ハンス・クナッパーツブッシュ

Hans Knappertsbusch(1888-1965)ドイツ

 

天邪鬼なカリスマ

 

 

ドイツの巨匠。第二次世界大戦中、主要な多くの音楽家が亡命する中、同年代のフルトヴェングラーと同じくドイツ国内に留まり活動した伝説的指揮者。

 

古の時代の音楽家はみな強烈な個性を持っているが、その猛者たちの中でもクナッパーツブッシュはさらに別格の存在。得体の知れない異質な雰囲気を漂わせ、その不思議なカリスマ性から熱狂的なファンがいるほど。音楽そのものは決して誰にでもウケるタイプではないかもしれず、初めて聴くと面食らう人はきっと多いだろう。

 

クナ(愛称)は普通の枠に収まることは無く、何を仕掛けてくるか想像が付かない。例えば、普通であれは「ここぞ!」という時にテンポを速くして盛り上がるところ、クナの場合は逆に遅くする、なんていうのは朝飯前。そんな変人的な事をやったかと思えば、ごく普通にスルっと弾き抜けたり(これもある意味裏切り)、ツッコミどころ満載。「曲者」とか「天邪鬼」といった言葉が誰よりも似合う指揮者だ。

 

クナの音楽の特徴だが、古さゆえに録音状態はあまり良くないものが多く、サウンドに関しては完全な把握は難しいが、とにかくスケールがデカいということ、ふてぶてしいほどの解放感、そして躊躇の一切ない真っすぐさがまずは印象に残る。映像を見ると指揮ぶりは堂々としていてとても冷静、そして(現代の指揮者とは比べものにならないほど)動きはきわめて少ない。そこから生まれる圧倒的なパワーと説得力、そして愛嬌。

 

 

ベートーヴェン「交響曲 第3番」第4楽章のフィナーレのみ。

 

 

 

クナの音楽の最大の特徴は(これは録音状態に関わらず把握できる)、テンポの作りがきわめて独創的であるということ。ビートはとてもしっかりしていて元々のノリのある音楽を作るが、その上でテンポをどうやって設定し、どう音楽を作っていくか。例えば、トスカニーニであればテンポ作りが誰よりも上手く最高の形で期待どおりにやってくれるし、フルトヴェングラーだとテンポは即興的に、ありえない速さに展開してしまう等、聴いている側の期待と予想をさらに超える動きをする。クナの場合、「そこでそういくか!?!」と、予想と全く違うことをやってくる。テンポの設定はとてつもなく上手いのだが、一筋縄ではいかない、というのがクナの持ち味。

 

録音は決して多くはないが、ワーグナーとブルックナー、ブラームスやベートーヴェンも一通り揃っている。私のおすすめは、普通だとどうしてもつまらないと感じてしまうことが多い「シューベルト」。テンポは割とノーマルで遅すぎず、クナらしいブリブリな個性が効いて面白く仕上げてくれている。

 

ブラームス「交響曲 第4番」。ブラームスはクナの本来の能力がストレートに発揮されていると思う。フルトヴェングラー級のヤバさ宇宙人くん

 

 

 

それではランキングですキラキラ

 

 

★★★★★(5/5)

 

リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★★

構成・展開力 ★★★★★

ダイナミクス・インパクト ★★★★★

美しさ・歌・センス ★★★★

緻密・繊細さ ★★★+

サウンド・音色・色彩感 ★★★★

カリスマ性 ★★★★★

魔力 ★★★★★

万能さ ★★★★

人気・ユーモア ★★★★

 

 

ワーグナーの楽劇「パルジファル」。クナといえば一番有名なのはワーグナー。

 

 

 

ベートーヴェン「交響曲 第9番」フィナーレのみ。それにしても、クナはかなりのイケメンだ。実は歴史上の指揮者はイケメンばかりというのは知っているだろうか? 意外と気づきにくいのは、トスカニーニ、フルトヴェングラー、クレンペラー、チェリビダッケ・・。ピアニストはそこまでいないんですけどね。

 

 

 

 

カール・ベーム

Karl Böhm(1894-1981)

 

音楽界の絶対創造主

 

 

オーストリア生まれ。20世紀で最も偉大な指揮者の一人で、私はショルティやバーンスタインらと並ぶ、指揮者の「五大巨匠」と呼んでいる。

 

