黒木さんから~「空飛ぶドクター」
福岡在住の医師、坂本泰樹(やすき)さんの電話が鳴る。
東京渋谷区に本部のある日本旅行医学会の篠塚専務理事からだった。
「時間との競争になっている末期癌患者さんのアメリカ旅行への添乗ですが、
先生のご都合は如何でしょうか?」
坂本医師は、AFS高校生留学制度(当時の管轄は文部省派遣)の3年後輩で、
私が主宰する勉強会【3%の会】の仲間でもある。
「8月23日以降だったら大丈夫ですが」と、日程がほぼ決まる。
成田空港の出発ロビーで、車椅子に座ったままの高澤基(もとい)さんと初対面の挨拶をする。
高澤さんの妹さんと、もう一人はボランティア参加で付添う日本旅行医学会の女性もいる。
いよいよ4人でアメリカへ向けて“人生最期の旅”への出発である。
空港のTVでは、奇しくも高澤さんと同じ65歳、芸能リポーターの梨元勝さんが
肺癌で亡くなったというニュースが流れている。
高澤さんは都内の信用金庫で60歳の定年まで勤めた後は、生涯独身で一人暮しを楽しんでいた。
昨年、記憶障害が顕著になった異変で病院の検診を受け、
かなり転移も進んでいる末期の食道癌から来ている脳炎だと判明。
余命数ヶ月のカウントダウン段階だと宣告を受ける。
2歳年下の妹は、2年半入院して亡くなった母親、20年間も入院の末5年前に他界した父親、
そして37歳の時には、働き盛りだった44歳の夫も骨髄癌で亡くしている。
そして今度は兄が末期癌!
高澤さんは中学生時代から、Elvis・Presleyの大ファンで、
取り付かれたように始終レコードを聴いて大人になり、
社会人になってからもハワイで開催されるコンサートに参加したくて会社に休暇申請したが、
上司に無下に却下された悔しい思い出がある。
兄の無念さを覚えていた妹さんは、その夢を生きているうちに何とかして叶えてあげたい、
そうだ兄が残した退職金でプレスリーの故郷テネシー州メンフィスに連れて行ってあげようと決意する。
旅行会社のツアー申込では、車椅子の重病人を同行すると分かった途端、すぐに断られた。
一般の人たちと一緒の団体旅行はどだい無理な話である。
何とか方法はないか・・・探し当てたのが日本旅行医学会であった。
出発前日に飼猫が急死、旅行はやはり取り止めようかと直前まで迷っていた妹さんは、
猫が身代りになってくれたのだと妙に確信して、兄との渡航を決意する。
車椅子とオムツをつけた息も絶え絶えの病人を同行する8日間の米国旅行、楽なはずがない。
坂本医師は不眠不休で付添い、自ら浴槽に入って高澤さんをホテルの風呂に入れ、
自分でアメリカ本土を長距離運転して3人を後ろに乗せてのレンタカー移動、
自力で動けない重い患者を上げ下ろしの重労働。
運転手、ガイド、通訳、介護士、次々に起こるトラブル対処の現地交渉や
ホテルやレストランの手配など連日が旅行社の業務以上、
それでいて診察や手当ての医師業務も。
今まで経験したこともない八面六臂の“添乗医”であった。
プレスリーが住んでいた豪邸グレースランドに並ぶ遺品の前で、
高澤さんは残る力を振り絞るように親指を立てて最高の笑顔で記念写真に納まり、
流れる懐かしい曲に足でリズムを取る。
だが、日本出発前までのカルテでは自力で歩けるはずだったのが嘘のように、
帰国の頃には容態が目に見えて悪化していった。
帰りの便では、あまりの重篤な様子に航空会社から搭乗拒否に合い、
坂本医師自ら身体を張った必死の説明と説得で、ようやく離陸できたほどであった。
帰国して十日後。
高澤さんの棺には、プレスリーのTシャツやCD、思い出の沢山の写真が納められ、
霊柩車は大きく長くお別れのクラクションを鳴らした。
「旅行しなかったなら、もっと生きられたのでは?」との回りからの問いに、坂本医師は言う。
「高澤さんは念願の夢を果たし、この世に何の未練もなく心安らかに旅立たれたと思います。
これぞ私がやりたかった医師としての仕事です。
余命少ない貴重な終末期を如何に有意義に過ごすか、悔いの無い人生。
残される家族にとっても重要なことです」
「機内にお医者さんはいませんか?」―空飛ぶドクターの海外旅行と健康管理 (悠飛社ホット・ノンフ.../坂本 泰樹
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坂本医師は、著書「機内にお医者さんはいませんか?」(悠飛社)を出版。
得意の英語やイタリア語など留学経験の語学力、豊富な海外旅行体験を駆使して、
死ぬ前にどうしても行きたい場所があるのに体調に困難や不安を持って
夢を断念している旅行希望者たちに、
添乗・同行する医者、『空飛ぶドクター』を目指している。
いつでも、どこへでも、誰とでも、すぐに一緒に飛べるように、
あえて開業医師ではなくフリーでいるのはその為である。
病気や障害を持つ人の旅は、次のような4つの困難がある。
1、移動のバリア 2.費用のバリア 3.心のバリア 4、情報のバリア
海外でなくても国内の温泉小旅行なども含めて、関係者の適切なサポートがあれば、
終末期の患者でも出かけられる可能性はまだまだ沢山あるのである。
1000人のホスピス患者を看取り、
緩和ケアの技術は進んだものの悔いを残しながら亡くなる患者があまりにも多い!と気づいて、
『死ぬ時に後悔すること25』(致知出版)を書いた大津秀一医師。
そこに記録されている25の共通点は、総てが、“~しておけば良かった”である。
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孔子が弟子たちに聞く、
「明日命が終わるとすれば、今日のうちに何をしておきたいか?」。
弟子たちは答える。
「親孝行したい」、「あの時は悪かったと友達にわびたい」など。
孔子は言った、
「それら総ては、今すぐにでも出来ることばかりではないか!」、と。
明日が来るのが当たり前じゃない日が、すぐあなたにも迫っている。
音速は時速1225kmであるが、地球の速度で計算すると、
我々は音速以上の時速1670kmで未来へ向かって移動している。
もちろん未来のすぐそこにある終着駅は、カンオケである。
人生とは永遠に答えの出ないテーマである。
だとすれば、人生を楽しく生きるのに、遅すぎることはない!
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