3月22日(木)曇り

映画・マーガレットサッチャー(鉄の女の涙)は思っていたよりずっと素晴らしい映画だった!

先週だったか、主演のメリル・ストリープが「徹子の部屋」に登場した。
通訳は戸田奈津子さん。この映画の字幕担当でもある人。
女優、メリル・ストリープは、60歳を過ぎて益々、美しく、チャーミングでエレガントで、
誰もが認める映画界のトップスター、すばらしい女優さん。
その彼女が、英国首相サッチャーを演じた。
息子からも「とてもいい映画だったよ」とメールが来ていたので、母が施設に行っている間に観てきた。

背格好、しぐさ、ヘアスタイル、演説の口調、信念の強さ、気品、これまでテレビで見てきた実物のサッチャーを見ているようだった。
封建制の強いイギリスの政界へ、奇異の目で見られながらも進出し、頂点まで上り詰め、国難を乗り越えてきた現役時代であったが、引退してからは過去を振り返る日々。

忍び寄る老いとの闘いは、悲壮で観るものの胸を突く。
とても繊細な人だということがわかる。こんな繊細な人が、政治の世界を歩めば、晩年はきっと精神的にバランスを崩すだろうと思わずにはいられない。
フォークランド戦争への参戦と勝利、IRAのテロ行為、イギリス経済不況の打開に際しての決断など、困難続きの中での自分の判断は正しかったのか、犠牲者を出した事への悔恨などかつての血なまぐさい暴動の映像が何度も流れ、政治家としての自分の苦境が引退後も走馬灯のように現れて彼女を苦しめたことがわかる。

どんな華やかな人生を送った人でも避けて通れない道をサッチャーもまた歩むことになった。
自分では貢献したと信じても、引退すれば「もう忘れられ、ゴミのように捨てられるさ」と言ったサッチャーの夫の言葉も、また真実である。
現役時代には、政策に関して激論し、悩んだ末に、信念を通し、誹謗中傷にも耐えて、その都度 決断を下してきた政治家としての彼女も、現場を離れたら「元首相」の栄光は、過去のモノとなる。
過去と現実の間をさまよい、周囲からは認知症の老人として扱われる。
やや腰の曲がった、たどたどしい歩き方、表情、セリフには、心の拠り所を失って、家族への愛情と思い出を求め、彷徨う気持ちが いかにもはかなく切なく現れて、思わずこちらが涙してしまう。

愛する夫のトランクに着替えを詰めて夫を見送る彼女は、夫が靴を履いていない事に気が付く。
「あなた、靴を履いていないわよ、靴くらい 履いていきなさいよ」と声をかけるが、夫はそのまま部屋を出て行く。
「あなた、行かないで、私を一人ぼっちにしhないで!」と呼び止めるが、
夫は「僕がいなくても君はいつも1人でやってきたじゃないか、これからだって1人でやっていけるよ!」と言い残して廊下の先の光の中に消えていく。
彼が去っていく幻影を負う彼女の不安と寂しさが全身に溢れている。
とても切ない場面であった。
幻影であることに 気が付いた彼女は、自分が置かれた現実に気づき、我に返ったシーンで映画は終わる。
これが映画であることを忘れるほど映画に入り込んでしまう。
誰が誰を演じているかということよりも、1人の女性の真摯な生き方に心打たれたという思いである。