実は私、音楽を聴くとかなりの確率で寝てしまいます。。そして音楽を長い間聴くのも苦手で、すぐ飽きちゃうんです。。そんな私が、いつ聴いても何を聴いても不思議と飽きないで聴けることができるのがカール・ベームグー

 

晩年時代の映像を見ると、何やらブツブツと言っている田舎くさいおじさんですが、偉大な音楽家達から尊敬を集め、人気だってカラヤンやバーンスタインに負けていません。

 

ベームはきわめて独創性の高い特徴がありますが、私の拙い文章力では説明が難しいアセアセ

 

いざ音楽が始まると、最初はごく普通と感じるものの、徐々に「音楽の遊園地」へ引き込まれていきます。色とりどりのサウンドや様々な素材が四方八方に飛び交う立体的な世界。音楽の「量」の多さにびっくりするものの、それは何かを付け加えたり、盛ったり、派手にしようという意図は一切無い。素材を旨みを(誰も気付かなかった)限界まで引き出し、他とは違う別世界の音楽を作り出していく、例えるなら「究極の日本料理」のような世界が繰り広げられていきます。

 

完璧主義というよりはどちらかというと几帳面であり、丁寧に音楽を構築していく。ビートやテンポはどちらかというと動かさないタイプだが、時に驚きを伴う面白い動きをすることもある。ムダがなく、存在すべきもののみ存在させている、いわゆる「引き算型」の演奏スタイルであるにも関わらず、生まれる音楽はまるで玉手箱からザクザクあふれ出るようなお祭り感があるのはなぜなんだろう?コインたち祭

 

ドヴォルザーク「交響曲 第9番 ”新世界”」

 

 

 

ベームの手にかかればまるで4Kで見てるかのような、夢の中でその世界に行っているかのような錯覚に陥ります。例えば第2楽章のメロディ。一音一音ずつが魂を持って生まれて、その全てに存在する意味があって、伸ばした音は永遠に続くのではないかと錯覚するほどにやや長めに引っ張って、スッと消える。たった一音にこれほどまでの「美」を埋め込むことができるのは、ベーム以外にいるだろうか?

 

ビート上で、どのタイミングで音を出すか、どう音を出すか。そして、どのタイミングで音を消すか、どう余韻を残すか。ベームの凄さはここにある。

 

ベームの師といえるのはブルーノ・ワルターだが、その音楽は前向きで、楽しさと心地よさ、そして幸福感がある。モーツァルト、ワーグナー、ブラームス、ブルックナー、残された録音は全ておすすめOK

 

ではランキングですキラキラ

 

 

★★★★★(5/5)

 

リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★

構成・展開力 ★★★★★+

ダイナミクス・インパクト ★★★

美しさ・歌・センス ★★★★★

緻密・繊細さ ★★★★★

サウンド・音色・色彩感 ★★★★★+

カリスマ性 ★★★★

魔力 ★★★★★

万能さ ★★★★

人気・ユーモア ★★★★+

 

 

シューベルト「交響曲 第9番」

 

 


 

 

グレン・グールド

Glenn Herbert Gould1932-1982カナダ

 

ピアノでバッハを弾く先駆者

 

 

カナダ生まれのピアニスト。バッハとピアノと聴くと、真っ先に思い浮かぶのがグレン・グールド。

 

日本で有名な演奏家は、コンクールでの優勝、来日公演での宣伝によるもの、テレビでのドキュメンタリー、有名な人や権威のある人が媒体で紹介したなどのきっかけであることがほとんどで、それは時にブームという大きな流れを生むことがあります。どの分野でもそうですが、日本人は自分の考えや意見よりも、周りの意見に大きく左右されたり、雰囲気を気にし過ぎる傾向があります。あくまで日本全体の話ではありますが、音楽や芸術というものを前提とすると、この気質は決して向いているとは思えません。

 

グールドは世界でも日本国内で特に人気の高いピアニストであり、私も持っているソニーレーベルでの白いジャケットのCDはきっと多くの人が持っていると思います(これは今でもサブスクでは聴けない)。それほどまでグールドは日本国内で細く長くブームを巻き起こしました。

 

