名曲聴き比べランキング第四弾
この世で一番有名な曲!ベートーヴェン「交響曲 第5番」“運命”
この世に数ある曲の中でも、大作曲家であるベートーヴェンの『運命』は特別な曲。それは聴く側にとっても、もちろん演奏する側にとっても。
音楽として究極の完全体とも言える無敵の作品。指揮者にとっては、あまりに演奏されすぎている、そして知りすぎている音楽ということになるわけですが、そこにどう自分自身の音楽を組み込んでいくのか。他の曲とはまた違ったテーマがあると思います。
今回は大指揮者が全員集合!! 歴史に名のある指揮者はほぼ全員録音しているため、聴き比べランキングとしてはこれ以上ない題材。過去最大の42人、誰が指揮しているか分からない「ブラインド」で聴いていきます
いよいよランキング、第20位から発表!!
第20位 アンドレ・クリュイタンス
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1958年録音ではあるものの古さを一切感じさせない。クリュイタンスといえばフランス系を代表する指揮者で、オーケストラはベルリンフィルであるものの、やはりドイツ系の指揮者とはだいぶ違うニュアンス。音楽センスは言うまでもなく、落ち着きを持ってゆったりと丁寧に進めていく。邪悪的な要素は薄く、不思議と心地よさのある「運命」。第2楽章はさすがの優雅さと美しさがある。好みはさておき、こういう違う方向からのアプローチは評価したい。
第19位 ブルーノ・ワルター
ニューヨーク・フィルハーモニック
1950年録音。正直、音の状態は正直あまり良くありませんが、ワルターらしい情熱とエネルギーに満ちた演奏。
第18位 ラファエル・クーベリック
バイエルン放送交響楽団
1969年録音。落ち着きを持ってゆったりと丁寧に進められていく。引き締まったサウンドとシャープさを兼ね備えた、いわゆる整ったタイプの「運命」。雰囲気は明るめ。
第17位 チョン・ミュンフン
ソウル・フィルハーモニー管弦楽団
アメリカ的なサウンドと高い音楽センスを持つ名指揮者。ソウルフィルも基本的な部分のレベルの高さはもちろん、独特なサウンドはかなり魅力があり好印象。基本スタイルは落ち着きがあり、雰囲気は全体的に明るめ。
第16位 ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1986年録音。聴き比べランキングでは毎度強さを発揮するハイティンク。センスの高さ、そして基本的な能力がきわめて高い本当の名指揮者だと思います。まさに超スタンダードなタイプの「運命」。
第15位 クラウディオ・アバド
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年録音。こちらも聴き比べランキングでは毎回かなり強いアバド。今さらながら本当に凄い指揮者だったんだなと思います。しっかりとはしているものの、心地よく聴ける、明るめで柔らかいタイプの「運命」。不思議と惹きつける魅力を持っているのはさすが。
第14位 エフゲニー・ムラヴィンスキー
レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
それぞ求めていた暗黒系の「運命」登場。1974年録音。演奏がたびたび揃わないのは全然いいとしても、やはりビートやリズムの不安定さは気になるところ。しかし、ドスっと胸に響く、まるで剣で突き付けられているかのような迫力あるサウンド、構成や展開はさすが
第13位 レナード・バーンスタイン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1977年録音。聴き比べランキングでは無類の強さを誇るバーンスタイン。いつも程ではないけれど、聴く人によってはやりすぎと思うかもしれない感情たっぷりな独自の世界観を埋め込んだ「運命」。冒頭はまだノーマル、そして徐々にバーンスタインらしさが出てくる。静かな部分の美しさや、音楽作りのセンス、展開はさすが。第2楽章の優雅さ?美しさはクリュイタンスに匹敵する。人それぞれ好みはあるかもしれないが、バーンスタインを聴くと最後には必ず「ありがとう」といいたくなる特別な感動がある
第12位 ギュンター・ヴァント
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団
1956年録音。ビシッと引き締まったサディスティック系「運命」。音の始まりだけでなく、音の終わりがここまで見事に揃うと、音楽に緊張感を与えるだけでなく、絶妙なビート感を生む(実際にはビート感を生むためにそうしている)。ヴァントらしいインテンポで容赦なく進んでいくが、心地よさを感じるのが不思議なところ。
第11位 サイモン・ラトル
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
2002年録音。聴き比べランキングには実はあまり入ってこないラトル。この演奏はかなり気合いが入っていて、シャキッとスッキリめではあるものの、躍動感にあふれ、かなりカッコいい「運命」に仕上がっている。テンポや表情、サウンドの変化やセンスも素晴らしい。私の個人的な好みを入れるならもっと順位を上げたかった。
第10位 ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1982年録音。気合い十分!カラヤンのよさがギッシリ詰まった渾身の演奏。サウンドの豊かさと解放感に、バシバシとした激しさや推進力が絶妙にマッチしている。カラヤンの「運命」は録音数多いですが、聴いた中ではこの盤がNo.1。カラヤンはこの曲が得意だったのか!!と、かなりこだわりを感じられる演奏。
第9位 カルロス・クライバー
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1974年録音。「運命」で最も有名な名盤。気合い十分! センスも高く、切れ味と躍動感のある爽快さを持って、風を切っていくかのように進んでいく。特に第4楽章の解放的で華やかな楽しさは最高に素晴らしい。順位は予想よりも低めでしたが、この世にはこれよりもヤバい「運命」がいくつもあるのです......
