「転職で年収アップ!」はウソ? ~ Business Media
年収500万円が700万円に!――。そんな広告を見た記憶はありませんか?
脳天直撃のキャッチコピーに刺激され、ついつい転職を考えてしまった方もいらっしゃるかもしれません。ですが、この手の広告に対しては、ウソではないものの疑いの目を向けてください。転職すると年収アップするより、実はダウンする確率の方が高いのです。
半年ほど前のデータですが、リクルートエージェントが2010年9月に発表したデータによると、転職前後で年収は「前職よりは下がった」が46.4%。一方、「前職よりは上がった」は38.3%になっています。
「転がる石にコケむさず」とも言います。人材業界に片足を突っ込んでいる私が言うのもアレですが、転職は短期的に見た場合、年収面以外でもマイナスになることが多いのです。さらに短期間に何度も繰り返していると、多くの企業から見向きもしてもらえなくなります。実際、人材紹介会社に候補者集めを依頼する時に「転職回数3回以内」といった具体的な条件を付ける企業もありますし。
こんなネタ振りをしたのは、「今の職場/年収に不満があるから転職する」というネガティブな理由で転職を考えている人が、特に20代~30歳前後で多いように思うからです。心情的には理解できますが、短絡的な転職は決してプラスにはなりません。
転職するとなぜ年収が下がるのでしょうか? もちろん、2010年9月のデータなので、景気の影響も少なからずあるでしょう。ですがここでは別の理由を挙げている記事を紹介しましょう(かなり前になりますが、私が読んで腑に落ち、今でも記憶に残っています)。
ここではタイトルに「MBA後」と入っていて、未経験職種への転職の場合とされています。未経験の仕事なら転“職”でレベル1になるのもうなずけますが、同業界・同職種の転“社”であったとしても、転職すると仕事のパフォーマンスが短期的に落ち込むこともあるのです。
パフォーマンスが下がるのに年収が上がる。そんな都合の良い話は普通に考えるとないですよね。
転職するとなぜパフォーマンスが下がるのか、逆に転職することがパフォーマンスアップやキャリアアップにつながるケースはあるのか。そういった話はいずれ場をあらためて掘り下げたいので、ここではいったん筆を止めておきます。
と、ここまでは「短絡的に転職を考えるな」というメッセージを送りたいので、ネガティブな話の展開をしてきました。が、あらためて数字を見てみると、年収アップ:年収ダウン=38.3%:46.4%というわけで、そんなに下がってばかりでもありません。2000年前半の調査の中には、年収アップの割合の方が高かった年もあったようです。
先ほどのデータを細かく見てみると、年収アップした層は、26~30歳の層の前後のようです。そのデータも多少踏まえつつ、年収アップするのはどんなケースか、いくつか思い浮かぶものを挙げてみます。
・前職での待遇が明らかに同業界や同職種の水準よりも悪い
・前職の業績はイマイチだったが、転職先はイケイケ
・年功序列型のトラディショナルな企業から、パフォーマンス重視の外資・ベンチャーに転職
・人事評価が適正に行われていない
・転職者が転職先企業が欲しているナレッジ/コネクション/ブランドを持っている
・前職は残業手当が付かなかったが転職先では付く
主だったものはこんなところでしょうか。私より詳しい方もいらっしゃると思うので、ご意見ありましたら加筆・修正しますので、ぜひ私のTwitterアカウント(@YoshiNaka)宛にリクエストを。
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●転職でパフォーマンスが落ちる理由
「転職をすると、実は年収が下がることの方が多い」という話をさせてもらいました。転職をすると下がりがちなのは、年収だけではありません。発揮できるパフォーマンス、仕事で出せるアウトプットなどにもマイナスの影響があると思っています。
しかも年収は下がるとは限りませんが、パフォーマンスなどはほぼ間違いなく下がるものだと私は考えています。
エンジャパンが「転職は慎重に」というキャッチフレーズを使っていますが、「年収アップを狙って転職したい」という人だけではなく、「環境を変えて活躍したい」という人にも一度慎重に考えてもらいたいので、今回の記事を投稿しています。
さて、パフォーマンスが下がる理由にもいろいろありますが、ざっと次のような要因が挙げられるのではないでしょうか。
・業務領域の変化
・所属企業の立ち位置の変化
・企業文化の変化