日本で人気のピアニストは(日本人、外国人問わず)正直に言ってしまうとミーハー系なファンが多いですが、グールドは全くそうではなく、いわゆるゴリゴリのクラシック通に高く評価され、さらにはグールドをきっかけに熱烈なファンとなりクラシック好きになった人も数知れず。

 

グールドといえばバッハですが、若い時代はロマン派なども含めて幅広く色々と弾き、優れたピアニストとして認知されていたそうです。1955年に発表した「ゴルドベルグ変奏曲」によってアメリカを中心に有名になりますが、1965年頃以降はコンサートをせずレコーディングのみでの活動となったという、きわめて異質なピアニストです。

 

強烈な個性を放ち、鬼才や異才のように分類されがちなグールドですが、好みの要素はさておき、純粋にピアニストとしての能力はどうなのでしょうか?

 

あらためて聴いてみると、タッチや音色、解釈や雰囲気、演奏法など、多くの部分で他のピアニストとは著しく違う点があり、それこそ最初の一音で「グールドだな」と判別できる独自のサウンドを持っています。しかし、例えばリズム感、構成、和声感、旋律やフレーズのつなぎ等、音楽の重要な部分において、音楽的な能力はきわめて高く、他のあらゆるピアニストのバッハ演奏と比べても、勝る部分はあっても、劣る部分は全く無いように感じます。グールドの表現や個性によって、あまり好きではないというのは聴く人の自由ですが、ピアニストとして、音楽家としての能力の高さは知っておくべき要素です。

 

グールドのもう一つの大きな特徴、音楽通に好まれる理由はグールド特有のグルーブ感炎 これによって音楽に官能的な要素を生み出しているというわけです。そしてあの天才的な閃き。「そんなカッコいい弾き方あったんだ!!」と思ってしまう回数は他のピアニストの比ではありません。

 

それでは、ランキングですキラキラ

 

 

★★★★(4/5)

 

リズム・ビート・グルーブ感 ★★★★★

構成・展開力 ★★★★

ダイナミクス・インパクト ★★

美しさ・歌・センス ★★★★

緻密・繊細さ ★★★★

ヴィルトゥオーゾ的要素・技巧 ★★★

魔力・音色 ★★★★★

カリスマ性 ★★★

万能さ ★★

人気・ユーモア ★★★★★

 

 

死ぬ前の年、1981年のゴルドベルグ変奏曲。この時代になるとバッハをピアノで弾いたものは世の中にたくさんある状況。そしてそれを余裕で裏切る、1955年をさらに上回る個性を放っているグッ

 

 

 

これは貴重!! 若き時代のグールドとバーンスタインとの協演おねがい 

 

 

 

名曲聴き比べランキング第四弾キラキラ

 

この世で一番有名な曲!ベートーヴェン「交響曲 第5番」“運命”炎

 

 

この世に数ある曲の中でも、大作曲家であるベートーヴェンの『運命』は特別な曲。それは聴く側にとっても、もちろん演奏する側にとっても。

 

音楽として究極の完全体とも言える無敵の作品。指揮者にとっては、あまりに演奏されすぎている、そして知りすぎている音楽ということになるわけですが、そこにどう自分自身の音楽を組み込んでいくのか。他の曲とはまた違ったテーマがあると思います。

 

今回は大指揮者が全員集合!! 歴史に名のある指揮者はほぼ全員録音しているため、聴き比べランキングとしてはこれ以上ない題材。過去最大の42人、誰が指揮しているか分からない「ブラインド」で聴いていきます爆  笑


 

いよいよランキング、第20位から発表!!

 

 

第20位 アンドレ・クリュイタンス

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1958年録音ではあるものの古さを一切感じさせない。クリュイタンスといえばフランス系を代表する指揮者で、オーケストラはベルリンフィルであるものの、やはりドイツ系の指揮者とはだいぶ違うニュアンス。音楽センスは言うまでもなく、落ち着きを持ってゆったりと丁寧に進めていく。邪悪的な要素は薄く、不思議と心地よさのある「運命」。第2楽章はさすがの優雅さと美しさがある。好みはさておき、こういう違う方向からのアプローチは評価したい。

 

 

第19位 ブルーノ・ワルター

ニューヨーク・フィルハーモニック

 

 

1950年録音。正直、音の状態は正直あまり良くありませんが、ワルターらしい情熱とエネルギーに満ちた演奏。

 

