- もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎 夏海
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ドラッカーそしてマネジメントが求められた理由 ~ ITmedia エンタープライズ
同書は「もしドラ」という略称が作られるほどブームを呼んでいる大ベストセラー小説。野球部マネージャーを務める女子高生が主人公で、経営評論家P.F.ドラッカーの著書『マネジメント』エッセンシャル版と出会い、その内容を参考にしながら、甲子園を目指すというもの。小説の中で、主人公は『マネジメント』にならって、組織、つまり自分がマネージャーを務めるチームの定義付けから始めるといった具合だ。
しかし、岩崎夏海氏は「もしドラ」の売れ行きについては、まるで人ごとのように話を続ける。
「『もしドラ』が人気を呼び、ドラッカーさんの著作の売れ行きもアップしているようで、とてもうれしい。ただ、わたしは自分がドラッカーブームをつくったとは思えない。読者の皆さんがドラッカーを欲していたのだと思います」
ドラッカーの『マネジメント』は1973年に発表された。ドラッカーはその時代から日本でも有名な経営評論家だったし、大きな影響力を持っていた。しかし、彼の名前がここまで多くの人の口にされることはなかったのではないか。岩崎氏の「皆さんがドラッカーを欲していた」という発言にはどういう意味が隠されているのだろう。
それは、どうやら今日本が直面している大きな変化の時代と関係があるようだ。岩崎氏は次のように続ける。
「ここにきてガバナンス、つまり統治というものが変質してきているように思えてならない。上位下達という形のガバナンスが通用しなくなっていて新しいガバナンスの手法が求められている。多くの人がドラッカーを欲しているという背景には、あらゆる集団、組織で統治するシステムに問題が生じてきており、それを今の時代に合ったものに変えるマネジメントの力が求められているのではないか」
●みんな、マネジメントの必要性に気付き始めた
岩崎氏の元には、さまざまな組織から講演の依頼が殺到しているという。一般の企業はもちろんのこと、地方の経営者の集まり、看護師さんのグループ、消防庁、教育委員会など多岐にわたる。これらの依頼者がみんな口にするのは「自分たちで変わっていくしかない。だからこそ、今マネジメントが必要なのだ」という問題意識だ。
上位下達のガバナンスが効力を失っていく過程には、インターネットが大きな影響を及ぼしていると岩崎氏は話す。
「上位下達のガバナンスが成立していた理由、それは、組織のトップが一括して情報を握っていたわけです。トップは会社の金で海外などに出かけ、そこでしか知り得ない情報を得ていた。その一握りの人しか知らない情報が力の源泉だった。ところがインターネットが登場し、誰でも多くの情報に触れられるようになった。例えば、ファッション。今や一般の人の方が海外も含めて最新の情報を豊富に持っていることが多い。アパレルメーカーのトップだからといって、誰よりもファッションについて詳しいとは限らない」
もちろん今でも組織のトップにしか触れられない情報、つくり得ないネットワークは残っている。しかし、おしなべてインターネットの登場以来、情報の質と量という意味で格差はなくなった。これはドラッカーが予感した「知識社会」のあり様だといえる。
ガバナンスの変質によってマネジメントの方法も変化させざるを得ない、その例として岩崎氏はファーストリテイリングの例を挙げた。
ファーストリテイリングでも、つい最近までほかのチェーンストアと同じく、かなり詳細なマニュアルによって各店舗を管理していた。しかし各店舗それぞれ同じマニュアルで運営していても売り上げに差が出る。立地条件などの違いを考慮しても余りある差が出るのはなぜか。それを調べてみると、結局は店長の力の差が出てしまうということだった。
「優秀な店長はマニュアルにはない動きをしているというのですね。マニュアルを守りながら、そこからさらに効果的な陳列をしてみたりして、お客のニーズに常に目を配っているわけです。そこで、ファーストリテイリングでは店長に対して店舗運営に関する権限を大幅に与えるようになっているそうです」(岩崎氏)
店舗運営についても、管理するチェーンの本部が顧客のあらゆる情報を握っており、その情報を基に作成された店舗運営が最も正しい指針、つまりスタンダードとなっていた。もちろん、その知見がまったく否定されるものではないが、日々変化する顧客のニーズを的確に感じ取り、それをすぐさまサービスに転換する現場の力は無視できないものになっているわけだ。
さらに言えば、現在は多くのチェーンストアでは業績に関する詳細な情報が現場のマネジメント層に行きわたるようになっていることなども影響しているだろう。わずかな数の人たちだけが情報を握って、マニュアル通りに店舗を運営していても右肩上がりに業績が伸びていく時代は終わっているのだ。
