スビャトスラフ・リヒテル
Sviatoslav Teofilovich Richter(1915-1997)
ピアニスト界の大巨人
ウクライナ生まれ(父はドイツ人)。モスクワ音楽院で学び、旧ソ連国内で活躍するも、冷戦の影響から西欧諸国には行けなかったため伝説的な存在となる。後に世界的に活躍し、現在では20世紀最高のピアニストの1人に数えられ、私はルービンシュタイン、ホロヴィッツと並ぶ「三大巨匠」と呼んでいる。
ピアノをまるでオモチャのように扱ってしまうピアニスト界の元祖モンスター。怪物級のピアニストは他にもいるが、その中でもリヒテルは別格。
リヒテルと並び称されるエミール・ギレリスと同じく、若い時代は旧ソ連で活動し1960年頃以降になり世界的に活躍した。プロコフィエフの「ピアノソナタ 第7番」はリヒテルが初演、「ピアノソナタ 第9番」はリヒテルに献呈されている。その他、スクリャービン、ラフマニノフといったロシアものはもちろん、ショパンやリストなどのロマン派、バッハ、シューベルトやベートーヴェン、さらには室内楽に至るまで、あらゆる分野において超一級の録音を残している。ベートーヴェンは全曲録音ではないが、ドイツの主流とはまた異なるリヒテル独自の魅力を放っているし、ショパンなどのロマン派やバッハに至るまで、最初の1音でリヒテルだと分かるほどに、リヒテル独自の世界感が埋め込まれている。
リヒテルの演奏は、圧倒的ともいえる巨大なスケールと強弱のダイナミクス、一切の怯みが無い超人的な技巧が特徴で、邪念無く繰り出す撃ち落とすような打鍵はすさまじい破壊力。ピアニッシモでは純粋無垢で独特なきわめて美しい音色を鳴らし、過剰に歌ったりすることはない。彼の風貌からは想像し難い無骨なロマンティズムも魅力の一つ。
数あるピアノ曲の中でも最も人気があり(アマチュアで弾く人は限られますが)、ベートーヴェンの傑作として知られる「ピアノソナタ 熱情」はリヒテルらしい超名演。
冒頭は水面をつたうようなこれ以上ない静寂から入る。これだけでもよくある「熱情」とは異世界なリヒテル独自の世界が拡がる。次に出てくるフォルテの一音一音の重厚感と深さはハンパない。構成や展開の上手さも見事。第2楽章は純粋無垢な子供が遊んでいるかのようなリヒテルらしい美しさ。無骨ではあるがとても優しくホッとする。最終楽章は一転、スピードとパワーは別次元。この曲を重みを失わずこれほど前掛かりで弾けるのは歴史上リヒテルだけだろう。二度の休息を除きほぼ休みなく緊張感を保ったまま、一切の怯みなく突き進み、ラストは衝撃的な熱量で締め括られる
ではランキング
★★★★★(5/5)
リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★
構成・展開力 ★★★★★
ダイナミクス・インパクト ★★★★★+
美しさ・歌・センス ★★★★
緻密・繊細さ ★★★★★
ヴィルトゥオーゾ的要素・技巧 ★★★★★+
魔力・音色 ★★★★★
カリスマ性 ★★★★★
万能さ ★★★★★
人気・ユーモア ★★★★
プロコフィエフ「ピアノソナタ 第2番」。スタンダードなリヒテル像
ショパン「エチュード 作品10-4」、若干録音状況は怪しいが、凄いことはたしか笑