 

第18位 ラファエル・クーベリック

バイエルン放送交響楽団

 

 

1969年録音。落ち着きを持ってゆったりと丁寧に進められていく。引き締まったサウンドとシャープさを兼ね備えた、いわゆる整ったタイプの「運命」。雰囲気は明るめ。

 

 

第17位 チョン・ミュンフン

ソウル・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

アメリカ的なサウンドと高い音楽センスを持つ名指揮者。ソウルフィルも基本的な部分のレベルの高さはもちろん、独特なサウンドはかなり魅力があり好印象。基本スタイルは落ち着きがあり、雰囲気は全体的に明るめ。

 

 

第16位 ベルナルト・ハイティンク

ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

 

 

1986年録音。聴き比べランキングでは毎度強さを発揮するハイティンク。センスの高さ、そして基本的な能力がきわめて高い本当の名指揮者だと思います。まさに超スタンダードなタイプの「運命」。

 

 

第15位 クラウディオ・アバド

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1987年録音。こちらも聴き比べランキングでは毎回かなり強いアバド。今さらながら本当に凄い指揮者だったんだなと思います。しっかりとはしているものの、心地よく聴ける、明るめで柔らかいタイプの「運命」。不思議と惹きつける魅力を持っているのはさすが。

 

 

第14位 エフゲニー・ムラヴィンスキー

レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

それぞ求めていた暗黒系の「運命」登場。1974年録音。演奏がたびたび揃わないのは全然いいとしても、やはりビートやリズムの不安定さは気になるところ。しかし、ドスっと胸に響く、まるで剣で突き付けられているかのような迫力あるサウンド、構成や展開はさすが ナイフ

 

 

第13位 レナード・バーンスタイン

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1977年録音。聴き比べランキングでは無類の強さを誇るバーンスタイン。いつも程ではないけれど、聴く人によってはやりすぎと思うかもしれない感情たっぷりな独自の世界観を埋め込んだ「運命」。冒頭はまだノーマル、そして徐々にバーンスタインらしさが出てくる。静かな部分の美しさや、音楽作りのセンス、展開はさすが。第2楽章の優雅さ?美しさはクリュイタンスに匹敵する。人それぞれ好みはあるかもしれないが、バーンスタインを聴くと最後には必ず「ありがとう」といいたくなる特別な感動がある拍手

 

 

第12位 ギュンター・ヴァント

ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団

 

 

1956年録音。ビシッと引き締まったサディスティック系「運命」。音の始まりだけでなく、音の終わりがここまで見事に揃うと、音楽に緊張感を与えるだけでなく、絶妙なビート感を生む(実際にはビート感を生むためにそうしている)。ヴァントらしいインテンポで容赦なく進んでいくが、心地よさを感じるのが不思議なところ。

 

 

第11位 サイモン・ラトル

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

2002年録音。聴き比べランキングには実はあまり入ってこないラトル。この演奏はかなり気合いが入っていて、シャキッとスッキリめではあるものの、躍動感にあふれ、かなりカッコいい「運命」に仕上がっている。テンポや表情、サウンドの変化やセンスも素晴らしい。私の個人的な好みを入れるならもっと順位を上げたかった。

 

 

第10位 ヘルベルト・フォン・カラヤン

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1982年録音。気合い十分!カラヤンのよさがギッシリ詰まった渾身の演奏。サウンドの豊かさと解放感に、バシバシとした激しさや推進力が絶妙にマッチしている。カラヤンの「運命」は録音数多いですが、聴いた中ではこの盤がNo.1。カラヤンはこの曲が得意だったのか!!と、かなりこだわりを感じられる演奏。

 

 

第9位 カルロス・クライバー

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1974年録音。「運命」で最も有名な名盤。気合い十分! センスも高く、切れ味と躍動感のある爽快さを持って、風を切っていくかのように進んでいく。特に第4楽章の解放的で華やかな楽しさは最高に素晴らしい。順位は予想よりも低めでしたが、この世にはこれよりもヤバい「運命」がいくつもあるのです......爆弾

 

 