・上司や同僚との人間関係の変化
それぞれの要因について簡単に説明していきましょう。
業務領域の変化
これは分かりやすい話だと思いますが、転職すると担当する業務が変わってきます。職種自体を変えた場合はもちろんですが、同じ職種で転職したとしても、カバーする領域が変わることが多いのではないでしょうか。
例えば営業職。前職では見込み客を獲得するマーケティング部門が優れていて、用意されたリストにただアプローチすればよかったのに、新しい職場では見込み客のリストを作ることが求められるかもしれません。その場合には電話でアポを取ったり、ダイレクトメールで見込み客を発掘したりといった業務まで必要になることも。電話アポに慣れていない人なら、短時間で相手の興味をどう喚起するか、不慣れなことに苦労するかもしれません。
所属企業の立ち位置の変化
業界の中で1位の企業なのか2位の企業なのか、あるいはまったく名前の知られていないベンチャーなのか。所属する企業の立ち位置によって求められる能力は変わってきます。
ここでも営業職を例に考えてみます。
1位の企業であれば、相手担当者と良好な人間関係を築き、これまでの実績を説明し、自社製品への誇りや自信を持って強気の交渉で受注額を増やせるかもしれません。
対して2位の企業になると、1位企業との違いを説明し、1位企業に対して顧客が感じている不満を解決する手段を考え、自社の優位性を認めてもらう必要があるでしょう。
それがまったく名前の知られていないベンチャーになると、トライアルだからと限界まで価格を下げて、とにかく使ってもらうことも重要になります。さらに1位の企業でも2位の企業でも実現できない、まったくの新商品を開発するヒントを顧客との対話から収集し、商品開発までを考えなくては売り上げを伸ばせないかもしれません。
企業文化の変化
その会社がどんなスタイルを是とするか、どんなタイプが評価されるか、という点も発揮できるパフォーマンスに影響を与える要因でしょう。ただ、これはプラスにもマイナスにも働く要因だと思います。
スピード重視でとにかく行動することが求められる企業、失敗が許されない慎重な企業、人とのコミュニケーションやチームワークを重視する企業、成果だけ上げていればとやかく言われない企業などなど。転職先の会社がどんな人物であることを求めてくるかによって、仕事のスタイルも多かれ少なかれ変化を求められます。自分に合うスタイルならパフォーマンスは上がるでしょうが、合わないようならマイナスに働くことでしょう。
上司・同僚との人間関係の変化
転職をすると同僚との人間関係もゼロから築き直さなくてはいけません。以前の会社では陰に日向に同僚からのサポートを得られていたのかもしれませんが、新しい会社ではサポートが得られないかもしれません。
転職先の社員にとってあなたは新参者。新しい職場では慎重に人間関係を築いていかないと、他部署のキーマン、女性社員をたばねるお局様の心証を悪くしようものなら、いくら正論を説こうが、プロジェクトは前に進みません。
人間関係は一朝一夕で築けるものではありませんから、よほど前職で人間関係を悪化させていたのではない限り、転職することは仕事上マイナスに働くことでしょう。
また機会をあらためてまとめたいと思いますが、「もっと裁量が欲しい」「こんな仕事を任せてもらえるようになりたい」といった理由で転職を考えているようなら、転職せずに現職のまま上司と交渉して実現できる可能性も大いにあります。
そもそも、実績を残していない段階で転職しても、相手企業があなたのことを今以上に評価してくれるとは思えません。「もっと活躍したい」というのが転職の理由なら、自分に至らぬ点がないか、現職のままで状況を打開できないか、慎重に考えてから転職活動を始めるべきではないでしょうか。
●転職のメリットは
これまで転職のデメリットについて取り上げてきました。私は人材紹介業に片足の足首くらいは突っ込んでいるのですが、あまりに転職マーケットを知らずに転職活動をされている方が目に付きます。ですから、まずは警鐘を鳴らすためにネガティブな話から書いてきたのですが、最後に転職をするメリットについて触れていきたいと思います。
転職をするメリットを私なりにまとめるとすれば、大きく次の3点になってくるのではないかと考えています(異論・反論お持ちの方はぜひTwitterなどでご連絡ください)。
・あまりにひどい現職からの脱出
・キャリアアップの高速化
・超回復によるサバイバル能力・適応力の向上
注意事項を補足しながら、それぞれのケースについて触れていきましょう。
