。」
だんまりを決め込んでいたと思った綾さんが、余計なところで口を挟んできた。
「ていうか琉ちゃんはいつまでその子に縛られてんのよ、男の子でしょ、もう現実を見なさい、現実を。」
「現実って……」
「せめて、ハルの前で感傷に浸るのはやめることね。」
「そうだよそうだよ、琉にいのばかっ。この前は『この手は離さない』、とか言ってくれたのに、もう忘れてるっ」
「は、はは……」
女性というのはなんでこう、二人以上になると強さを発揮するのだろう。あ、向こうから誰かが走ってくる。
ああ、《ホーム》の管理人、姫華さんだ。彼女が加わったら僕対女性三人だ。うへぇ、たまったもんじゃないな。
「琉也くん、ハルカちゃん、綾ちゃんっ」
駆けつけてきた姫華さんは、顔色が悪かった。幽霊なのに。いや、問題はそこではなく、普段ずっと《ホーム》にいるおっとり系のこの女性が、《ホーム》を離れて、しかも血相を変えて息を切らしながら走ってきているということのほうだ。
どうやら何か深刻な事態らしかった。
「どうしたんですか? 姫華さんがそんなに慌てて……。」
「はあ、はあ、よく聞いて、大変なの。」
「?」
一拍間を置き、そして姫華さんは言った。
「《ホーム》が、取り壊されることになったの。」
TO BE CONTINUED