第8位 ハンス・クナッパーツブッシュ

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

さっそくヤバいのがきました。1956年録音。一筋縄ではいかない強烈かつ別格の個性を放つ大巨匠。普段はおふざけが過ぎることが多いですが、今回は本気? 冒頭から超大型巨人(by進撃の巨人)のようなとてつもない重厚感とデカさ。テンポは当然遅い。そのテンポはもちろん、演奏が揃ってるとか合ってるとか、素晴らしいとかそうでないとか正直もうどうでもよくて、とにかくクナッパーツブッシュならではの圧倒的な個性とアイディア!! ハマりポイントを生み出す天才恐竜くん

 

 

第7位 ジョージ・セル

クリーヴランド管弦楽団

 

 

1966年録音。これは凄い、、フルトヴェングラーやミュンシュに匹敵する、圧倒的な激しさと推進力!! 徹底的に超インテンポで、ぶった斬っていくように進んでいくという、ここまでいくとある意味「異常さ」すら感じてしまう。しかし、何という気持ちよさ注意 カッコいい系というよりは、もはやマフィア的な「運命」

 

 

第6位 カール・ベーム

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1970年録音。落ち着いたタイプの「運命」は数あるけれど、ベームの手にかかると出来上がる音楽は次元が全く違う。普通そうで普通でない、とはこのこと。丁寧で落ち着き払ったようにじっくりと進め、ベームらしい立体的で多種多様な音楽が展開されていく。何か凄いのか?といわれると何も言えないのだが、何回も聴いていくとハマっていくタイプの大人な「運命」。あらためてベームの底力を感じる名演。

 

 

第5位 シャルル・ミュンシュ

ボストン交響楽団

 

 

1960年録音。日本刀でぶった斬っていく!! ミュンシュの代名詞でもある炎のような情熱とグルーヴ感あふれる超絶「運命」。全体的にテンポも速く、得意のテンポ変化も炸裂しているスピードやスリル、そして熱さを求めるなら間違いなくこの盤。

 

 

第4位 ゲオルグ・ショルティ

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1990年のライブ盤。百戦錬磨のショルティらしい躍動感と力強さ、スケールがありつつもキリッと引き締まったド真ん中の「運命」。ほとばしるような情熱的で勢いのある気持ちいいサウンド、ノリやテンポ変化、間の上手さもさすが。ショルティといえばホームでありランキング上位常連のシカゴ交響楽団だが、今回は珍しくウィーンフィル盤が上位に。

 

 

第3位 オイゲン・ヨッフム

バイエルン放送交響楽団

 

 

1959年録音。もしかしたらクナやセルを超えるヤバさかもしれない。ドイツの巨匠、穏やかでソフトなイメージがあるヨッフムだが、この録音ではインテンポで縦(リズムやビート)を重視したノリと鋭さがかなり強調されている。第1楽章の冒頭から、ある種の焦燥感を持ってスマートで芯のあるサウンドが迫力を持って展開されていく。それこそ真の正統、センスも抜群、さらに細部まで丁寧に徹底的に構築され、無駄な要素も一切無いという完璧さ。全楽章通じて変化や展開の幅も大きくなく、また重々しさも少なく、全体的に聴きやすいのも特徴。これこそカッコいい系「運命」の代表格ではないだろうか。第3位ではあるものの、第1位という人がいても同意したい。

 

 

第2位 オットー・クレンペラー

フィルハーモニア管弦楽団

 

 

1955年録音。冒頭は短剣で心臓をドスッと刺されたようなインパクトで始まる。得体の知れない重みのある鋼鉄感、暗黒に建つ巨大建築のような雰囲気。いわゆるこれが芸術的というのか、、しかし強烈な独創性やお茶目さがあるためなのか不思議と堅苦しくならないのがクレンペラーの真の凄さ。無駄を削ぎ落とした、太くて芯のあるサウンド、クナッパーツブッシュに匹敵するスケール感、それでいてもっさりもたれる感じは一切無い。第4楽章はとにかくクレンペラーの強みが凝縮されていて、ショルティやヨッフムのような上手さや見事さというより、もはや別の次元の音楽に仕上がっている。深みのある(男らしい)渋さを求めるならこの「運命」だろう。

 

 

第1位 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

 

