長い旅路の末に辿り着いた境地に納得📚
未だに原典に当たる勇気が出ない哲学の名著。中でも最難関と名高い存在と時間は、一昨年のテレビ放送をきっかけに関心を持つも、ハイデガーが存在というファクターを追い続けた理由がわからなかった。手軽な良き解説書を求めていたところ、出逢ったのが本書だった。
冒頭から他の解説書との違いを明確に示す点に、著者のハイデガー研究に対する自信と意気込みが感じられる。本書は存在と時間だけに留まらず、ハイデガーの哲学を前中後期に分け詳細に解説。生い立ちから見ることで、存在にこだわり続けた背景がよく理解できた。
神学から始まったハイデガーの哲学探究は、存在の解明を軸にナチスを通じた社会変革を目指すようになる。ほどなくこの試みは失敗に終わるが、この経歴が後のハイデガーに苦難を与え続けることに。ただ、ハイデガーは独自の思考で戦後社会に向き合い続けた。
近代社会が内包する主体性の拡張を西洋社会の形而上学と位置づけ、歴史の連続性とそれらを超越した先に個性や地域性が活きる社会を見ていた。戦後社会における技術と人間社会のあり方を深く考察している点は、まさに現代に通じる論点の先取りをしていたと驚いた。
ナチスとの関わりを早い段階で自己批判したものの、周囲が期待する形の謝罪を拒んだ姿には、頑迷さを感じざるを得ない。もう少し器用に立ち回れたら誤解も解けたはずだが、ここが信念の哲学者なのだろうか。犠牲者の悲劇に思いを致す姿が見られてもよかったはずだ。
最終的に追求し続けた存在の解明が、関係性の哲学に収斂していった点に、東洋哲学に通じる要素があると思った。冒頭でハイデガー哲学には日本人の支持者が多いとあったが、それも納得の結論だ。ハイデガー哲学の理解に大いに役立つ一冊と出逢えたことに感謝したい。