黒木さんから
「一炊(いっすい)の夢」という言葉がある。
唐の盧生という青年が、趙の都で道士の枕を借りて眠り、
人の一生に起こる栄枯盛衰のすべての夢を見てしまったが、ふと覚めてみれば焚きかけの栗飯が
まだ煮えきらないくらいの短い時間であったという事から、人生のはかなさを言う。
まさに、儚(はかな)いとは人の夢と書く。人生は短く、泡沫(うたかた)の夢なのである。
心理学では「REM睡眠」に相当するだろうが、REMとはRAPID-EYE-MOVEMENTの略で、
睡眠時に眼が激しく動くほんの僅かな時間内に完結した夢のすべてを見ることが多い。
高知県に「元気もの交流会」というグループがある。高知県庁主催の「龍馬の土佐に安馬がやってくるトサ!」
に始まり、四万十川地域や足摺岬まで含めて既に数十回も講演に出かけた。
訪問のたびに毎回酒を酌み交わす猛者の友人に、川村一成(いっせい)さんがいる。
私は熊本県出身で頑固者の代名詞「肥後もっこす」だが、土佐の「いごっそう」は男も女も、もっと半端じゃない。
女性の酒豪は男勝りである。土佐のハチキンとは、インキンではない。
2金はオトコが持ってはいるが、残りの8金はオンナが牛耳るとか。
朝から喫茶店で、ニンニクの輪切りを挟んだ土佐名物カツオのたたきを肴に酒盛りが始まることも珍しくない。
それを相手にする黒潮文化直系の、天下を変えた坂本龍馬同様、土佐の男はまた豪快で底抜けに明るい。
一成さんの奥さんが八恵さんだから、 一成と二人で、イチかパチか、と屈託が無い。
彼の名刺には「百笑」と書いてある。米や野菜を作り、ポンカンの季節には全国の友人得意先へ直接発送する。
秋が旬の四方竹(四角い竹の子!)の出荷に始まり、年末には大量の門松作りを請け負い、
それは元旦に見事な梅を咲かせるように仕組まれている。
サッカーの高知県のコーチとしても飛び回り、 ジャズ・ミュージシャンで有名な梅津和時さんを引き連れて
バリ島ヘツアーを組み、現地の田んぼの畦道ではジャズのライブが始まる。それを聴きながら皆で田植えと来る。
その後にヤシの樹の下で サッカーの国際親善試合と大宴会となるわけである。
最近では四国アイランドリーグ野球で石毛宏典監督等を旗頭に、「一俵入魂」なる運動の音頭も取っている。
プロ入りを目指す選手たちに、米一俵を応援農家たちが供出して腹の足しにしてもらい、全国の消費者は一俵を購入して資金面で声援を送る方法である。
川村さんは高知大学農学部を卒業後、五年間ほど市役所勤務をしていたが、我が道を生きるため、
山あいの実家で百笑になった、これほど愉快な生活は無いと、笑いながら言う。
農薬と化学肥料をできるだけ減らして安全な作物作りを進め、それで減収した分に減反補助金を当てるという
方法をとれば 過剰問題も解消され、減反も強制する必要が無くなる、それによって環境や水も守られ
安全な食料を提供することで消費者の賛同も得られるはずだ、と。
山紫水明の故郷を心から愛し、近くの小学校では児童たちが各自持参の小さな鉄釜で自らご飯を炊き、
一粒残さずに食べる面白企画も実行中。
焦らずケチらずとどまらず,住む処を楽しむ、出会いを楽しむ、生き方を楽しむ。
生涯の信条は、ほどほどに貧しく悠然と!
結婚一八年目にして出来た一粒種の息子を抱き上げて白い歯を見せる彼の言葉には、爽やかな「納得力」がある。
一回こっきりの人生、自分の生き様を見つければ、これこそ天下一の百笑か。
商いも「笑売」になればまた面白い。
一炊の夢ならぬ「一成の夢」に心から拍手を送りたい。
『人はいつも、自分がこうなったのは環境のせいだと言う。
私は環境など信じない。
世の中でやっていける人は、腰を上げて、自分の求める環境を探す。
それが見つからないなら、自分で作るのだ。
運命は変えられる』 バーナード・ショウ
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感謝すること、自分の成果
喜ぶこと、他人の成果