1947年の戦後の演奏禁止から復帰した直後のライブ盤。クレンペラーやヨッフムのあとに、これを超えることはあるのだろうかと思っていたのだが。。十数年ぶりに聴いたフルトヴェングラーの「運命」、、全ての指揮者が霞んでしまうほどのあまりの壮絶さ炎 第1楽章は全ての言葉を無にしてしまう圧倒的な強さと邪悪さがあり、それゆえのオーボエ・ソロは灰のような風景が脳裏に焼き付くが、その後は破壊的な演奏は予想をさらに超えてしまうあまりの凄まじさ。第4楽章のラストは代名詞でもある強烈なアッチェレランドの激しさは息をするのも忘れてしまいます。録音状況を考えると決しておすすめできる盤ではありませんが、一度は聴くべき名演。

 

 

今回はどれもが超名盤ともいうべき、最高の名演ばかりでした。上位は予想どおり古い録音が多く、ショルティ、ベーム、バーンスタイン、アバドなどの常連の他、セル、クライバー、カラヤン、ムラヴィンスキー、アバド、ラトルと、、いつものランキングとはやや違った、名声順??のような結果になりました。。

 

オーケストラはベルリンフィルとウィーンフィルに偏っているのも特徴。この二つのオーケストラはベートーヴェンやドイツもの以外では聴き比べしても苦戦することが多いので、あらためてドイツ系の本流を得意とするオーケストラだということなのかもしれません。とはいえ、現代ではそれが当てはまるかというと微妙だと思いますが。

 

また、ベルリンフィルとの組み合わせで1955年付近から前の年代の録音の場合(ヨッフム、ベーム、クナッパーツブッシュなどがある)、出来上がる音楽が半分、フルトヴェングラー色になってしまっているという現象もありました。フルトヴェングラーの時代なので、当たり前といえばそうなのですが。

 

それともう一つ。世の中によくある一般的な指揮者の評価やランキングですが、どうやらベートーヴェンを基本に、しかも「運命」のような有名な曲を基準に決めているのではないか、ということに気づきました。。今さらですがウインク

 

このような新しい発見がいくつもあった「運命」の聴き比べでしたが、それはさておき、録音状態も含めて考えると、クラシック音楽を勉強するのであれば、セル,ベーム,ショルティ,ヨッフム,クレンペラーは絶対に聴くべきかと思いますグッ

 

 

【以下は参考までに】

 

ざっと聴いた1回目の。選外としたのは以下13人の指揮者。さすがの名曲であけりイマイチな演奏はほとんどありません。

 

朝比奈隆&大阪フィルハーモニー交響楽団

グスターボ・ドゥダメル&ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団

ニコラウス・アーノンクール&ヨーロッパ室内管弦楽団

アンタル・ドラティ&ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ネヴィル・マリナー&アカデミー室内管弦楽団

カルロ・マリア・ジュリーニ&ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団

チャールズ・マッケラス&ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団

ヘルベルト・ケーゲル&ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団

小澤征爾&ボストン交響楽団

ジョン・バルビローリ&ハレ管弦楽団

アンドレ・プレヴィン&ロンドン交響楽団

ウラディーミル・アシュケナージ&NHK交響楽団

アンドリス・ネルソンス&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

 

全体的な印象として、昔の巨匠(1950年代以前にも活躍した指揮者)は迫力と躍動感がありサウンドはダーク系、新しい巨匠(1960年以降に思い活躍した指揮者)は明るめで平和かつ整ったイメージが多い気がしました。もちろん、この傾向はこの曲だけに限ったことではありませんが。

 

2回目の試聴で惜しくも選外としたのは以下9人の指揮者。

 

リッカルド・シャイー&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団

ダニエル・バレンボイム&シュターツカペレ・ベルリン

セルジュ・チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団

マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団

クラウス・テンシュテット&ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

リッカルド・ムーティ&フィラデルフィア管弦楽団

レオポルド・ストコフスキーロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

 

★★

アルトゥーロ・トスカニーニNBC交響楽団

1945年録音。音質は悪いためどうしても聴きづらさがある。トスカニーニのベートーヴェンはもちろん悪いわけはないが、特別感のようなものやハマっている感が少ないため上位に食い込むのは難しかった。

 

★★

カール・シューリヒトパリ音楽院管弦楽団 

1949年録音。シューリヒトであってもベートーヴェンでは王道スタイル。テンポはいつもどおりの速めで進められ、冴えわたるキリリと引き締まったカッコいい系の「運命」。1953年のシュトゥットガルト放送交響楽団との録音もあり、こちらも全く劣らぬ名演。

