前回から1週間。小説続きです。
1週間に1話書いたとしても、予定では終わるのは・・・いえ、いいです。読者のこともわからないしクライアントでもないし、気ままに書きます。
新規読者さまがいらっしゃいましたら、まとめページより1話から読んでいただけると嬉しいです^^
パソコンがおすすめですよ。
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22
――おぼろげに記憶に残る彼女の顔は悲しそうで、それでもいつもと同じように、笑っていた。
「またね、琉也くん。きっと……きっとまた会えるから――」
「だめだ、ユウ――!」
数十分前。
自由時間をつかって僕とユウは二人で、森の奥を散策していた。
「ユウちゃん、大丈夫?」
その途中、急斜面に気づかずに滑り落ちてしまい、その拍子にユウが脚をすりむいてしまった。
「うん、ちょっとひりひりするけど。……ごめんね、ハンカチ」
応急処置で傷口に巻いた僕のハンカチが赤くにじむのを見て、申し訳なさそうにするユウ。
「いいよいいよ。それより……歩くのつらいだろうから、僕が負ぶってこうか?」
「え……えぇっ!?」
「あっ、そっかユウちゃん女の子だから……そういうの、嫌?」
気を利かせたつもりが、逆にデリカシーないこと言ってしまったな、と思う。
「う、ううん。……いいの?」
それでもユウは遠慮がちになりながらも、『お願いします』の姿勢だった。
「うん。ほら、乗って。」
しゃがんで、背中を差し出す。
「……じゃあ」
ユウがためらいながらもゆっくり自分に体を預けてくるのを感じながら、好きになってしまった女の子の、ふと香ったいいにおいと息遣いにくらっとした。
感じる早い鼓動が、自分のものかユウのものかわからない。
「……ありがと。琉也くんは優しいね。私……」
パキキッ。
とその時、枝を踏む音がした。
よかった、どこかのチーフか子どもに会えたかもしれない。
そう思って振り向き、
「――……!」
琉也は呆然とした。
そこにいたのは大人でも子どもでも――以前に人間ですらない。
熊だった。
自分と同じくらいの大きさで、全身黒いが胸部だけに白い模様がある――ツキノワグマ。
「あ……あ……」
声が出ない。足がすくむ。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
ぎゅっ
「っ!……ユ……ユウ、ちゃん。」
肩を掴まれた感触で我に返り、どうにか声をしぼり出す。そうだ、このコだけでも……。
「に、逃げて」
「えっ」
「逃げて。ゆっくり、後ずさりしながらね。クマは背中を向けて走ると、追いかけてくる……らしいから」
僕らにじわじわと近寄るクマを睨み返す自分の足は、音楽会の本番に全校生徒の前で舞台に立ったとき以上にがくがくと震えていたが、せいいっぱいの言葉を口にする。
ユウを守りたい想いのおかげで、少しでも冷静でいられた。
「で、でも……。きゃあっ!?」
クマが襲い掛かってきたので、琉也はくるりとユウの方を向き、その体を抱きかかえる。
「うあっ!く……!」
鈍い衝撃。ユウを抱いたまま、琉也がごろごろと転がる。
「り、琉也くん!?」
「っ……う……!」
クマが、琉也の背にその爪跡を刻んだ、思い出すのも嫌な焼きつくような感覚。
樹皮を剥ぐほどの力だ、かろうじて意識は保てたが、痛くないわけがない。
「に、逃げて!君が……ユウが怪我するのなんて嫌だから!」
苦痛に耐えながら、恐怖に全身が震えながら、背中からの出血を感じながら、涙の滲んだ目で、再び黒い襲撃者の方を向く。
クマは最初の一撃だけで、今は攻撃してくる様子はなく、じっとこちらを伺っている。
「っ……琉也くんのばかっ!怪我してほしくないって、そんなの……そんなの私も一緒だよ!」
「!」
「……ねえ、琉也くん」
ユウは叫んだかと思うと、今度は一転、静かな口調で話しかけてきた。
「初めて会ったとき、一緒に遊んでくれて嬉しかった。」
「ユウ……ちゃん……?」
クマの襲撃を受けているこの状況で、ユウが出会ったときのことを語り始める。その意図が、琉也にはわからなかった。
「夏休みが明けて学校はじまったときね、友達と久々に会えたのに、なんか物足りなさを感じたんだ。学校が、なんだかあまり楽しくなかった。……きっと寂しかったの。大好きなひとに、会えないことが。」
様子見をしているクマしか目に入らない僕の背後で話すユウの言葉はどこか大人びた感じがして、それでいて少女のように純粋で……。
「また会えて、遊べて、嬉しかった。顔見たときに、やっぱり私この人が……琉也くんのことが好きなんだって思えた。」
「――!?」
肩を握るユウの手に一瞬力が入ったかと思うと、首裏に柔らかくくすぐったい感触。これはユウの――
思考が停止した僕の耳元で、ユウが囁いた。
「クマさん、走ったら追いかけてくるんでしょ?だったら私、琉也くんを生かすために――」
「ユ、ユウちゃん、何を……」
「会いたいって思ってたら今年もまた会えた。運命だよね。だから琉也くん、きっと……きっとまた会えるから……。またねっ」
そう言うとユウは、全速で走り出した。
「だめだ、ユウ――!」
その習性のために、クマは血だらけの僕の横を通り抜け、ユウを追いかけて駆けてゆく。
「ユウ……ユウううううううううううっ!」
すでに体は激痛で動かせず、僕はただ、弱々しい声で叫ぶしかなかった。
クマが、ユウに追いつく。追いつき、その強靭な前足を振り上げて――
そこからの記憶はない。
僕は、意識を失った。
TO BE CONTINUED