かすかに、音が聞こえた。





彼女が来たんだな、と認識する。






じっとドアのほうを見つめていると、






「やっぱりお前か」





案の定、彼女が姿を表した。






「(久しぶり)」




そう言っているようだ。





推測だ。




彼女の言語を、オレは話せないから。





「なんでまた来たんだよ」






「(……私、そろそろ故郷へ帰らないといけないから…)」





問いには答えず、彼女はオレの腕に密着してきた。





「……!」








儚く、今にも壊れてしまいそうな唇が、軽く触れる感触。くすぐったい。







「(……ちょっとずつだけど、みんなの優しさに、私たくさん元気をもらったわ。もちろん、あなたにも…。ありがと。でも、今夜でお別れね…)」





実際は刹那の間だったのかもしれないが、時間はとても長く感じた。







「(そろそろいかなきゃ…。さよならっ)」




「あっ」






密かに迫っていたオレの手から逃げるように、


彼女は去っていってしまった。








オレたちは、織姫と彦星のような関係ではいられない。







彼女が去り際、オレの腕に跡(のこ)していったのは、涙か、よだれか、はたまた別のものか…。










数分後、痒くなってきた。








蚊のばかやろう。