●「もしドラ」の読者たちが直面した現実
インターネットに代表されるような情報化の大きな波が起こったことによって、組織のガバナンスを変えざるを得ない局面を迎えたといえる。そこで多くの人が求めたものがマネジメントだったのだ。そして『もしドラ』を読み、改めてドラッカーの著作に触れる人たちが続々と出てきたのだろう。
岩崎氏は、『もしドラ』の読者たちが目の当たりにした日本で起こった出来事について次のように語る。
「つい最近、われわれは政権交代を体験しました。と同時に政権が変わってもこの国の状況は何も変わらない、ということも目の当たりにしたのです。『もしドラ』の読者の方々の多くも『もう、政治になんか期待できない。自分たちが変わるしかないんだ』という考えを持たれたのではないか。こうした政治のもたらすインパクトが弱まっていることもマネジメントについて考え、ドラッカーを勉強しようという発想に至る要因になっているのではないでしょうか」
ドラッカーの『マネジメント』は、1930年代の米国の経営者をモデルに書かれていると岩崎氏は説明する。1930年代と言えば、1929年に始まった世界恐慌が猛威を振るった年代であると同時に、従業員が数万人以上の規模となる大企業が生まれた時代であり、多くの失業者が出た時代であった。
「1人の資本家が統治する組織ではなく、雇われ社長が巨大な組織を統治する時代になりました。そこで、雇われ社長たちがまず何を行ったか。かれらは自分たちが統治する正当性を見いだそうとしたのです。ただ単に利益を出すことだけでは正当性を主張することはできない。そこで企業の社会的責任、働く人たちの能力を生かすための努力などについて言及した。それらを持って企業のトップは組織を統治する正当性を獲得したのです」(岩崎氏)
時代が変わり、組織の成り立ちが変わり、ガバナンスも変容せざるを得なくなったわけだ。そして大量生産方式によって、供給過剰の市場が生まれ、失業者の大量の発生によって、人心はすさんでいた。岩崎氏はこの時代と今の時代を交互に見合わせて考えることが多いという。
●人を幸福にするマネジメントを求めよ
1940年代に入っても、米国はなかなか不況から抜け出すことはできなかった。そんな中、ドラッカーの心を大きく揺さぶるエピソードが生まれた。GMの副社長だったニコラス・ドレイシュタッドは軍から発注されていた戦闘機の生産について、1人その発注を受けるべきだと主張した。戦争で労働力が不足しており、ほかの重役たちはとても納期に間に合わせることはできないと考えていたのだ。
安価な働き手はいる。それは貧しい黒人女性たちだ。ドレイシュタッドは彼女たちに戦闘機作りを教え込むのではなく、ラインに各工程の作業を写した写真を貼り、文字が読めない彼女たちに作業内容を理解させた。そして熟練工でなくても扱える道具を作り、組織化しリーダーを任命し、作業の責任を明確にした。そして約束の納期通りに製品を納めることができた。
「ドラッカーは、ドレイシュタッドの手腕に感動しました。これぞマネジメントの神髄、というべき成果でした。しかしドラッカーがそれ以上に感動したのはマネジメントは人を幸福にするということでした。戦闘機生産に参加した黒人女性たちは、無事納品できたことを知り、涙を流して喜んだのです。彼女たちは自分の目標に対して責任を持ち、自己管理をして仕事を全うする労働者の顔になっていたのです」
失業する、職を失う、ということはその人の誇りを失わせることだ。社会的な弱者だった彼女たちは、お世辞にも有能な工員ではなかった。しかしマネジメントは成果を上げるだけでなく、人の心に大切な何かを取り戻すことも実現させている。
「今、日本はとても厳しい局面に立たされている。しかし、この苦境はこれからアジアの多くの国が将来直面する問題なのではないか。産業の空洞化、少子高齢化、就職難・失業問題などすべてそうでしょう。ドラッカーさんは『変化にはあらがうな』と言っている。さまざまな変化に対応してくことで、日本はアジアの国々の手本になることができるようになるはずだと、わたしは考えています」
そして、岩崎氏がもう1つ言いたかったことは、ドラッカーが感動したというGMのドレイシュタッド副社長のエピソードに隠されているような気がした。それは変化に対応するマネジメントは、同時にそこにかかわる人たちを幸福にするものでなくてはならないということだ。
「もしドラ」の中で主人公を含めた登場人物たちは、マネジメントを行っていくうちに人間的な成長を遂げている。そのことが個々の成果よりも強く描かれていることに気付く読者は必ずいるだろう。教則本や参考書としてではなく小説としてこの本が書かれた理由もそのあたりにあるのではないだろうか。
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