こんにちは、リブラです。今回は、「ヒロインの旅」の解説です。

 

 

 

「ヒロインの旅」第5章「通過儀礼と女神への降下

・イナンナの冥界下り

 

シュメール神話の天と地の女神イナンナは地底にある冥界に行くことを思い立ちました。イナンナは頭飾りとラピスラズリの首飾り、卵形のビーズや胸飾り、金の指輪に豪華な衣装、手にはラピスラズリの竿尺を持って出かけました。

 

冥界の門番に訪問の理由を問われると「姉エレシュキガルの夫の葬儀に献酒したいのです」とイナンナは答えました。

それを伝え聞いた冥界の女神エレシュキガルは「中に入りたければ、皆のように1つずつ門をくぐって来なさい」と命じました。

 

最初の門でイナンナは頭飾りを取られました。それに抗議すると「これは冥界の掟です」と言われました。

第2の門ではラピスラズリの首飾りを取られ、第3の門は卵形のビーズが、第4の門では胸飾りが、第5の門では金の指輪が、第6の門ではラピスラズリの竿尺が奪われました。

 

すべての門をくぐり抜けて王の部屋に入ったイナンナは、姉のエレシュキガルを押しのけて玉座に座りました。

それに怒ったエレシュキガルは7人の冥府の裁判官たちと共に叫んでイナンナを石のように固め、扉の釘にぶら下げました。

 

地上で三日三晩待っていたイナンナの従者ニンシュブルは、主人の危機を察知して神々に助けを求めました。それに応えて父神エンキは、右手と左手の爪垢からクルガラ(泣き女)とガラトゥル(神官)を作り、生命の草と生命の水を持たせて冥界に送りました。

 

小さな身体のクルガラ(泣き女)とガラトゥル(神官)は冥界の扉を難なくすり抜けられました。そして、「胸が苦しい!お腹が苦しい!」と伏して泣いている冥界の女神エレシュキガルの傍らに寄り添い、「ああ、胸が、お腹が苦しいのですね?」と言って一緒に泣き始めました。

 

エレシュキガルは驚いて顔を上げました。こんなふうに同情してくれる人は、今まで誰もいなかったからです。

それに感謝を感じたエレシュキガルは「あなた方の願いを何でも叶えてあげましょう」と言いました。

 

クルガラ(泣き女)とガラトゥル(神官)は、「扉に掛かっている(イナンナの)亡骸をください」と願い出ました。

エレシュキガルが亡骸を差し出すと、二人は生命の草と水をその亡骸にふりかけてイナンナを生き返らせました。

 

ただちにイナンナは冥界を出ようと門に向かうと、「ここを出ていくなら身代わりをよこしなさい」と命じられました。

冥界からイナンナについてきたガルラ霊たちは、「この女を身代りに差し出しなさい」と地上で待っていた従者のニンシュブルを指さしました。

 

しかし、イナンナはそれを拒否して他の身代わりを探していると、妻の死を悲しむこともなく宮殿の玉座で栄華を楽しむ夫ドゥムジの姿が目に止まりました。イナンナは「この男を身代わりに連れていって」とガルラ霊たちに夫ドゥムジを差し出しました。

 

助けを乞うドゥムジを冥界送りにしてしまい、イナンナは髪をかきむしって悲しみました。

それを見かねたドゥムジの姉が身代わりを申し出たので、ドゥムジが冥界で過ごすのは1年の半分だけになりました。

 

ドゥムジが冥界に入る期間は天と地の女神イナンナが悲しむので、野は枯れ世界は冷え込みます。

ドゥムジが地上に戻るとイナンナは夫婦共に過ごせる喜びに湧き、野に花が咲き世界は蘇ります。

 

「イナンナの冥界下り」のお話は、イナンナを顕在意識(外側の社会的な世界中心の意識)とエレシュキガルを潜在意識(内面の世界中心の意識)として眺めてみると、「女性の通過儀礼」の超え方を表しているのがわかります。

 

意識できる顕在意識の象徴であるイナンナは、<天と地の女神>で<頭飾りとラピスラズリの首飾り、卵形のビーズや胸飾り、金の指輪に豪華な衣装、手にはラピスラズリの竿尺>を所有し、<忠実な従者>や<愛する夫>がいます。

 

そんな恵まれた世界を持ちながら、イナンナはなぜか自分のテリトリーではない冥界下りを思いつくのです。

何かが足りない。それは地上にはない。冥界に探しに行かないと見つけられない、という思いに駆られたのでしょう。

 

わたしたちが物質的に恵まれた環境にいても、なぜか心が満たされないと感じるのと同様の感覚を持ったのでしょう。

 

物語の中で「義兄の葬儀の献酒に」と冥界の訪問の理由を告げますが、イナンナが冥界にたどり着いて最初にしたことは姉であり冥界の女王であるエレシュキガルの玉座を奪うことでした。

 

この行為は何を意味するかというと、顕在意識(意識の15%を占める)の自分が潜在意識(意識の80%を占める)の自分をコントロールしようとしたのです。

 