あまりにひどい現職からの脱出
転職をすると「年収が下がることが多い」「発揮できるパフォーマンスがほぼ間違いなく下がる」というのが私の基本的な考え方です。ですが、「会社の経営が厳しく、成果を出した人材であっても高い給与を支払えない企業」「特定の幹部が悪影響を及ぼし、若手社員に権限を与えず、活躍の場がない企業」「伝統的に若手の抜擢に慎重な企業」など、会社を変えることでしか現状を打破できないケースもあります。
特に給与ですが、残業代を支払わない企業から残業代がキチンと振り込まれる企業に転職できた場合、同程度の評価で転職しても、年収がひと回り増えることが多いのではないでしょうか。
そんな環境の企業にそもそも就職/転職しないように気を付けることが大事ではありますが、特にベンチャーなどで働いていると、数年先のことなんて分かりません。あまりに現職での待遇が悪い場合は、転職を考えてみるのも良いでしょう。
ただし、現年収が低く際立った成果も残せていない人材に対しては、企業側の見る目が厳しくなるのも事実。転職直後からの待遇改善を望めるのは、きっちりと実績を残せている(あるいは残せる見込みの高い)人材に限られてくることは理解しておいてください。
キャリアアップの高速化
大手企業からベンチャーへ転職する際に「もっと企業経営に近いところでかかわりたい」というような理由を挙げる転職者の方、あるいは職務範囲を変えたくて「プレイヤーとして営業実績を残したので、今度はものを売る仕組みづくり(営業企画)からかかわりたい」と仰る方もいらっしゃいます。さらに言うと、「営業を経験したので、次は商品開発を見たい」とキャリアチェンジを望む方も同じ分類と言えるかもしれません
このようなケースでは、まずは転職から考えるのではなく、現職でそれが本当に実現できないのかとあらためて考えてみる/社内で交渉してみることが重要だと考えます。
ですが、大手企業などではいくら上司が理解を示してくれても、希望がかなうまで時間がかかりがち。転職をすることでキャリアアップのスケジュールを早めることもできますので、より早く望む未来を実現するために、転職を考えるというのも選択肢の1つです。
超回復によるサバイバル能力・適応力の向上
前ページで「発揮できるパフォーマンスがほぼ間違いなく下がる」と書きました。その理由としていくつかの要因・課題を上げてみましたが、そうした要因・課題を乗り越えることができれば、転職前よりも厚みのあるパフォーマンスを発揮できるようになると考えます。
いわば、筋トレ後に起きる筋肉の超回復のようなもの。一時的に負荷を掛けることで転職前よりもパワーアップできるのです。
例えば業界最大手から新興の企業に転職した場合、最大手だったからできた顧客の懐深くまで入り込んで予算を持ってくる動き方もできる上に、フットワーク軽く顧客のニーズに応えていく動きも身に付けることができるようになるかもしれません。人事であれば、転職前の企業で成功・失敗した評価制度・人事組織の事例を生かすことで、転職先企業には欠けていたナレッジ・ノウハウをもたらすことのできる貴重な人材として評価されるかもしれません。転職は引き出しを増やすことに役立つはずなのです。
さらに付け足すとすれば、今の世の中、どんなに古くから続く優良企業といえども(さらに言うなら公務員になったとしても)、定年退職するまで現在の企業にしがみついていられるかどうか、まったく分かりません。自分が乗っている船がいつ傾いても/沈んでもいいように、サバイバル能力を鍛えておかないと、40~50代になってから地獄を見ることになりかねません。実際、リーマンショック以降、人材紹介会社を回って話を聞いていると、40~50代での転職は若者よりもはるかに厳しいものになっているようです。
そんな時、ずっと1社で働き続けてきた人と、複数の企業で一定期間勤続しどの企業でも成果を残せた人、どちらが新しい船の上でも活躍できるのでしょうか。私は明らかに異質な船を経験して適応してきた後者だと思います。
大船に乗って航海が無事に終了するように祈り続けるか、それともどんな船でも活躍できるように鍛えておくか。一長一短だとは思いますが、「サバイバル能力を磨く」以外にも、「他企業から必要とされるように実績を残す/専門性を深める」「転職活動をする前に『うちで働かないか』と声をかけてくれるような相手を社外に増やしておく」といったことを考えておく必要性というのは高まってきていると感じるのです。(中嶋 嘉祐)
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