 

エフゲニー・ムラヴィンスキー

Evgeny Aleksandrovich Mravinsky(1903-1988)

 

裏世界のラスボス

 

 

旧ソ連(ロシア)最大の指揮者であり、クラシック界における裏世界のラスボス的存在爆弾ムラヴィンスキー。

 

クラシック音楽は、ヨーロッパやアメリカを中心とした表の世界に対して、裏の世界があるとしたら、それは旧ソ連(ロシア)の音楽ということになるだろう。超メジャーなところでいえば、ピアニストのリヒテルやギレリスは若い時代に旧ソ連を主に活動したし、ロシアで学び若い頃から欧米を主に活動したホロヴィッツもいる。他にもヴァイオリニストのオイストラフ、チェリストのロストロポーヴィチ、作曲家ならハチャトゥリアンやプロコフィエフなどが挙げられる。

 

しかし、旧ソ連にどっぷりと浸かった音楽といえば、やはりショスタコーヴィチとムラヴィンスキーではないだろうか。ショスタコーヴィチの交響曲は多くの指揮者によって演奏されてはいるものの、この二人とレニングラードフィルの組み合わせによる演奏は「本家本流」というべき特別な空気感が漂っている。それは上手い下手とは全く別次元であり、歴史そのもの、もしくは絵画や彫刻、建築のような「変わらない芸術」なのかもしれない。

 

 

ショスタコーヴィチは1906年生まれのため、1903年生まれのムラヴィンスキーと同世代(むしろ立場上はやや偉い)。よくある作曲家と指揮者という関係よりも、主義や思想を共にした同胞のようなものなのかもしれない。

 

一流以上の指揮者は常任のオケと客演で欧米各地のオケを率いて演奏するのが普通だが、ムラヴィンスキーはほとんどレニングラードフィルのみとなり(その関係性は親と子達のような)、他の指揮者とは少し違う目線で聴く必要がある。

 

ムラヴィンスキーの演奏の特徴としては、やはり独特なサウンドがまず第一に挙げられる。「ムラヴィンスキーの音= 旧ソ連の音」といえばすぐに誰にでも何となく雰囲気が伝わるかと思うが、やはり暗さ、厳しさ、規律、繊細さといったイメージが付き纏う

 

そのような環境のため、音楽に垢抜けた雰囲気はなく、いわゆる「ダサかっこいい」。リズムやビートといった縦の部分については、最強クラスの指揮者と比べると劣り(さほど重視されていない)、これは「聴き比べ」をすると顕著に感じてしまう。

 

ムラヴィンスキーの最大の魅力は、爆発的なエネルギーが放射されるシーンだ。エネルギーを場面によってどうやってどのくらい解放するのか、そのコントロールのために音楽を構成していく。ためて、ためて、ドカーン!!炎 その解放が最大の時は圧巻としかいいようがない。

 

ショスタコーヴィチ以外の音楽についてはどうだろうか? 間違いなく最高クラスの指揮者であることは疑いようがないが、チャイコフスキーや他のロシアものは少なくともトップ10はあってもトップ5には入らないだろうし、ロシアもの以外についてはトップ20はあってもトップ10は難しいといったところが現実かもしれない。 

 

ショスタコーヴィチは15の交響曲を残しているが、まずは傑作かつ分かりやすい第5番、次に同じような理由で第7番、そして最高傑作の第10番と聴く。ここまで来たら次はぜひ第8番を聴いて欲しい。いい具合にイカれた感のある、これぞラスボス的な曲。この曲はムラヴィンスキーに捧げられ、1943年に初演されている。

 

 

 

では最後にランキングキラキラ

 

★★★★★(5/5)

 

リズム・ビート・グルーブ感 ★★

構成・展開力 ★★★★+

ダイナミクス・インパクト ★★★★★

美しさ・歌・センス ★★

緻密・繊細さ ★★★★

サウンド・音色・色彩感 ★★★★

カリスマ性 ★★★★★

魔力 ★★★★★

万能さ  ★★★

人気・ユーモア ★★★★+

 

 

ショスタコーヴィチ「交響曲 第5番」。1973年の東京ライブ録音