第8位 ハンス・クナッパーツブッシュ
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
さっそくヤバいのがきました。1956年録音。一筋縄ではいかない強烈かつ別格の個性を放つ大巨匠。普段はおふざけが過ぎることが多いですが、今回は本気? 冒頭から超大型巨人(by進撃の巨人)のようなとてつもない重厚感とデカさ。テンポは当然遅い。そのテンポはもちろん、演奏が揃ってるとか合ってるとか、素晴らしいとかそうでないとか正直もうどうでもよくて、とにかくクナッパーツブッシュならではの圧倒的な個性とアイディア!! ハマりポイントを生み出す天才
第7位 ジョージ・セル
クリーヴランド管弦楽団
1966年録音。これは凄い、、フルトヴェングラーやミュンシュに匹敵する、圧倒的な激しさと推進力!! 徹底的に超インテンポで、ぶった斬っていくように進んでいくという、ここまでいくとある意味「異常さ」すら感じてしまう。しかし、何という気持ちよさ カッコいい系というよりは、もはやマフィア的な「運命」。
第6位 カール・ベーム
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1970年録音。落ち着いたタイプの「運命」は数あるけれど、ベームの手にかかると出来上がる音楽は次元が全く違う。普通そうで普通でない、とはこのこと。丁寧で落ち着き払ったようにじっくりと進め、ベームらしい立体的で多種多様な音楽が展開されていく。何か凄いのか?といわれると何も言えないのだが、何回も聴いていくとハマっていくタイプの大人な「運命」。あらためてベームの底力を感じる名演。
第5位 シャルル・ミュンシュ
ボストン交響楽団
1960年録音。日本刀でぶった斬っていく!! ミュンシュの代名詞でもある炎のような情熱とグルーヴ感あふれる超絶「運命」。全体的にテンポも速く、得意のテンポ変化も炸裂している。スピードやスリル、そして熱さを求めるなら間違いなくこの盤。
第4位 ゲオルグ・ショルティ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1990年のライブ盤。百戦錬磨のショルティらしい躍動感と力強さ、スケールがありつつもキリッと引き締まったド真ん中の「運命」。ほとばしるような情熱的で勢いのある気持ちいいサウンド、ノリやテンポ変化、間の上手さもさすが。ショルティといえばホームでありランキング上位常連のシカゴ交響楽団だが、今回は珍しくウィーンフィル盤が上位に。
第3位 オイゲン・ヨッフム
バイエルン放送交響楽団
1959年録音。もしかしたらクナやセルを超えるヤバさかもしれない。ドイツの巨匠、穏やかでソフトなイメージがあるヨッフムだが、この録音ではインテンポで縦(リズムやビート)を重視したノリと鋭さがかなり強調されている。第1楽章の冒頭から、ある種の焦燥感を持ってスマートで芯のあるサウンドが迫力を持って展開されていく。それこそ真の正統、センスも抜群、さらに細部まで丁寧に徹底的に構築され、無駄な要素も一切無いという完璧さ。全楽章通じて変化や展開の幅も大きくなく、また重々しさも少なく、全体的に聴きやすいのも特徴。これこそカッコいい系「運命」の代表格ではないだろうか。第3位ではあるものの、第1位という人がいても同意したい。
第2位 オットー・クレンペラー
フィルハーモニア管弦楽団
1955年録音。冒頭は短剣で心臓をドスッと刺されたようなインパクトで始まる。得体の知れない重みのある鋼鉄感、暗黒に建つ巨大建築のような雰囲気。いわゆるこれが芸術的というのか、、しかし強烈な独創性やお茶目さがあるためなのか不思議と堅苦しくならないのがクレンペラーの真の凄さ。無駄を削ぎ落とした、太くて芯のあるサウンド、クナッパーツブッシュに匹敵するスケール感、それでいてもっさりもたれる感じは一切無い。第4楽章はとにかくクレンペラーの強みが凝縮されていて、ショルティやヨッフムのような上手さや見事さというより、もはや別の次元の音楽に仕上がっている。深みのある(男らしい)渋さを求めるならこの「運命」だろう。
第1位 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
1947年の戦後の演奏禁止から復帰した直後のライブ盤。クレンペラーやヨッフムのあとに、これを超えることはあるのだろうかと思っていたのだが。。十数年ぶりに聴いたフルトヴェングラーの「運命」、、全ての指揮者が霞んでしまうほどのあまりの壮絶さ 第1楽章は全ての言葉を無にしてしまう圧倒的な強さと邪悪さがあり、それゆえのオーボエ・ソロは灰のような風景が脳裏に焼き付くが、その後は破壊的な演奏は予想をさらに超えてしまうあまりの凄まじさ。第4楽章のラストは代名詞でもある強烈なアッチェレランドの激しさは息をするのも忘れてしまいます。録音状況を考えると決しておすすめできる盤ではありませんが、一度は聴くべき名演。