しかし、そのもくろみはあえなく失敗し、イナンナは殺されてしまいます。

地上では豊かさも美しさも愛もなんでも所有できたイナンナですが、冥界の6つの門をくぐり抜けたときには何も持つことを許されず、無力に冥界の掟に従うしかありません。

 

冥界はエレシュキガルのテリトリーです。エレシュキガルのご機嫌がすべてを握っているのです。

 

わたしたちの顕在意識(意識できる自分)と潜在意識(無意識の自分)も、イナンナとエレシュキガルのような関係です。

どんなに仕事のキャリアを積もうが、素晴らしい貢献をしようが、人間関係で恵まれていようが、そんなことで潜在意識を満たすことできません。

 

自身の潜在意識にコンタクトできるのは自分だけで、そこにはたった一人で何も持たずに行くしかないのです。

しかも、潜在意識の主導権を握っているのは、感情を支配するインナーチャイルド(子ども意識)です。

 

インナーチャイルドは心的外傷(トラウマ)のダメージから心を守るために分離され、心の奥に隔離された子どもの意識です。

だからインナーチャイルドは痛みに苦しむエレシュキガルのように、闇の中で孤独に傷を抱えて苦しんでいます。

 

わたしたちが外側の危機的な状況で恐怖や不安に怯えるとき、実は「わたしと同じ気持ちになっている!この身体はわたしなんだ!」とインナーチャイルドが心と身体を乗っ取っている状態です。

 

もちろん、ネガティブな場面ばかりではなく、お腹の底から笑ったり、夢中になって遊んでいるなど無邪気な感情が意識を占めているときは、インナーチャイルドの人格になっています。

 

女性の通過儀礼の期間は、物質界に存在するものに恵まれても心の欠乏感は埋まりません。むしろ、その恵まれたものを一切投げ捨てたい衝動が起きます。何もしたくない。誰にも会いたくないという気分は、冥界下りの時期のサインです。

 

冥界の掟に従って6つの門をくぐり抜けたイナンナのようになりましょう。

外側の世界で価値あるとされるものを追うのを、いったん辞めてみましょう。

 

独りの時間をとって、自分の心の中に降りていき観察します。このとき、外側の世界の基準で内側の自分を裁いたりするのは禁物です。どんなに未熟でダメな自分を見つけても責めてはいけません。

 

それをするということは、冥界に我が物顔で乗り込んで玉座を奪うことに失敗したイナンナのように、潜在意識に介入しコントロールしようとしたと見なされて、インナーチャイルドとの関係に亀裂を生みます。

 

大切なのは潜在意識をコントロールするのではなく、インナーチャイルドと信頼関係をつくることです。

小さな身体のクルガラ(泣き女)とガラトゥル(神官)がエレシュキガルにしたように、寄り添ってそのネガティブな感情を共に感じて泣くことです。

 

外側の世界ではむやみに泣くことは許されませんが、感情の世界である潜在意識では、素直な感情表現がエネルギーを浄化します。同時にわたしたちの体内でも、涙を流すとNK細胞(免疫システム)が活性化するので身体にとっては良いことなのです。

 

イナンナを瞬殺した恐ろしいエレシュキガルが一緒に泣いただけでご機嫌を回復してイナンナの蘇りを許したように、大人意識の自分がインナーチャイルドの苦しみに共感しただけで心の欠乏感は埋まり、元の健康な状態に戻れるのです。

 

その後にもこの地上と冥界(顕在意識と潜在意識、大人意識とインナーチャイルド)の良い関係を保つには、イナンナが果たした約束を守ることも大切です。

 

イナンナの夫ドゥムジは、外側の世界(物質世界)への注目を表しているように見えます。

わたしたちの顕在意識は外側の世界で得られるものに心奪われ優先してしまいがちですが、それではせっかく構築した潜在意識との良好な関係にヒビを入れてしまいます。

 

でも、イナンナの地上の幸せな生活に夫ドゥムジは欠かせない存在です。わたしたちも潜在意識の世界ばかりに引きこもってもいられません。

 

そこで、ドゥムジの姉が自ら進んで冥界に下ることを申し出ました。だから、1年の半分をイナンナは夫と地上で暮らせるサイクルになったのです。

 

わたしにはドゥムジの姉は、潜在意識に自ら進んで降りてインナーチャイルドに会いにいく大人意識の現れのように思います。

 

大人意識がインナーチャイルドをケアする気持ちを持ち、外側の世界に向ける注目を50%に保てたら、復帰後も冥界に逆戻りして亡骸になることもないのだろうと思いました。

 

紀元前3000年頃の神話なのに女性の通過儀礼の超え方を指南してくれるなんて、神話の力って凄いなと感じます。

 

次回は「チャップリンとヒトラーのホロスコープ比べ読み」次々回はティール・スワン著「自分を愛せなくなってしまった人へ」の解説を、そのは「ヒロインの旅」の解説の続きを予定しています。

 

 

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