今回はどれもが超名盤ともいうべき、最高の名演ばかりでした。上位は予想どおり古い録音が多く、ショルティ、ベーム、バーンスタイン、アバドなどの常連の他、セル、クライバー、カラヤン、ムラヴィンスキー、アバド、ラトルと、、いつものランキングとはやや違った、名声順??のような結果になりました。。
オーケストラはベルリンフィルとウィーンフィルに偏っているのも特徴。この二つのオーケストラはベートーヴェンやドイツもの以外では聴き比べしても苦戦することが多いので、あらためてドイツ系の本流を得意とするオーケストラだということなのかもしれません。とはいえ、現代ではそれが当てはまるかというと微妙だと思いますが。
また、ベルリンフィルとの組み合わせで1955年付近から前の年代の録音の場合(ヨッフム、ベーム、クナッパーツブッシュなどがある)、出来上がる音楽が半分、フルトヴェングラー色になってしまっているという現象もありました。フルトヴェングラーの時代なので、当たり前といえばそうなのですが。
それともう一つ。世の中によくある一般的な指揮者の評価やランキングですが、どうやらベートーヴェンを基本に、しかも「運命」のような有名な曲を基準に決めているのではないか、ということに気づきました。。今さらですが
このような新しい発見がいくつもあった「運命」の聴き比べでしたが、それはさておき、録音状態も含めて考えると、クラシック音楽を勉強するのであれば、セル,ベーム,ショルティ,ヨッフム,クレンペラーは絶対に聴くべきかと思います
【以下は参考までに】
ざっと聴いた1回目の。選外としたのは以下13人の指揮者。さすがの名曲であけりイマイチな演奏はほとんどありません。
△
朝比奈隆&大阪フィルハーモニー交響楽団
▲
グスターボ・ドゥダメル&ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団
ニコラウス・アーノンクール&ヨーロッパ室内管弦楽団
アンタル・ドラティ&ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
ネヴィル・マリナー&アカデミー室内管弦楽団
カルロ・マリア・ジュリーニ&ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
チャールズ・マッケラス&ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
ヘルベルト・ケーゲル&ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
○
小澤征爾&ボストン交響楽団
ジョン・バルビローリ&ハレ管弦楽団
アンドレ・プレヴィン&ロンドン交響楽団
ウラディーミル・アシュケナージ&NHK交響楽団
アンドリス・ネルソンス&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
全体的な印象として、昔の巨匠(1950年代以前にも活躍した指揮者)は迫力と躍動感がありサウンドはダーク系、新しい巨匠(1960年以降に思い活躍した指揮者)は明るめで平和かつ整ったイメージが多い気がしました。もちろん、この傾向はこの曲だけに限ったことではありませんが。
2回目の試聴で惜しくも選外としたのは以下9人の指揮者。
●
リッカルド・シャイー&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
ダニエル・バレンボイム&シュターツカペレ・ベルリン
セルジュ・チェリビダッケ&ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
マリス・ヤンソンス&バイエルン放送交響楽団
★
クラウス・テンシュテット&ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
リッカルド・ムーティ&フィラデルフィア管弦楽団
レオポルド・ストコフスキー&ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
★★
アルトゥーロ・トスカニーニ&NBC交響楽団
1945年録音。音質は悪いためどうしても聴きづらさがある。トスカニーニのベートーヴェンはもちろん悪いわけはないが、特別感のようなものやハマっている感が少ないため上位に食い込むのは難しかった。
★★
カール・シューリヒト&パリ音楽院管弦楽団
1949年録音。シューリヒトであってもベートーヴェンでは王道スタイル。テンポはいつもどおりの速めで進められ、冴えわたるキリリと引き締まったカッコいい系の「運命」。1953年のシュトゥットガルト放送交響楽団との録音もあり、こちらも全く劣らぬ名演。